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召喚アトランダム  作者: 北瀬野ゆなき
【第二章】魔族猛襲編
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第36話:開花

「今日は地魔法か火魔法の指導でしたよね?」

「ええ、火魔法は明日以降に回して本日は地魔法にするつもりなのですが……」


 玲治の問いに答えるレナルヴェだが、その口振りには何処か引っ掛かる様子が見受けられた。


「何か問題でもあるんですか?」

「いえ、地魔法の指導を担当する者がちょっと……。

 優秀ではあるのですが、その、何と言いますか性格的に問題がありまして」

「はぁ……」


 仮にも客として滞在している玲治達としては、その言葉を肯定するわけにもいかず、微妙な表情となる。


「ああ、ご心配なく。

 陛下からの厳命もありますし、私の方から釘は刺します」


 微妙な表情になる玲治を見て、レナルヴェは慌ててフォローをする。

 しかし、その後振り返って思わずと言わんばかりに呟いた。


「それに、それでも火魔法の担当者よりはマシでしょうし」

「え?」


 何とも不吉な言葉を残して先に進むレナルヴェを、玲治とテナとオーレインは顔を見合せながら追い掛けた。




 ◆  ◆  ◆




「フンッ、何で俺様がこんな奴らの面倒みなくちゃならねぇんだよ」


 レナルヴェに連れられて辿り着いた昨日と同じ屋外の訓練場で玲治達を待っていたのは、体格の良い壮年の魔族の男だった。

 短い髪を逆立たせたその男は、玲治の方をチラッと見ながらレナルヴェに向かって悪態を吐いた。


「陛下のご命令だからです。

 彼らのことは賓客として持て成すようにと聞いているでしょう?

 言葉遣いは仕方ないとしても、失礼の無い態度を取るようにしてください」

「賓客……こいつらがねぇ」


 男は改めて玲治達の方を見る。

 玲治の顔を興味の無さそうな感じで一瞬だけ見て、そのまま隣に居るオーレインの顔を見る。そして、視線が顔よりも下に向く。とある部分を見て鼻で嘲笑った男に、オーレインの額に青筋が浮かんだ。

 次に男の視線はオーレインの隣に居るテナへと向かい、同じように下を見る。今度は興味を惹いたらしく、下卑た笑いが男の口元に浮かんだ。


「へぇ?」


 露骨な視線に居心地が悪くなったのか、テナが顔を赤らめながら手を挙げて胸元を隠すように覆う。しかし、男はそんな仕草に逆に楽しげに笑った。


「改めて言っておきますが……」


 そんなテナの様子を見て、冷たい言葉が男へと投げ掛けられた。男を睨み付けるレナルヴェが放った言葉だ。そこに込められた静かな殺気に、心なしか周囲の気温が下がったようにすら思える。


「彼らに失礼のないように。

 場合によっては、私が相手をしてあげても良いのですよ」


 剣に手を掛けては居ないものの、事と次第によってはすぐさま抜けるように構えるレナルヴェ。

 笑みを消して彼としばらく睨み合った男だが、やがて折れたのか力を抜いて不貞腐れたような声を上げた。


「へぇへぇ、分かった分かった。そんな凄むんじゃねぇよ」

「それで良いのです。

 ああ、玲治さん、オーレイン嬢、テナ嬢。申し訳ありませんでした。

 この男が本日の地魔法の指導を行う担当者で、四天王の剛地鬼イジドです」

「俺様がイジド様だ。

 忙しい中面倒見てやるんだから、感謝しやがれ」


 地を司る四天王、剛地鬼イジドの言葉に、玲治は若干の不安を浮かべながら、オーレインは怒りの表情で、テナは少し怯えながら、それぞれ頷いた。


「は、はい。よろしくお願いします」

「……お願いします」

「お、お願いします」




 ◆  ◆  ◆




「まぁ、こんなもんか」


 しばらくして、玲治達に地魔法の基礎的な扱いの指導を一通り行ったイジドはそう告げる。

 その瞬間、オーレインとテナはがっくりと地面に突っ伏した。


「はい、ありがとうございます」

「………………ふぅ」

「はぁ……はぁ……」


 玲治は比較的まだ余力を残していたが、残りの二人は肩で息をしている。

 イジドはこんなものかと言っていたが、実際にはかなりのハイペースであり少女達にとってはキツイものだった。それに着いて行ける玲治がむしろ異常であり、レナルヴェはその光景を見て昨日の思いを新たにする。

 なお、指導中何度かイジドの手がテナの胸元やオーレインの臀部に伸びそうになったが、その都度レナルヴェの咳払いが飛んで事なきを得た。


「さてと、んじゃ最後の課題といくか」

「最後の課題、ですか?」

「おおよ、コイツを倒してみな。

 ああ、魔法以外は使うんじゃねぇぞ」


 そう言うと、イジドは地面に手を翳す。すると、その下の土が盛り上がって人の背丈以上の盛り上がりとなった。グネグネと蠢いていた土は、やがてその形を人型へと変えてゆく。


「そ、それは……あの子のフレイム・マリオネットと同じ!?」


 その光景は火と土という違いこそあれど、先日玲治が敗北したミリエスの使用するゴーレムと極めて似ていた。


「ちげえよ! こっちが本家本元だ!」

「元々、ゴーレムというのは地魔法の得意分野です。

 ミリエスのフレイム・マリオネットはイジドのゴーレムを参考に彼女が編み出したのですよ」

「そうだったんですね……分かりました、やります!」


 相手が異なるとはいえ、先日の戦いを彷彿とさせる相手に、玲治のボルテージも上がってゆく。


「この戦いは一人でやらせてください」

「は、はい」

「わ、分かりました」


 テナとオーレインにそう告げると、彼女達は素直に後ろに下がった。元々二人が指導に参加しているのはあくまでついでであって、これは玲治のための特訓であるためだ。

 勿論それだけではなく、玲治の表情が常より真剣だったことも挙げられる。


 魔法以外は使用禁止という話なので、玲治の手持ちは光魔法、水魔法、風魔法、そして覚えたての地魔法だ。

 通常であれば一流の魔導士でも実戦に使用出来るだけの魔法が使えるのは属性二つが限界だが、彼の習得の早さは尋常ではなく習った全ての魔法をかなりのレベルで使うことが出来た。

