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召喚アトランダム  作者: 北瀬野ゆなき
【第一章】不憫召喚編
17/102

第17話:迷宮攻略

残念が付くとはいえ、チートはチート。


また、前話の感想で「法王の名前を何処で知ったか?」というご質問を数件頂きましたが、第02話で本人から聞いています。ちなみに、生来の名前でなく襲名したものであっても、一定人数に認識され世界から正式な名称として扱われていれば可です。

「さて、そろそろ攻略を再開するぞ」

「ええ」

「はい」

「分かりました」

「カァー」


 玲治のランダム召喚憑依が時間の経過によって解除され、ようやく動けるようになったところを見計らい、一同はダンジョン攻略を再開した。

 エリゴールの号令に三人と一羽が答え、入口である不可侵領域からダンジョンの奥へと足を進める。


 隊列はエリゴールが最前列、その少し後ろにオーレイン、そしてテナ、玲治と続く。

 オーレインは前衛に出たにも関わらず、武器は変わらず聖弓を構えていた。


「武器はそのままで良いのか?」

「はい、大丈夫です」


 エリゴールの質問に、オーレインは自信を持って答える。

 オーレインの持つ聖弓は光神ソフィアの加護が掛けられた勇者の証であり、強力な性能に加えて持ち主を守護する力が付与されている。

 通常、弓を武器に用いる場合は、当然のことながら矢が必要になる。

 しかし、聖弓は持ち主の魔力を光の矢に変換して放つことが出来るため、矢を必要としない。

 矢の補充が要らないため継戦能力が高く、矢をつがえるための隙も少ないという、弓という武器が本来持つ欠点を持たないのが聖弓の強みだ。

 なお、勿論普通の矢を撃つことも可能だ。


「ゴーレム系は私が狙いますので、レージさんはアンデッド系に集中してください」

「ああ、分かった」


 一方で、後衛を担当する玲治とテナもそれぞれの役割分担を確認する。


 このダンジョンには主にアンデッド系とゴーレム系の何れも非生物の魔物が徘徊している。

 テナの使う闇魔法は、アンデッド系には効き難いが、ゴーレム系には普通に効果がある。

 一方で、玲治が覚えた光魔法は、アンデッド系に特に強い効果を発揮する。

 そのため、テナがゴーレム系を、玲治がアンデッド系をメインターゲットとするという分担が自然と決まった。


 ランダムに発動する玲治のオート魔法が懸念事項ではあるものの、概ねバランスが取れたパーティーだと言えるだろう。




 しかし、ランダム転移対策のためにロープで腰を一繋ぎにした状態であるため、傍からは間抜けな集団にしか見えなかった。




 ◆  ◆  ◆




「えい!」


 テナの放つ闇の槍が黒鋼ゴーレムの膝部分に突き刺さり、ゴーレムはよろめく。


「喰らうがいい!」


 体勢を崩したゴーレムに、エリゴールが大剣を叩き付ける。ゴーレムは上半身と下半身を二つに切り離され、やがて動きを止めた。


「ハッ!」


 玲治が両手から放射状の光を放つ。それは生者には何ら悪影響をもたらすものではなかったが、アンデッド達には効果覿面だった。

 レイスは光が直撃した部分が消滅し、スケルトンロードも明らかに動きが鈍る。


「そこです!」


 玲治の光魔法で怯んでいるアンデッド達に、オーレインが近距離から的確にトドメを刺していく。

 彼女は弓という本来は遠距離で使用する武器を用いながら、凄まじい速射性で近距離戦闘を可能にしていた。

 それはもちろん、実体のある矢を必要としない聖弓が無ければ実現し得ないことではあるが、それ以上に一矢で確実に一体を葬る彼女の技量が大きな役割を果たしていたと言える。



「うわっ!? 今度は火かよ!」


 時折、玲治の手からは光魔法ではなく別の魔法が飛び出すことがあったが、魔物に対しての攻撃になる分には大きな問題にはならなかった。

 尤も、飛び出すのは攻撃魔法だけとは限らない。


「ん? 今の魔法は?」

「今のはおそらく回復魔法ですね」


 オート魔法は無詠唱な上に自分で唱えているわけでもないので、飛び出た魔法や効果を見ないと何の魔法が出たのか判断が付かない。

 攻撃魔法とは少し印象の異なる光に違和感を覚えた玲治に、オーレインが答えを返す。


「回復魔法も飛び出るのかよ!? 敵を回復したら拙い……って、あれ?

