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召喚アトランダム  作者: 北瀬野ゆなき
【第一章】不憫召喚編
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第14話:邪神の聖域

 邪神の聖域。

 神聖アンリ教国の神殿地下に広がるダンジョンであり、世界中に幾つか現存するダンジョンの中で攻略難易度は最高レベルと恐れられている。

 しかし、同時にその知名度から攻略に挑む者は後を絶たず、アンリニアが世界中の冒険者達が集う冒険者の聖地となった原因だった。


 地下三十一階層からなるそのダンジョンには人の精神を狂わせる瘴気が漂い、無数の凶悪な罠が張り巡らされている。

 徘徊する魔物も強力なアンデッドやゴーレムばかりで、高レベルの冒険者でなければ対抗することが適わない。


 これまでの最高攻略記録は三十階層だが、これは当時の魔王と四天王二人に勇者が三人という通常あり得ないドリームチームを組んでの上での話であり、そのイレギュラーな例を除けば十四階層が最高記録だ。そもそも、瘴気への対抗手段を用意出来るパーティでなければ、深層の攻略は不可能なダンジョンだ。

 実際、大半の冒険者は五階層まで到達することすら出来ず、道半ばにして倒れている。

 と言っても、別に命を落としたというわけではない。


 実は、このダンジョンは世界最高峰の難易度を誇りながらも、今まで誰一人として死者を出していないという極めて異色なダンジョンでもある。

 通常、ダンジョン内で倒れればまず命はない。

 しかし、このダンジョンでは武器やアイテム、お金を奪われはするものの、倒れた者はダンジョンの入口へと放り出されることとなり命を落とすことはない。

 仕掛けられている罠も厄介なものばかりではあるが、何れも非致死性だ。


 禍々しい最凶最悪の世界一安全なダンジョンというとんちんかんな結果が生まれたのは、概ねダンジョンマスターであるアンリのせいである。



 なお、深層の攻略難易度は鬼畜の一言だが、浅い階層ではそこまで攻略困難というわけではない。

 中堅程度の実力を持つ冒険者であればまず第一階層で詰まることはないだろう。

 勇者であるオーレインは人族の中では最高クラスの実力者であり、エリゴールは先代魔王、何れも浅い階層であれば単身でも突破出来るだけの力を有している。




 にも拘らず、玲治達は第一階層で足止めを喰らっていた。


「なんでこんなに魔物が多いんですかー!?」

「普段の五倍は居るぞ!?」


 理由は、通常の数倍の数でひしめいている魔物だった。

 ダンジョンの一階層をしばらく進んだところで黒鋼ゴーレムに遭遇して、玲治に戦闘経験を積ませるために戦おうとしていたところに、横合いからスケルトンロードの大群が襲い掛かってきたのだ。


 当然、最早玲治に戦闘経験を積ませるなどといった余裕はなく、エリゴールが前衛に立ち、オーレインの援護のもとで積極的に蹴散らすことで対処をしていた。

 しかし、倒しても倒しても次から次へと新たな魔物が襲い掛かってきて、ジリジリと戦線を押し込まれつつあった。


 尤も、この状態で押されつつあるとはいえ戦線を維持出来るのは、彼らが強者であるという証明だろう。


「流石に、これは異常事態なんだよな!?」

「は、はい!