 それがどれだけ異常なことかを理解しているのは、この場ではレナルヴェとオーレインだけだ。


「それじゃ、始めるぜ!」

「はい」


 イジドの掛け声と同時に、土で作られたゴーレムが玲治へと向かって殴り掛かってくる。

 その動きは鈍重そうな外見とは裏腹に、かなりの速さだった。

 しかし、玲治が右手を向けるとその動きが急激に鈍くなり、余裕をもって回避出来るくらいのものとなった。


「あ? テメェ、何しやがった!?」

「まさか、イジドのコントロールに干渉したのですか!?」


 玲治が行ったのは、イジドが行っているゴーレムの操作に自身の地魔法で干渉し妨害するという荒技だ。勿論、他人の魔力によって作られたゴーレムを完全に干渉することは極めて難しい。いくら玲治の魔法習得が異常に早いとはいえ、地魔法の習熟についてはイジドにかなりのアドバンテージがある。これがもし実力的に劣る相手であればゴーレム・クリエイトを解除して土に戻すことが出来たかも知れないが、現時点の玲治がイジドのゴーレムを崩すことは出来ない。

 しかし、操作に介入して妨害する程度であれば今の玲治でも可能だった。


「しゃらくせぇ真似しやがって!」


 自慢のゴーレムに対して行われた妨害に、イジドは一層奮起して操作に力を籠める。こうなると、最早習熟度で劣る玲治ではゴーレムを止めることは出来ない。

 しかし、動きが鈍ってる間に距離を稼いだ玲治は、向かってくるゴーレムに対して腕を振るう。そこから、目に見えない風の刃が放たれ、ゴーレムに大きく傷を付けた。


「ハッ、甘えよ!

 ゴーレムは土さえあれば幾らでも再生出来るんだぜ」


 そうイジドが告げると、その言葉を証明するようにゴーレムの傷が見る見るうちに塞がってゆく。傍目には分かり難いが、足元から土を補充して傷口を塞いでいるのだろう。

 この場は屋外の訓練場であり、足元には幾らでも土がある。これではどれだけ玲治が奮闘したところで、傷が修復されてしまうことになる。


「勝負あったな!」


 既に勝負は着いたと見て、余裕そうな表情を見せるイジド。一方の玲治は諦めている様子はなく、何かを狙うようにゴーレムを睨み付ける。


「あ? まだ足掻く気かよ?

 まぁいい、そんならとことんやってやるよ」


 イジドは呆れたような口振りで再びゴーレムを嗾ける。

 玲治はそのゴーレムの攻撃を風魔法を使って推進力を向上させながらかわし続けた。


「おら、どうしたどうした!?

 逃げ回ることしか出来ねえのかよ?」


 攻撃を一切せずに逃げ続ける玲治に、イジドが嘲るような言葉を飛ばす。

 それが耳に入ったのか、玲治は動き回るのをやめてゴーレムを待ち受ける姿勢を取った。


「漸く観念しやがったか。

 まぁ、俺様のゴーレムを相手にこれだけもったんだ。

 試験は合格ってことにしといてやるから、安心してぶっ倒れな」


 足を止めた玲治に向かって、ゴーレムがこれまでよりも早い突撃を仕掛ける。

 玲治は迫り来る脅威に対して、先程と同じように手を振るった。

 再度風の刃がゴーレムを襲い、右腕を飛ばし胴体にも深く傷を付ける。

 しかし、ゴーレムは土さえあれば魔力の続く限り何度でも再生出来る。


「無駄だと言ったろうが! ……あん?」


 イジドが再びゴーレムを再生させようとするが、思わぬ手応えに不審そうな声を上げた。

 先程と異なり、魔力を籠めてもゴーレムが再生しないのだ。


「一体どうなってやがる!?」


 思い通りにいかないことに苛立ちの声を上げるイジド。

 が、良く見ると先程と異なりゴーレムの立つ地面の様子がおかしいことに気付いた。


「な!? 地面が凍ってやがる!? テメェのしわざか!」


 そう、ゴーレムの立っている足元に氷が張っていたのだ。それにより、足元からの土の補充が出来ず、ゴーレムの再生が阻害されていた。


「こんなもん、氷を蹴散らせばすぐに……」


 ゴーレムを操作して足元の氷を取り除こうとするイジドだが、それをみすみす見逃す程玲治はお人好しではなかった。

 再び腕を振ると、今度は左腕が飛ぶ。次に両脚を切り裂かれてゴーレムは地響きと共に凍り付いた地面へと倒れ込む。

 四肢を奪われたゴーレムに向かい、玲治は上から下へと腕を振り降ろし、その脳天を二つに切り裂いた。

 やがて、形を完全に損なわれたゴーレムは土へと還っていった。


「これで合格ですよね?」

「チッ、勝手にしやがれ」


 見事にゴーレムを破壊されてしまったイジドは、それ以上の言葉を口にすることなく立ち去っていった。


「お疲れ様です、レージさん」

「お疲れ様でした」

「カァー」


 試験に合格した玲治に、テナとオーレインが駆け寄る。

 その光景を、レナルヴェは鋭い視線で見詰めていた。

<登場人物から一言>

イジド「……フンッ」

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