 魔物が倒れてるんですが」

「アンデッド系は回復魔法でダメージを与えることが出来ます」


 敵を回復してしまったかと慌てる玲治だが、魔法の飛び出した先を見るとスケルトンロードがその身を崩壊させ、消滅するところだった。

 生命を持たない邪悪な存在であるアンデッド系の魔物は回復魔法で逆にダメージを受ける性質があるため、飛び出した回復魔法が攻撃になった形だった。

 結果オーライである。


 但し、全てが都合良く作用するとは限らない。


「わわ!? 動きが速くなりました!」

「ご、ごめん!」


 突然スピードが向上した黒鋼ゴーレムに、テナが驚きの声を上げる。

 オート魔法で速度強化の補助魔法が当たったようだ。




 外を歩いていた時と比較すると、ダンジョンの中に入ってからはオート魔法の発動頻度が上がっているようだった。

 それにより時折混乱を来しつつも、玲治とテナの戦力が加わった一行は順調に攻略を進めている。




 ダンジョンにおいて障害となるのは、魔物だけではない。

 漂う瘴気と張り巡らされた罠もまた、挑む者達を阻む大きな壁である。


 前者の瘴気については、邪神の眷属であるテナ、光神の加護を受けるオーレイン、魔族であるエリゴールには効果が無い。

 玲治だけは影響を受けるが、光魔法による結界によって防ぐことが出来た。


「あ、そこ気を付けてください」

「ふむ、睡眠ガスだな」


 後者の罠については、オーレインが役に立った。

 光神の加護を受けた聖弓は、持ち主を守護する力が籠められている。それは単純な防御力だけでなく、持ち主の危難を事前に知らせるという機能も有している。

 それを受けて、彼女はパーティメンバーに警告を発し、罠を効率良く回避していた。




 ◆  ◆  ◆




「どうだ、少しは慣れたか?」

「いえ、まだ必死ですけど……ただ、最初よりは大分落ち着けるようになってきました」

「良い傾向だ。

 攻撃する時に目を閉じることもなくなってきたな。

 そろそろ、前衛に出て剣を使ってみるか」

「え? いきなりですか?」


 エリゴールの提案に、玲治は驚きの声を上げた。

 剣など振ったこともない玲治は、まずは素振りなどから始めると思っていたのだが、いきなり実戦という無茶振りなのだから、それも無理はないだろう。


「剣技スキルを持っているなら、振っているうちに自然と動きが最適化されてゆく。

 型などを学ぶよりも、実戦の中で経験を積んだ方が早い。

 とはいえ、いきなり多数を相手にするのは流石に無理があるがな。

 次に単体の敵が出てきたら、そなたが相手をしてみよ」

「わ、分かりました」


 そうこうしているうちに、一体の黒鋼ゴーレムが出現した。

 玲治はオーレインと位置を入れ替わり、腰の後ろに差した二本の剣を引き抜いた。


 右手には普通の鋼鉄の剣、左手の運任せの剣の刀身は……凄まじい力を放つ光の刀身だった。


「は?」

「……試しに振ってみろ」

「は、はい」


 エリゴールに促され、玲治は近付いてくる黒鋼ゴーレムの方に向き、その場で左手の光の剣を振った。

 剣から敵までは数メートルの距離があり、刀身が当たる距離ではない。

 しかし、剣を振った瞬間、刀身から極光が直線状に放たれ黒鋼ゴーレムは飲み込まれた。


「………………」

「………………」

「………………」

「………………」

「………………」


 唖然とする玲治達。

 光がやむと、そこには黒鋼ゴーレムの姿はなかった。欠片も残さず消し飛んでしまったようだ。


「当たりだが……特訓にならんから今は要らん。

 一度しまって引き抜き直せ」

「……はい」


 玲治は光の剣を一度鞘にしまい、再び引き抜いた。

 すると今度は青銅の刀身が出現した。


「あ、今度は普通の剣ですね」

「ええ、これなら特訓に使えそうですね」

「おあつらえ向きに、もう一体来たぞ」