 私はダンジョンに挑戦者として挑むのは初めてなので直接は知りませんが、第一階層はそこまで難易度は高くなかった筈です!」


 なお、玲治は魔法使用不可の闇魔法が解けたため、両手を魔物の軍勢へと向けていた。

 この状態で何かの魔法が発動しても、そのまま攻撃に転用出来る。

 また、転移魔法などが発動したときのため、パーティメンバー四人は動きを阻害しない程度の長さを持つ細いロープを腰に結びつけていた。


「やむを得ん、一度入口の不可侵領域まで下がるぞ!」

「で、でも……このままではその隙もありませんよ!」


 エリゴールがそう告げるが、ひっきりなしに魔物が襲い掛かってくる状況では後退もままならない。

 それはもちろんエリゴールにも分かってはいるが、それでも言わないわけにはいかなかった。


「クッ、このままじゃ……」


 戦況が拙いということは、素人である玲治にも見てて分かった。


「玲治さん!? 何をするつもりですか!?」

「このままだともたない。一か八か、こいつを試してみるしかない!」


 そういうと、玲治は右手を左腰の後ろに差している剣の柄に手を伸ばし、勢いよく引き抜いた。


 運任せの剣……邪神によって与えられた武器であり、引き抜くたびに刀身の変わる偶然性の高い剣だ。

 しかし、剣も魔法もまともに使えない今の玲治がこの状況を打破出来る可能性があるとしたら、この剣くらいしかない。

 剣技が無くても敵を薙ぎ払えるような強力な効果を持つ剣が出ることを内心で祈りながら、鞘から引き抜いた剣の刀身は──






 大根だった。


「って、おい!?」

「ちょ、レージさん!?」

「お、俺のせいじゃないだろ、コレ!?」


 ハズレを引いて叫ぶ玲治とテナ。

 なお、運任せの剣は引き抜くと最低一度は使用しないとしまえない。

 実際、鞘に戻そうとする玲治だが、何度試しても弾かれてしまい、中にしまうことが出来なかった。

 しかし、この柄付大根で魔物に殴り掛かるというのは自殺行為でしかないため、玲治は大根をしまうことも出来ずに持ち続ける羽目に陥る。

 玲治の足手纏い度が上がった。


「何を遊んでおる!?」

「何遊んでるんですかー!?」


 必死に戦線を維持している二人から非難が集中するが、それも無理はなかった。




 これまでかと思ったとき、玲治の両手から光が放たれた。

 それは決して強い攻撃力を持っているわけではなかったが、光を忌むアンデッドには効果覿面であり、光に照らされたアンデッド達はその身を崩されたり動きが鈍った。


「ッ! 今だ、後退しろ!」

「はい!」


 魔物の動きが鈍った瞬間を見逃さずに飛ばされたエリゴールの指示に従い、玲治達はその場から素早く後退してダンジョンの入口の部屋まで戻った。


 この部屋は魔物が入ってこれない不可侵領域といわれており、安全地帯だ。

 そこまで辿り着いた四人は、思わず溜息を吐いて座り込んだ。


 なお、玲治の右手は相変わらず大根剣を持ったままであり、しかも今は手から放たれる光によりその大根が下から照らされているという奇妙な姿を晒している。


「その間抜けな剣、しまえんのか?」

「一度振って何かに当てないと鞘にしまえないんです……」

「自分の左腕にでも当てればよかろう」

「あ、なるほど」


 エリゴールの言葉を受け、玲治は右手に持った大根を振って左腕に当てる。大根は真ん中から折れて、先が地面に落ちた。

 同時に、玲治の手から放たれ続けていた光がようやく収まった。


 一度振って当てた剣は、鞘に当てると先程とは異なり、しまうことが出来た。

 鞘の口よりも太い折れた大根が吸い込まれるように収まる光景は奇妙なものだったが、考えても仕方ないと玲治は首を振って切り替えた。

 地面に落ちていた大根の先端部分も、刀身が鞘に収まると同時に消滅した。


「当てるのは自分の手でも大丈夫なんですね」

「ハズレだったらしまって、当たりを引くまで繰り返せば使えるかも知れませんね」

「そ、そうですか?」


 テナとオーレインの言葉に一瞬希望を見出す玲治。


「戦闘中にそんな余裕があればな」

「そうですよね……」


 しかし、エリゴールの冷静な指摘で一気に現実を思い知った。

 確かに、彼の言う通り戦闘の最中にそんなクジ引きのような真似を何度も繰り返す余裕を持つのは難しい。

 少なくとも、現在の玲治には不可能な行為だろう。




「それにしても、この異常な魔物の量は何なんでしょう?」

「そうですよね、よりにもよって私達が訪れたこのタイミングで……」

「あまりにもタイミングが合い過ぎだろ、まるで狙ったような……」


 オーレインが挙げた疑問に、テナと玲治の二人が返答するが、その言葉が同時に止まった。


「? どうした? 何か心当たりがあるのか?」


 二人の様子を不思議に思ったエリゴールが、心当たりを尋ねる。


 はたして心当たりは……あった。

 こんなことが出来る力を持ち、彼らの攻略の妨害をする理由がある人物がたった一人だけ居るのだ。


「アンリ様ぁ〜!?」

「アンリさん〜!?」


 二人の脳裏に浮かんだ心当たり、それは黒薔薇邸の主人でありテナの主でもあるアンリだ。

 ダンジョンマスターの権限を持つ彼女であれば一時的に魔物の出現頻度を上げることも可能だし、テナが玲治に同行することに反対していて、懇願を受けて渋々と十階層への到達を条件に了承した経緯を考えれば、こっそり妨害に走っていても不思議ではない。


「カァー?」


 テナの肩に停まっている鴉が顔を逸らした。

<登場人物から一言>

テナ「帰ったらピーマン尽くしです」

鴉「!?」

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