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召喚アトランダム  作者: 北瀬野ゆなき
【第二章】魔族猛襲編
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第35話:異常な才

 ヴィクトのスパルタ講義で疲労困憊となった玲治達が倒れ込むように眠りに就いた翌日、眠気を必死に堪えながら起床した彼らを待っていたのは次の指導を何喰わぬ顔で告げるレナルヴェの姿だった。


「さて、本日は『風』の指導です。

 不詳この私が講師を務めさせて頂きます」

「………………」

「………………」

「………………」

「………………」

「おや? どうかされましたか?」


 昨日、ヴィクトの鬼講義から玲治達を置いて逃げたレナルヴェに、三人と一羽からジト目が突き刺さる。しかし、レナルヴェは動じない。昨日の今日なので彼も玲治達が何故イラッとしているかは理解出来ているだろうが、流す方向で対処するつもりのようだ。


「いえ、べつに」

「なんでもないです」

「……薄情者」


 そんな彼の様子を見て、玲治達も諦めたように追及の視線を止めた。

 実際のところ、仮にレナルヴェがあの場に残った所で何も変わらなかったことだろう。単に犠牲者が一人増えただけの話だ。それは、彼らにも理解出来ている。

 ただ、地獄の講義に誘導しながら自分達を見捨てて一人だけ難を逃れたレナルヴェに対して、釈然としない想いがあっただけの話だ。

 しかし、レナルヴェは元々講義を受ける側の者ではないため、受けなかったことを批難するのも不合理であると言える。


「問題ないようでしたら、早速本日の指導のために場所を移しましょう」




 ◆  ◆  ◆




 レナルヴェが玲治達を案内したのは、屋外の訓練場だった。

 昨日と異なり座学の講義を行う様相ではないことに、三人と一羽はあから様にホッとした表情になる。


「今日は勉強ではないのですね」

「座学については昨日ヴィクトが粗方講義してくれたと思いますので、

 本日の指導は理論よりも実践を主にするつもりです」

「なるほど……良かったです」


 レナルヴェの回答に、テナは胸を撫で下ろす。


「昨日お伝えした通り、私が指導するのは風魔法と魔法を使用した近接戦闘についてです。

 地魔法もそうですが、風魔法はフィールドが重要な要素となりますので、屋外の訓練場にご足労頂きました」

「フィールド、ですか?」

「ええ、火魔法や水魔法がそれぞれ『生み出す』ことをメインとしているのに対して、

 風魔法や地魔法は既に存在するものを『操る』ことをメインとしています。

 それゆえ、風の無い屋内よりも屋外の方がやり易いのですよ」


 勿論、屋内でも大気が存在する以上使えないわけではないですが、と補足するレナルヴェに、三人は納得する。

 今の天候は強風というわけではないが適度に風が吹いており、風の存在を明確に感じることが出来る。

 玲治達は自然と両手を掲げて吹き付ける風を身体で感じるような体勢を取った。


「そう、まずはそのように風を感じてください。

 先程、私は風魔法と地魔法は双方同じように存在するものを『操る』と言いましたが、大きな違いが一つあります。

 それは、大地は見ることが出来ても、風は見えないということです」


 そこまで言うと、レナルヴェは玲治達を一度見回した。

 彼らが各々風を身体で感じていることを確認すると、続きを話し始める。


「ゆえに、まずは風の存在を感じることが肝要です。

 そして、風を感じたなら両手から魔力をその風に混ぜるような感覚で放出してください」


 レナルヴェの指示に、玲治は目を閉じて自身の中の魔力の流れと手に触れる風の流れを繋げるようなイメージを作り出す。


「手を人の居ない方向に掲げ、風と混ざり合った自身の魔力を押し出すことをイメージしてください」


 玲治とテナとオーレインはそれぞれ横並びになって、手を誰も居ない方向へと向ける。

 テナの手からはそれなりに強い風が前方に飛んだ。オーレインの手から吹いたのは微風と呼ぶべきささやかな風だった。

 一方、玲治の手からは……炎の竜巻が噴き出した。


「うわあ!?」

「きゃあああぁぁぁ!?」

「ちょ、玲治さん!?」

「カァー!?」


 至近距離で突然予想もしていなかった炎が発生したことに、テナとオーレインは堪らず悲鳴を上げる。

 それは、炎の竜巻を放っている玲治本人も例外ではない。


「ハッ」


 一方で、彼ら三人よりも後方で様子を見ていたレナルヴェは、一瞬驚くも素早く玲治に掛け寄って彼の手を掴んで固定する。今の状態で玲治が腕を左右に動かすと、テナやオーレインが危険だからだ。

