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召喚アトランダム  作者: 北瀬野ゆなき
【第一章】不憫召喚編
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第19話:必然の偶然

「空中に留まられては勝ち目はない!

 集中砲火で引き摺り下ろすのだ!」

「は、はい!」

「わ、分かりました!」

「了解です!」


 手の届かない空中から一方的に強力なブレスで攻撃されれば、為すすべなく敗北するのは必至だ。

 エリゴールの指示を受け、玲治とテナ、オーレインはそれぞれの持つ遠距離攻撃手段を駆使して、空中へと飛び上がった黒龍ヴァドニールを狙い始めた。

 三人とも威力よりも連射性を優先した攻撃を選択し、黒龍の鼻先を目掛けて放った。


 中空に浮かぶ黒龍は、雨あられと浴びせられる矢や魔法を嫌い、旋回して逃れようとする。


「逃がしません!」


 三人の中で最も戦闘経験が豊富なオーレインはきっちりと対応し、黒龍が逃れた先にも正確に光の矢を放ち追い詰めてゆく。

 玲治やテナはそこまで正確に狙いを付けることは出来なかったが、オーレインが狙った先に合わせて狙うことで結果的に一泊遅れて胴体へ命中させることが出来た。


「グオオオォォォーーーッ!!!」


 三人の攻撃は黒龍の硬い鱗に遮られ、ダメージは与えられていない。しかし、鬱陶しがったのか黒龍は咆哮を上げると方向を転換して床上に立つ玲治達へと急降下してきた。


「降りてくるぞ!

 レージ! 剣に切り替えろ!」


 遠距離からの攻撃に加わらずに待機していたエリゴールが、大剣を構えながらそう叫ぶ。

 玲治はそれを受けて、腰の後ろから二本の剣を引き抜いた。

 右手には普通の鋼鉄の剣、左手の運任せの剣の刀身は……箒だった。


「チッ、ハズレか!」


 しかし、剣を切り替えている時間はない。

 玲治は鋼鉄の剣と箒剣を構えたまま、急降下してくる黒龍を待ち受けた。


「グルアアァァァーーーッ!!!」


 黒龍は、最も鬱陶しい攻撃を放っていたオーレインを目掛けて大口を開けて噛み付いてきた。


「させん!」


 しかし、そこに横方向からエリゴールが大剣を叩き付ける。上段から振り下ろされたその一撃は黒龍の首を直撃し、オーレインに噛み付こうとしていた黒龍は攻撃が逸れて床へと叩き付けられた。


「ハッ!」


 床へと突っ伏す形になった黒龍の頭部を狙い、玲治が右手に持つ鋼鉄の剣を叩き付ける。エリゴールの力を憑依させたその一撃は、普段の玲治の剣筋よりも遥かに鋭く、黒龍を襲った。

 しかし、黒龍の鱗の防御力は堅く玲治の剣ではダメージにはならない。


「もう一撃!」


 続いて、玲治は左手の箒剣を振るった。勿論、箒などに大きな攻撃力があるわけはないが──


「も、燃えてる!?」


 後ろで見ていたテナが驚きの声を上げた。

 今の玲治は火魔法が使用出来る。それによって、箒に炎を纏わせて叩き付けたのだ。


「これでどうだ!」


 顔面へと当てられた炎に、黒龍は僅かに怯んだ。ダメージとしては小さいが、目の前に炎が翳されれば流石に反応せざるを得なかったようだ。


「ッ! 下がれ!」


 鬱陶しい炎を振り回す玲治を目掛けて、黒龍がその場で回転しながら尾を振るってきた。


「うわあ!?」


 玲治は右手に持った鋼鉄の剣を反射的に盾にして直撃を防ぐが、その威力を殺しきれずに跳ね飛ばされた。


「レージさん!?」

「大丈夫ですか!?」


 黒龍の追撃を抑えるために光の矢と闇の矢を浴びせながらテナとオーレインが不安の声を上げるが、玲治はすぐに立ち上がった。


「大丈夫、大した怪我はしてない!」


 戦線に復帰するべく鋼鉄の剣と炎を纏った箒剣を構える玲治だが、次の瞬間、両手から風が吹き出した。鋼鉄の剣の方は特に問題はなかったが、箒剣の方は付いていた炎が風で吹き消されてしまった。