 エリゴールの言葉に彼の視線の先を見ると、先程とは別の黒鋼ゴーレムが玲治達の方へと歩いてきていた。


「さぁ、もう一度だ。

 奴の攻撃は私が止める、まずは攻撃に集中しろ」

「はい!」


 玲治は二本の剣を構えて息を整えると、静かにゴーレムを見詰めた。


 玲治は武術の心得などもなく、これまでの人生でも剣を握るのも今日が初めてだ。

 当然、剣の正しい使い方などは分からない。


 それ故にその一太刀は、正規の剣術を学んだことがある者から見れば、滅茶苦茶なものであったと言えるだろう。

 しかし、この世界に渡る際に強化された身体能力により、相応の鋭さをもって左手の青銅の剣は黒鋼ゴーレムの右脇部分へと叩き付けられた。


 しかし、芯を外した一撃は青銅の刀身が黒鋼ゴーレムの防御力に負けて折れ飛ぶという結果に終わった。


「まずっ!?」


 剣が折れたことによって焦りの表情になる玲治。そんな彼に黒鋼ゴーレムの巨大な拳が振り下ろされる。


「動きを止めるな!」

「は、はい!」


 しかし、ゴーレムの拳は横から素早く回り込んだエリゴールの大剣によって止められる。

 彼の叱責によって我に返った玲治は、右手に持った鋼鉄の剣を振りながら後ろに飛び下がった。

 青銅よりも強靭な鋼鉄の剣は折れることはなかったが、腕のみで振った剣はゴーレムの身に傷を作ることすら出来ずに終わった。


「剣には体重を乗せろ、腕の振りのみで鋼鉄を斬り裂くのは今のそなたにはまだ無理だ」

「わ、分かりました!」


 玲治は運任せの剣を一度鞘にしまって引き抜き直す……木の棒だった。


「ハズレか」


 玲治は自分の右腕に運任せの剣を一度当てると、再度抜き差しを行う。


「剣の切り替えは足を止めずに行え!」

「す、すみません!」


 今度は豪奢な装飾が施された刀身が現れた。

 青銅と異なり外見だけでは材質までは分からなかったが、その刀身から放たれる気配にはただならぬものがあった。


「もう一度!」


 玲治は先程をなぞるように、左手に持った装飾剣でゴーレムの右脇へと斬り付けた。

 その剣筋は先程よりも鋭く、ゴーレムの体表に一本の筋状の傷を残した。


「まだ!」


 エリゴールの助言に従い、動きを止めずに左前方へと踏み込みながら右手の鋼鉄の剣を振り抜く。

 先程飛び下がりながら振るったものとは異なり体重の乗った剣は、一太刀目と同様にゴーレムの右腕に傷を作った。


「よし、その調子だ」

「はい!」


 ゴーレムの反撃を防ぎながら玲治の動きを褒めるエリゴール。

 剣技スキルによる習得の補正の効果か、玲治の剣は一度目よりも二度目の方が遥かに鋭い剣筋だった。

 勿論、熟練の剣士であるエリゴールから見ればまだまだ拙いところがあるのも事実ではあるが、その学習能力の高さは驚異的だった。


「せい!」


 その後、繰り返して剣を振るうたびに、玲治の剣技は短時間で向上していった。

 そして──


「ハッ!」


 距離を一度離してから全身の力を籠めて振るった装飾剣は、ゴーレムの右肩から左脇へと斜めにその身体を斬り裂いた。


「す、すごいです」

「この短時間で……大したものですね」

「カァー」


 初心者の筈の玲治がエリゴールの補助ありとはいえゴーレムをほぼ単独で打倒したことに、後ろで見ていたテナとオーレインも驚き、称賛の声を上げた。


「悪くないな」

「あ、ありがとうございます!」

「では、次は複数の敵を相手にしてみるか」

「えっ!?」


 エリゴールの視線を再び追うと、今度はスケルトンロードが三体近付いて来ている。


「ちょ、いきなり三体ですか!?」


 どうやら、玲治の師は剣の方もスパルタ教官のようだった。

<登場人物から一言>

玲治「俺の時代が……っ!」

テナ「あ、あはは……。(そういうこと言うと)」

オーレイン「あ、あはは……。(何か落とし穴がありそうな)」

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