 そのまま、玲治の手から放たれている風に干渉し、相殺する。

 どうやら、風魔法と火魔法が同時に放たれていたらしく、レナルヴェの干渉によって竜巻が止まり、火だけが噴き出すことになった。その火もやがて小さくなり止まる。


「ふぅ」


 収まったと見て、レナルヴェが嘆息しながら掴んでいた玲治の腕を放した。

 訓練場の地面が炎の竜巻で激しく抉れているが、レナルヴェの的確な対処もあってそれ以外に大きな被害は無かった。


「す、すみません。助かりました」

「いえ、それは構わないのですが……今のがお話されていたオート魔法ですか?」

「はい、ランダムに魔法が飛び出して来るんです……」

「なるほど、しかし今のは……」


 玲治の答えに、レナルヴェは何やら考え込む。


「? どうかしましたか? レナルヴェさん」

「いえ、何でもありません。

 それよりも、今後はテナ嬢やオーレイン嬢とは少し離れて訓練するようにしましょう。

 巻き込むと危ないですので」

「……分かりました」


 レナルヴェの提案に玲治は自分の能力が厄介であることを改めて痛感しながらも、頷いた。


 その後、再度同じように風を起こす訓練をしたところ、今度はオート魔法が発動することもなく、竜巻だけが巻き起こった。

 魔法の強さとしては、玲治、テナ、オーレインの順であったと見て良いだろう。しかし、玲治とテナの間の差はかなり大きいものがあった。

 それだけではなく、玲治はレナルヴェが教える風魔法を次々と短時間で習得してゆく。


 それは、昨日の水魔法の講義でも同様であり、テナとオーレインが精々生活周りで使用出来る程度の水魔法を習得出来るのがやっとだったのに対して、玲治は僅か一日で実戦にも使用可能なレベルで魔法を習得していた。

 といっても、テナとオーレインが特別劣っているわけではなく、該当の属性の魔法スキルを持たない状態で一朝一夕で習得出来る範囲としてはむしろ大いに優れている部類だった。水魔法スキルや風魔法スキルを持たないのに、これほどあっさりと習得出来る玲治の方がおかしいのだ。


(これは……まさか……)


 異常とも言える速度で魔法を習得する玲治に、レナルヴェはしばし考え込む。

 しかし、ここでこれ以上考えても仕方ないと思考に見切りを付け、指導の後半に移ることにした。


「さて、風魔法の指導はこれくらいとしましょう。

 昼食をとった後、魔法を使用した近接戦闘の講義を行います」

「分かりました」




 ◆  ◆  ◆




 その日の夜、玲治達への指導を終えたレナルヴェはヴィクトの部屋を訪ねた。


「私が訪ねてきた理由は分かってますね」

「ええ、あの青年のことでしょう?」


 前置きも無くいきなり切り出された問い掛けに、ヴィクトは当然のように告げた。

 レナルヴェはその反応に満足そうに頷くと、続きを話し出す。


「ええ、あの魔法習得の速度は異常です。

 風魔法スキルを保持しているのであればまだ理解出来ますが、

 彼は光魔法スキルは持っていても風魔法スキルは持っていないと言っていました」

「その点については私も確認しました。

 水魔法スキルも持ってはいないそうです」


 二人が相談していたのは、玲治の異常な魔法の習得速度についてだ。

 該当の魔法スキルを保持している場合、習得するのも使用するのもスキルの補正が入り遥かに効率が増す。

 それゆえ、玲治が風魔法や水魔法のスキルを保持していればそこまで不思議なことではなかったのだが、肝心の玲治は光魔法以外に魔法スキルを保持していない。


「それだけではありません。

 任意発動ではないとはいえ、彼は魔法を二つ同時に発動させました」

「ほう、そんなことまで出来るのですか」


 訓練中、玲治は誤って炎の竜巻を起こした。あの時、玲治が任意で放った風魔法とオート魔法で放たれた火魔法が重なり合ってあのような結果になったわけだが、この世界における魔法の常識からするとそれは驚異的なことだった。


「二重魔法については私も研究したことがありますが、断念しました。

 同じ魔法を二つ放つことなら可能なのですが、全く異なる魔法を同時に放つのは至難です。

 右手と左手で同じ文字を書くことはまだ可能ですが、異なる文字を書くのは難しいのと一緒ですね」

「片方が自動発動だったからなのかも知れませんが、彼はそれが出来る可能性があります」

「ふむ……」


 レナルヴェの言葉に、ヴィクトは深く考え込んだ。


「彼には何か秘密があると考えるべきでしょうか?」

「秘密があれば、まだ良いのかも知れませんね」

「と言うと?」


 予想に反するヴィクトの答えに、レナルヴェは不思議そうに聞き返した。


「秘密などではなく、素の習得効率や才能で行っていると言われたら、そちらの方が脅威ですよ。

 我々がスキルで実現していることを、スキル無しでやってのけているということなのですから」

「それは……」


 玲治は剣技と光魔法をエリゴール、オーレインにそれぞれ短期間で仕込まれた。

 その時にはそれぞれのスキルを保持しているから習得が早かったのだと皆思っていたが、実はそこにスキルの補助など無かったのだとすればどうか。

 そして、他の技術についても同じような効率で習得出来るとすれば?

 それだけではなく、二重魔法のように彼らには出来ない技術も行使できるとすれば?

 レナルヴェの背筋にゾクッとした寒気が走った。


 そんなレナルヴェの様子を見たヴィクトは、言葉を和らげて諭すように語り掛けた。


「注視は必要でしょう。

 しかし、幸いにして彼は我々と敵対しているわけではありません。

 あまり警戒し過ぎて敵に回してしまうことは避けるべきでしょう」

「それは……そうですね」


 その後、二、三言交わしたのちレナルヴェは部屋を辞し、自室へと戻った。


「少なくとも、陛下には伝えておかねばなりませんね」


 玲治の今後を左右する呟きと共に。

<登場人物から一言>

オーレイン「えい! ……中々上手くいきません」

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