「ああ、ったく!」


 もう一度火魔法を使うか一瞬逡巡したが、すぐに切り替えて鞘に戻して再び引き抜いた。

 果たして今度の刀身は……槍だった。


「……って、槍!?」


 剣の鍔の上から二メートル程の柄が伸びて、先に穂先が付いている。その槍からはとても強力な力を感じたが、バランスが悪く剣の柄を持って振るうのは無理があった。

 玲治は咄嗟に右手の鋼鉄の剣はそのままに、両手で槍の方の柄を握る。


「せい!」


 玲治を跳ね飛ばした後、エリゴールとその爪で斬り結んでいた黒龍に、玲治は横から身体全体で突撃を仕掛けた。

 体重の乗った槍先は黒龍の鱗を貫き、肩口に深々と突き刺さった。


「グギャアアアァァァーーーッ!!!」

「よしっ!」


 黒龍が激痛に大きな悲鳴を上げた。

 初めて有効打を与えた玲治は頷いたが、それは早計だった。


「気を抜くな! 畳み掛けろ!」


 気を抜いた玲治をエリゴールが叱責するが、その時には既に黒龍は反撃に掛かっていた。

 黒龍は大きく息を吸い込み、咆哮を上げた。近距離からの凄まじい風圧が玲治達を襲う。


「グオオオォォォーーーッ!!!」

「ぐっ!」

「うあああぁぁぁーーッ!?」

「くっ……きゃっ!?」


 エリゴールやオーレインは咄嗟に構えることでその咆哮に耐えようとしたが、体重の軽いオーレインは耐え切れずに吹き飛ばされた。油断していた玲治もオーレインと同じように吹き飛ばされて床へと叩き付けられた。


