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召喚アトランダム  作者: 北瀬野ゆなき
【第二章】魔族猛襲編
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第40話:決着、そして……

「もちろん、まだやれます!」


 続けるかと問うレオノーラに勇んで返したものの、玲治に打つ手が無いという事実は変わらない。

 間合いの制し合いで遅れを取り、魔法の撃ち合いでも不利なのは確実。挙句の果てに、素手で剣を弾くという圧倒的な力量差が無ければ不可能な業を見せ付けられた。戦闘経験で遥かに劣っているのは、間違いない。

 先日、ミリエスに敗北した時と同じように、手も足も出ない焦燥感が玲治を襲う。


(いや、それでも今日は勝ったんだ。それならこの試合だって……)


 先日は手も足も出なかったミリエスに今日は勝てた。ならば、同じように絶望的な力量差であっても乗り越えられないことは無い筈だ。

 せめて、その糸口だけでも見付けたい。

 先程のミリエスとの試合では、彼女の精密な魔法制御を乱すことによって勝利を得た。しかし、現在の対戦相手であるレオノーラは魔法を補助的にしか使用していないため、その手は使えない。


(他に、他に何か手は無いか……)


 攻め手に迷う玲治に向かい、レオノーラは怪訝そうに問い掛ける。

 戦闘続行の意志を示したわりに、玲治が一向に動こうとしなかったためだ。


「どうした? やれるのではなかったのか?」


 問われても、玲治は動けない。まだ、勝利の糸口が見付かっていない。

 しかし、その様子を見たレオノーラは嘆息して大剣を構えた。


「ふぅ、口だけだったか。

 ミリエスのマリオネットを打ち破ったように、何か魅せてくれることを期待したのだがな。

 少々残念だが、それなら……さっさと終わらせることにしよう!」


 その言葉と同時に、レオノーラはなんと大剣を片手で振り被り、もう片方の手で炎を生み出した。


「!?」


 先程までは小回りの利かない大剣によって生じる隙を埋めるために用いていた火魔法を、攻撃に回して来たのだ。勿論、それは玲治が反撃に出れば隙を突かれる恐れがある戦法だが、レオノーラはこのまま一気に勝負を着けるつもりなのだろう。

 それは、玲治が攻め手に迷っている状態であることを見抜いた上で、押し切れるという判断だ。


 一方の玲治は、戦法が定められていないうちに攻勢に出られ、焦りばかりが募った。反射的に一歩後ろに下がってしまう。


「ハァッ!」


 レオノーラが左手の炎を放ちながら、同時に前に踏み込む。

 炎を打ち落とせばその隙を突かれて大剣を喰らうだろう。かわしたところで、同じことだ。


(駄目だ! かわせない!)


 反射的に手に持った剣で炎を迎撃する玲治。しかし、直後に襲い掛かる大剣への対処は間に合わない。


(何か……剣を防ぐものさえあれば……!)


 硬直して反応出来ない玲治に向かって、大剣が振り下ろされる。レオノーラは勿論寸止めするつもりではいるが、その迫力は本物だった。

 恐怖に思わず瞑りそうになる目を必死に見開き、玲治は目の前の炎の女魔王を見据える。


 レオノーラはその玲治の目を見て、敗北直前の状況でありながら彼がまだ諦めていないことを悟った。


(しかし、これをどう防ぐ?

 ──────ッ!?)


 玲治の目から窺える戦意を見て警戒を怠らなかったことが功を奏したか、レオノーラは視界の横に僅かに映った炎を見て反射的に身を引いた。

 間一髪のところで回避が間に合い、目の前を炎が左から右へと轟音を立てながら通過していった。


「な、何だ!?」


 更に後方にバックステップをして距離を取り、今彼女を横から攻撃しようとした何かを見る。

 一定の距離を置いたことで全容が視界に映り、レオノーラはそれが何かを理解した。


「炎の……腕だと?」


 そう、それは炎の腕と称する以外にないものだった。玲治の右肩から炎が噴き出して腕状の形を取っていたのだ。

 先程、レオノーラを攻撃したのもその腕で間違いないだろう。


「まさか……私のマリオネットを!?」


 離れた位置で観戦しているミリエスが驚きの声を上げた。

 確かに腕一本のみとはいえ、その姿は彼女のフレイム・マリオネットに酷似している。


「成程、この状況を打ち破るには良い手かも知れん。

 だが……諸刃の刃だな」

「ぐうぅ……」


 レオノーラの言葉に、玲治は返答する余裕もない様子だった。その表情は苦痛に歪んでいる。

 その理由は、肩から突き出した炎の腕だ。ミリエスのフレイム・マリオネットは火魔法を制御して人型を模って戦わせるというものだが、炎は炎だ。たとえ術者であったとしても、熱を感じないわけではない。

