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召喚アトランダム  作者: 北瀬野ゆなき
【第二章】魔族猛襲編
35/102

第33話:繋がる道

「………………ん」


 意識が浮上した玲治は、少しぼうっとしたまま首を横に向けた。

 視線の先には見覚えの無い部屋の光景が広がっている。

 部屋は広く、見るからに高級感が漂っている。玲治がこの世界に来てから、いや元の世界も含めてもこんな豪華な部屋に泊まったことは無いと断言出来る。

 一流ホテルのスイートルームはこんな感じだろうかと玲治はまだハッキリしない思考で想像した。


「何処だっけ、ここ?」


 まだ意識が覚醒しきっておらず、玲治には此処が何処かが分からない。

 そもそも、彼にはこの部屋で眠った記憶がない。それにも関わらず、何故こんな部屋に居るのか。

 ベッドの上で上半身を起こして部屋を見回していると、次第に意識を失う前の出来事が脳裏に蘇ってきた。

 現魔王レオノーラに実力を認めさせるため、四天王である魔族の少女ミリエスと闘ったこと。

 そして、彼女の繰り出す炎の人型を跳び越えようとして、火達磨にされたこと。

 業火に焼かれる痛みの記憶が蘇り、玲治は思わず身を竦めた。


 そして、そこまで思い出せば、何故自分がこの部屋で目覚めたのかも理解できた。


「負けた……のか」


 そう、紛うことなき敗北だ。完膚無きまでに、負けた。

 結局、ミリエスには指一本触れることすら出来ず、一方的に叩きのめされたのだ。


 炎に焼かれるダメージで意識を失った彼を、誰かが治療してこの部屋まで運んでくれたのだろう。

 腕などに触って確かめてみるが、特に傷や火傷の跡は残っていなかった。


「あれ?」


 と、そこで玲治は部屋の中に自分以外の者が居ることに気付いた。それも二人。


「テナ? オーレインさん?」


 玲治が横になっているベッドの脇に二人の少女が突っ伏していた。顔は見えないが、玲治にはそれがテナとオーレインの二人だと言うことは見て取れた。

 どうやら、気絶した彼の看病をしてくれていたようだ。疲れてそのまま眠ってしまったのだろう。


 玲治は二人を起こさないように、静かに休むことにした。





 彼がしばらくそのまま休んでいると、部屋の入口の方からコンコンコンッとノックの音が聞こえてきた。


「起きているか?」


 ドア越しに聞こえてきた声は、少し前に謁見の間でも聞いた声だった。


「あ、はい。どうぞ」

「失礼するぞ」


 断りと共にドアが開き、美しい銀髪の女性が部屋へと入ってきた。その肩には、一羽の鴉が停まっている。

 そう言えば、いつもテナと一緒に居る筈のアンリの使い魔の鴉なのに姿が見えなかったと今更ながらに玲治は思い出した。


「なんだ、二人とも此処で寝てしまったのか」


 部屋に入ってきた女性──魔王レオノーラはベッドの脇に突っ伏すように眠っているテナとオーレインの姿を見咎め、呆れたような声を上げた。とはいっても、彼女の柔らかい笑顔を見る限りは、本気で呆れているというよりは、微笑ましく苦笑しているといった方が正しいだろう。


「俺の看病をしてくれてたんだと思います。

 起こすのは可哀相なので、そのままにしてあげてもらえますか」

「ああ、勿論だ。

 少し声を抑えて話すとしよう」


 二人を起こさないで欲しいという玲治の頼みに、レオノーラも同感だったのか素直に頷く。

 彼女は部屋に置かれていた椅子をベッドの横に寄せると、そこに腰掛けた。肩に停まっていた鴉は椅子の背もたれの上へと移動して、静かに彼らを見下ろした。


「さて、状況については理解出来ているか?」


 テナとオーレインを起こさないように小さめな声で話を切り出すレオノーラ。

 そこに言外に籠められた意味に、玲治は俯きがちになりながら答える。


「……はい。俺が負けたってことは理解しています」


 玲治達がこの魔王城まで来たのは、邪神の手紙にあった闇神の試練──「現魔王に実力を認めさせる」──に挑むためだ。

 この世界を管理する三柱の試練をクリアしなければ元の世界に帰れないのだが、初っ端から躓いてしまった。

 このまま元の世界に帰れずこの世界に骨を埋めるしかないのかと、静かな絶望が玲治を襲う。


「お前は勘違いしているかも知れないが、勝敗自体は大きな問題ではない。

 闇神様の試練はお前の実力を私に認めさせるというものであって、ミリエスに勝つことではないだろう。

 たとえ負けたとしても相応の実力を見せて貰えるのであれば、私は認めるつもりだ」

「それじゃあ……」


 思わぬレオノーラの言葉に希望を見出した玲治は顔を上げて彼女の方を向いた。

 しかし、レオノーラは早とちりするなと言いながら首を横に振る。


「相応の実力を見せれば、と言っただろう?

 少なくとも、昨日の戦いだけでは認める気にはなれん」

「……そうですよね」


 上げて落とすかのようなレオノーラの仕打ちに、玲治はがっくりと肩を落とした。

 しかし、先程玲治自身も考えていた通り、昨日のミリエスとの対戦は惨敗としか言いようが無い負けっぷりだったため、その評価に関しては異論を出しようが無い。


「まぁ、そう気を落とすな。

 確かに現時点ではまだまだと言わざるを得ないが、お前はこの世界に来てそれほど時間が経っていないのだろう?