「レージさん! オーレインさん!」


 黒龍から最も離れた場所に居たテナだけは被害を受けることがなく、吹き飛ばされた二人を案じる声を上げた。


 咆哮を放った黒龍は、ただ一人至近距離に残ったエリゴールへと爪を振るった。


「ぬぅっ!」


 咆哮に耐えるために足を止めていたエリゴールは、その爪を大剣で受け止めるが勢いに圧されて滑るように後ろへと下がった。


「拙い!」


 エリゴールを押し退けた黒龍は、再び空中へと飛び上がった。


「えい!」


 最初の時と同じようにテナが空中を舞う黒龍へと魔法を放つ。しかし、先程は三人で集中砲火を浴びせていたのに対して、今はテナ一人。

 手数が足りず、先程のように黒龍を地上に誘導することは出来なかった。

 黒龍はテナの放つ闇の槍を意に介さず、中空で先程以上に大きく息を吸い込んだ。

 そして……


「──────────ッ!!!」


 黒龍の口から紫電を伴った黒い炎が放たれた。黒龍の持つ最も強力な攻撃手段であるブレスが、エリゴールへと牙を剥く。

 他の三人ではなく彼を狙ったのは、本能的に最も強敵であると悟っていたためだろう。


「ぐぅ!」


 黒龍の予備動作からブレスが来ると悟ったエリゴールは、咄嗟にその場から身を投げる。

 ブレスは直撃することなく床へと当たったが、その余波だけでエリゴールは数メートルも吹き飛ばされ、床に膝をついた。



「………………あ」


 ただ一人、戦場に取り残されたテナは茫然と声を上げた。


「いかん、逃げろ!」


 エリゴールがテナにそう告げるが、テナは咄嗟に動くことが出来なかった。

 エリゴールをブレスで退けた黒龍は、再びその巨体を地上へと降ろす。

 その衝撃で地響きを立てて床が揺れ、テナはバランスを崩して尻餅を突いた。


「え……あ……」


 その姿勢のまま茫然と見上げるテナと、黒龍の視線が真っ直ぐに絡み合った。


「くっ、させるかよ!」

「レ、レージさん!?」


 咆哮で吹き飛ばされてた全身を強打した玲治だが、何とか立ち上がるとテナと黒龍の間に割って入った。

 しかし、その瞬間急激な脱力感が彼を襲った。

 玲治はその脱力感に思わず姿勢を崩しそうになるが、何とか踏み止まった。

 何が起こったか分からなかった玲治だが、先程までよりもその身に力が入らないことに気付いた。

 制限時間が経過したことでランダム召喚憑依が解け、エリゴールの力を借りられなくなったのだ。


「こんなタイミングで……っ!?」


 焦る玲治だが、この時点で彼の手札は殆ど残っていない。

 ランダム召喚憑依は二十四時間が経過しないと再使用出来ない。手に持つ槍は黒龍の鱗も貫ける程の業物だが、ダメージを受けた身では先程のように体重を乗せた一撃を繰り出すことは出来ない。光魔法は黒龍に殆どダメージを与えることが出来ない。

 可能性があるとすれば、運任せの剣を一度鞘に戻して切り替えることだが、黒龍と目の前で対峙している今、その隙は無かった。


「レージさん、逃げてください!」


 テナがそう叫ぶが、玲治はそれを無視する。後ろで倒れ込んでいる彼女を見捨てて逃げる選択肢は無かった。


 黒龍は最早玲治を驚異と見做していないのか、悠然と彼に歩んできた。

 玲治が立つすぐ前まで近付くと、大きく牙を剥く黒龍。

 玲治は竦みそうになる足を抑えながらも、何かを決意した表情で右手に持っていた鋼鉄の剣を床に投げ捨てて、空いた右手を黒龍へと向けた。


「──────ッ!」


 真っ直ぐに立つ玲治に向かい、その大口で噛み付いて来る黒龍。

 訪れる死の恐怖に震えながらも、玲治はその右手を黒龍に向けたまま動かない。


 あわや玲治がその五体を黒龍の牙で引き裂かれようとした瞬間──




 ──玲治の右手から極光が放たれた。


 玲治が賭けに勝った瞬間だった。

 彼の持つランダムな能力は恣意的な操作を行われているか、運勢を操作されているせいで危機に陥ったタイミングで強力な効果を発動することが多い。

 もしも前者であれば、操作を行っていると思われる邪神の気まぐれ次第であり発動する保証はない。しかし、後者であれば……。


 極光は真っ直ぐに伸びて黒龍の大口へと飛び込み、その口内を焼いた。


「──────────ッ!?」


 黒龍は声にならない悲鳴を上げる。


 しかし、玲治は取り合わず、生じた隙に運任せの剣を鞘に戻すと再び引き抜く。

 今度の刀身は……昨日の特訓中でも出現した凄まじい力を放つ光の刀身だった。


「おおおぉぉぉーーーっ!」


 玲治は躊躇わず、声を上げながらその場で光の剣を振った。


「グオオオォォォーーーッ!!!」


 先程の魔法による極光をも上回る光が黒龍の全身を飲み込み、吹き飛ばした。

 黒鋼ゴーレムと異なり消し飛ばされるようなことはなかったが、黒龍は全身を光に焼かれて悲鳴を上げながら床に倒れ込んだ。


「や、やった……」

「レージさんっ!?」


 黒龍を退けた玲治は、それを見届けると力尽きて倒れ込んだ。

<登場人物から一言>

神アンリ「そこまで」


<作者からのお知らせ>

次話で第一章完です。


あ、ヴニは生きてますので安心してください。

そして、いずれ……(以下略)

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