 それ故に、ミリエスは自身が焼かれないように一定の距離を置いて現出させていた。

 一方の玲治は身体から直接炎の腕が突き出している。それはミリエス程に制御能力が無い故の苦肉の策だったのだが、同時に自ら生み出した炎に身を焼かれることになる。

 玲治のこの行動は、自爆にも等しい戦闘法だった。


「まぁいい。その戦意に敬意を表して、前に出るとしよう」


 戦いを引き延ばせば、玲治は自滅する。それを理解しながらも、レオノーラは前に出て戦うことを選択した。

 玲治の炎の腕はミリエスのマリオネット同様に実体が無い故に防ぐことが出来ない筈だ。しかし、レオノーラはそれすら問題無しと断じた。


「この短期間で成長したお前の才能は大したものだ。

 このまま行けば、一年も経つ頃には私を超えているかも知れんな。

 だが……」


 言葉と共に、レオノーラは大剣に炎を纏わせた。


「今はこの敗北を心に刻み、沈むがいい。

 より強くなって再戦出来ることを心待ちにしているぞ」


 不敵に笑いながら、レオノーラはこれまでよりも一段と力強く炎を纏った大剣と共に前へと跳んだ。


「くっ!」


 玲治は激痛に飛びそうになる意識を必死に繋ぎとめながら、炎の腕と剣を同時に振るってレオノーラの大剣に対抗しようとした。

 射程距離の長い炎の腕の方が先に伸びる。しかし、レオノーラの大剣に当たった瞬間に炎の腕は膨張したかと思うと、弾け飛んだ。


「うわあ!?」


 それは、先程の戦闘で玲治がミリエスにやったことの焼き回し。大剣に纏わせた炎を用い、レオノーラが玲治の制御を乱したのだ。


「お前程器用に色々な属性を操ったりは出来んがな。

 炎の扱いであれば負けんよ」


 弾けた炎は至近距離から二人を襲うが、それを予想していたレオノーラは一切怯むことをせずに大剣を振り切る。

 一方の玲治も剣を振るっていたが、炎に襲われてその剣筋に乱れが生じた。

 それ故に、その結果は必然だったのだろう。


 玲治の持っていた運任せの剣が弾き飛ばされて宙を舞い、斜め後方の離れた位置で床に突き刺さる。

 レオノーラの持つ大剣は、玲治の首筋ギリギリのところで止められた。大剣に纏った炎の熱が玲治の首をジリジリと脅す。


 その状況に、玲治も認めざるを得なかった。


「参りました」




 ◆  ◆  ◆




「まったく、無茶をし過ぎです!」

「すみません……って、痛たたた!?」

「大丈夫ですか? レージさん」


 試合を終えて、オーレインとテナから治療を受ける玲治。負傷としては炎の腕を現出させていた肩の火傷が一番大きく、それ以外は軽い火傷で済んでいた。

 一番の傷が自らの技による自滅という時点で、彼の採った戦闘法が如何に無茶だったかがよく分かる。そのことについて怒りを露わにするオーレインに、玲治は恐縮するしかなかった。

 怒りの中に心配そうにする様子が見え、申し訳なさが募る。


「手当ての方は済んだか?」

「あ、レオノーラさん」

「はい。もう大丈夫です」


 別の場所で同じように手当てをしていたレオノーラが、彼らの元へと近付いてきた。その横には四天王の四人も居る。


「さて、レージ」

「は、はい!?」

「私との試合では私が勝ったとはいえ、その前の約束事は違えるつもりはない。

 四天王の一角であるミリエスに勝った以上、お前の実力については認める。

 これで、闇神様の試練は達成と言えるだろう」

「あ……」


 レオノーラとの試合に関しては、試練の対象外とすることについては先に約束した通りだが、それを聞き玲治は安堵の声を上げた。

 事前の約束通りとはいえ、負けたからにはやはり実力は認められないと言われるかも知れないと、内心戦々恐々としていたのだ。


「良かったですね、レージさん!」

「おめでとうございます!」

「カァー」

「ああ、ありがとう」


 仲間達の祝福に、頬を掻きながら感謝を告げる玲治。

 しかし、次の瞬間ふと不安を覚えてレオノーラへと向き直り質問を上げた。


「あ、でも……試練を達成したってどうやって証明すればよいのですか?」

「闇神様はこの世界の管理者の一柱だ、既にこのこと自体は把握されていることだろう」

「そうなんですか?」




『称号「闇の達成者」を獲得しました』

『スキル「昇華の階梯〜闇〜」を取得しました』




「え?」

「どうした?」


 唐突に何処からともなく聞こえてきた声に、玲治は思わず疑問の声を上げた。

 しかし、他の者にはその声は聞こえなかったらしく、皆不思議そうに玲治の顔を見ていた。


「いえ、今何かの声が……」


 玲治が説明すると、レオノーラ達は納得の声を上げた。それどころか、一部の者からは感嘆も聞こえてくる。


「成程、それは先程私が言った通り闇神様がお前の試練達成を認められたということだろう。

 言っておくが、魔族から見れば非常に名誉なことだぞ」

「はぁ……」


 そうは言われても、魔族どころかこの世界の者ではない玲治には有難みが分からない。

 それに気付いたのか、レオノーラも一つ咳払いをして話を変えた。


「ところで、これで正式に試練達成となったわけだが、これからどうするのだ?」

「どうすると言われても……」


 玲治はその言葉に此処に来る切っ掛けだった邪神からの手紙を思い出す。

 彼が元の世界に帰るための条件はこの世界を管理する三柱からの試練を乗り越えること。

 闇神の試練はこうして達成出来たわけなので、残る二柱の試練に挑戦しなければならない。


「次の試練って、どうやって伝えられるんだろうな?」

「また、手紙が届くのでしょうか?」


 次の行動が決まらず、頭を悩ませる玲治一向。

 しかしその時、オーレインの背負う聖弓が突然強い光を放ち始めた。


「な!?」

「こ、これは……?」


 その場の全員の注目が集まる中、オーレインは聖弓を背から外すと耳を押し当てた。


「……なるほど、かしこまりました」

「オーレインさん?」

「聖弓を通して聖女神ソフィアさまよりのお告げがありました。

 レージさん、貴方への次の試練について、聖女神様直々に説明してくださるそうです」

「え!?」






 闇神の試練を辛うじて達成した玲治達に、新たな試練が降り掛かる。

 次なるは光神からの試練。

 力だけでは乗り越えられぬ、厄介な難題が玲治達の前に立ちはだかる。

第二章完。

次話から第三章に入ります。


<登場人物から一言>

人形「タダイマー」

レオノーラ「……おかえり」

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