 十分、伸びる余地はある筈だ」

「そんなの……」


 意味が無い……という言葉を、玲治は口に出す直前で飲み込んだ。

 レオノーラの言葉は彼女なりに玲治を励ますために掛けられた言葉であると理解出来たからだ。

 実際、この世界の住人であれば将来性があるという言葉は励ましになったことだろう。

 しかし、元の世界への帰還を望む玲治としては、ここで実力を認められて試練をクリア出来なければ意味が無いのだ。将来的にどれだけ強くなったとしても仕方が無い。


 しかし、口には出さずとも落ち込んだ様子を見せた玲治に、レオノーラは不思議そうに首を傾げる。


「ふむ? まだ何か思い違いをしているようだな」

「思い違い……ですか?」


 レオノーラの言う「思い違い」の意図が分からず、今度は逆に玲治の方が首を傾げる。


「ああ、お前……もう終わりと思っているんじゃないか?」

「え?」


 告げられた言葉に呆然とする玲治の顔を見て、レオノーラはやれやれと言いたげに首を振った。


「やはりそうか。それで、そんなに落ち込んでいるのだな」

「あの……一体どういうことですか?

 実力を示せなかったから、もう試練は終わりじゃないんですか?」

「別に、チャンスは一回とは誰にも言われてないだろう」

「………………あ」


 確かに、試練の内容は「現魔王に実力を認めさせる」というだけで、チャンスは一度きりとは誰にも言われていない。理屈の上では、何回挑んでも問題が無い筈。

 それを玲治が勝手に、一度の敗北でもうダメだと思い込んでいただけだ。

 その事実に気付いて、玲治は思わず顔を赤くする。


「まぁ、とはいっても延々と挑戦されるのも勘弁願いたいがな。

 あまり何度も負け続けたら、それで印象も決まってしまいそうだ」

「そうならないようにしたいですね」

「で、ここからが本題だ。

 さっきも言った通り、お前はまだまだ伸びる余地があると私は見ている」


 そこまで言うと、レオノーラは真っ直ぐに玲治の目を見詰める。

 真紅の瞳が玲治の視線を吸い込むように捉えて離さない。


「昨日の戦闘を見る限り、剣の動きは決して悪くは無い。

 足りないのは剣ではなく魔法の方だ。

 しかし、こと魔法の分野においては、独学ではやはり限界があるだろう」

「それは、そうですね」


 ランダムに発動する傍迷惑な魔法を除けば、玲治が現在使用出来るのは光魔法のみ。もっと使用出来る魔法の種類が多ければ、その分採り得る戦術の幅も広がる。

 実際、強力な遠距離攻撃の手段を持ってさえいれば、ミリエスとの戦闘ももう少し違った展開があった筈だ。


 魔法の習得というのは、教える者が居なければ難しいというのも納得がいく話だ。

 剣であればある程度は独学でも進められる部分はある。勿論、より高みに昇る為には優秀な指導者が必要だが。

 しかし、魔法に関してはそもそもの取っ掛かりの部分で指導が無ければ厳しい。


 玲治の魔法の師はオーレインだ。彼女は勇者として強力な光魔法の使い手でもある。しかし、オーレインにとって魔法はあくまで補助的な用途のものであり、積極的に用いる類いのものではない。

 それ故に、玲治に教えられたのも限定的なものとなっていた。


「魔法は魔族の得意分野だ。

 ここで学べば人族領で学ぶよりも、遥かに効率的に実力を伸ばすことが出来るだろう」

「それって……」


 ここまで言われれば、玲治にもレオノーラの言いたいことが分かった。


「つまり、ここに滞在させて貰って魔法を学べってことですか?」

「そういうことだ」


 レオノーラの提案に、玲治は少し考え込む。どちらにしても、強くなって彼女に実力を認めて貰えなければ、帰るところなどないのだ。

 強くなるために、魔法の強化が必要だというのも異論は無い。

 人族領を出る時にアンリやエリゴールから助言されたこととも合っている。


「まぁ、無理にとは言わんがな。

 強くなる自信が無いなら、諦めて帰っても構わん」

「「そんなことはないです!」」

「うわ!?」

「ふ、二人とも!?」


 煽るようなレオノーラの言葉に鋭く反応を返したのは、玲治ではなかった。ベッドの脇で突っ伏して寝ていた筈のテナとオーレインがガバッと身を起こして叫んだのだ。

 二人が寝ていると思っていたレオノーラと玲治は驚きに固まる。


 反射的に否定の声を上げてしまったテナとオーレインは、二人の顔を見てハッと我に返った。


「寝た振りをして聞いてたのか……趣味が悪いぞ」

「あ、あはは……」

「ご、ごめんなさい」


 狸寝入りをしていたことを見抜かれ、バツが悪そうに苦笑するテナとオーレイン。

 まったく……と呆れながら、レオノーラは改めて玲治に問い掛けた。


「で、この二人はそう言っているが……お前はどうなんだ?」


 言外に二人の信頼の応えて見せろと告げる彼女の言葉に、玲治は逆に真っ直ぐに見返して告げた。


「やります!

 強くなって再挑戦するので、ここで学ばせてください」



 こうして、玲治一行は魔王城に滞在して鍛えることとなった。










「これで良いか?」

「カァー」

<登場人物から一言>

玲治「ところで、二人は何処から起きてたんです?」

テナ「えーと……」

オーレイン「『起こすのは可哀相なので』辺りからです」

玲治「早っ!?」

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