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召喚アトランダム  作者: 北瀬野ゆなき
【第一章】不憫召喚編
13/102

第13話:強硬な教皇

「貴方はアンリ様を信じますか〜!?」

「おわあ!?」


 薬草などの雑貨についても買い物を済ませ、ダンジョンの入口がある神殿へと足を運んだ玲治達に、突然前方から声が掛けられた。

 直前まで気配もなくあまりに唐突だったため、玲治は思わず反射的に悲鳴を上げてしまった。


 声を掛けてきたのは、豪奢な司祭服を纏い黒い杖を持った金髪の青年だ。

 とても整った顔をしているが、折角の容姿も満面の笑みを浮かべながらにじり寄って来るので台無しだった。


「あ、教皇さん」

「これはテナ様、お久し振りです」


 テナが声を掛けてきた人物に朗らかに話し掛けると、その人物はテナに対して恭しく一礼した。

 ちなみに、オーレインとエリゴールの二人は一連の流れの中で密かにその場から距離を置いた。端的に言えば……逃げた。


「きょ、教皇?」

「はい、この国で教皇を務めさせて頂いておりますハーヴィンと申します」


 金髪の青年、神聖アンリ教国初代教皇ハーヴィンは玲治に対して自己紹介して軽く一礼をする。


「ええと、教皇と言えばこの国のトップですよね。何故そんな人がここに……」


 彼らが居るのは神殿の入口、開かれた扉のすぐ傍だ。仮にも国家元首が待ち構えているような場所ではない。

 勿論、神殿の中ではあるので教皇が居ても不思議ではないといえば不思議ではないのだが、一般的な国家元首のイメージではもっと奥深くや上層階に居るものだし、玲治の印象も同じだった。


「それはもちろん、新たに訪れた方に対して布教をするためです」

「???」


 教皇は自信満々の表情でキッパリと宣言するが、それを聞いた玲治の方は更に首を傾げることとなった。

 宗教国家である以上は信徒拡大のために布教を行うのは当然のことだが、やはり教皇自らが来訪者を待ち構えてすることではなかった。

 しかし、教皇はそんな玲治の様子には頓着せず、話を進める。


「新たに神殿に来訪された方にはこちらを差し上げております」

「え? あ、はい。 どうも……」


 教皇は何処からか黒い装丁の本を取り出し、玲治へと差し出してきた。

 玲治はそれが何かは分からなかったが、反射的に礼を言いながら、それを受け取ろうとする。

 その瞬間……


「それはダメです!」

「その本に触れてはいけません!」

「触れるな!」

「カァー!」


 隣に居たテナを始めとして、距離を置いていた筈のオーレインとエリゴール、ついでにテナの肩の鴉が慌てて止めに入ってきた。


「は? え?」

「むぅ、皆さん。布教の妨害をしないで頂きたいのですが……」


 三人の剣幕に戸惑い、本を受け取ろうと手を差し出した姿勢のまま硬直する玲治。

 一方、教皇の方は彼らに対して不満そうな声で苦情を告げた。


「訪れた人にのべつ幕無しに経典を渡すのはやめるようにと、アンリ様に言われてた筈ですよ。

 玲治さん、その本に触ってしまうと呪われてしまいます!

 写本して誰かに渡さないと解呪されないので、絶対に触らないでください」

「うおぁ!?」


 そんな教皇に対してテナは注意を述べると共に、玲治に対して警告をする。

 玲治はそれを聞き、慌てて差し出していた手を引っ込めて後ずさった。



 黒の経典。

 邪神アンリが手ずから記したと言われている、世界最凶最悪の呪いの書物だ。

 この経典を手に取るとランダムな呪いが発動し、不幸な出来事に襲われ続ける。

 尤も、そこで起こる不幸な出来事は十円ハゲになるなどの些細なものであり、呪いの強力さとの矛盾に様々な憶測を生んでいる。

 解呪をするためには、経典を写本し他の誰かに渡すことが必要だが、書き写された本にも呪いが発動するため、世界中に拡散して各国に被害を与えていた。



「いやいや、すみません。

 つい、癖で……」

「癖になるくらい配ってるのかよ……」


 謝罪しながらも悪びれた様子がない教皇に、玲治は頭に手を当てると呆れたように呟いた。


「もう、アンリ様に言い付けてしまいますよ?」

「それはどうかご勘弁を」


 腰に手を当てながらぷんすかとたしなめるテナに、教皇は経典をしまいながら深々と頭を下げた。


「カァー」


 ちなみに、テナの肩に居る使い魔の目を通してアンリには筒抜けのため、言い付けるまでもないのだが、彼は知る由もなかった。




 ◆  ◆  ◆




「ところで、皆さま本日はどのようなご用件でしょうか」

「さっきまでのやり取りを無かったことにしやがった……」


 あっという間に態度を切り替えた教皇に、玲治は冷や汗を流す。

 彼は目の前の教皇を要注意人物として心に留め置くことを決めた。

 同時に、何故この人物が近付いてきた瞬間、オーレインやエリゴールが逃げるように距離を置いたかを深く理解した。出来ることなら、先に言っておいてほしかったが。

 そう視線に籠めて二人を見るが、目を逸らされた。


「これから地下のダンジョンに潜る予定なんです」

「なるほど、承知いたしました。

 それでは、こちらにどうぞ」


 そう言うと、教皇は先導するように神殿の奥へと足を進めた。

 どうやら、彼自らダンジョンの入口に案内をするつもりのようだ。

 テナもオーレインもエリゴールもダンジョンの入口は知っているので案内自体は不要なのだが、彼のエスコートに従って後に着いていくことにした。


「それにしても、神殿の地下にダンジョンって不思議な作りですね」

「ふふ、驚かれましたか?

 元々この場所にはダンジョンがあったのですが、その上にアンリ様の御力によって神殿が建てられたのです」

「神殿の地下にダンジョンがあって大丈夫なんですか?

 魔物が出てきたりなんてことは……」

「ご安心ください。

 ダンジョン内の魔物はアンリ様によって外に出てくることを禁じられてます。

 地上に出てくることはありませんよ」


 歩きながら疑問を述べる玲治に、教皇は快く答える。

 彼としてもアンリの偉業を話すことは好ましいことなのだろう、声も軽く弾んでいる。


 やがて一向は神殿地上一層の最奥にある地下階層へと繋がる階段の前へと辿り着いた。


 そこは荘厳な大扉で固く閉ざされていたが、閉じられた扉越しにも禍々しい雰囲気が伝わってきて、玲治は思わず身震いした。

 昨日会ったアンリはマイペースで、怒らせると怖い印象はあるものの危険とは感じなかったため、彼女が作ったと言われているダンジョンについても玲治は何処か楽観的な気持ちでいた。しかし、ここにきてその認識が誤りであったのではないかと思い始める。

 彼女の言ではここは世界一安全なダンジョンと聞いていたが、肌で感じる雰囲気からはとてもそうは思えなかった。


「さぁ、こちらがダンジョンへの入口となります。

 つきましては……」


 教皇は扉の前で立ち止まり、玲治達の方へと振り返ると告げた。


「そちらのお布施箱に、御一人様当たり銀貨一枚、計四枚をお入れください」

「は?」

「わ、私もですか?」

「……やっぱりですか」

「……まぁ、分かっていたがな」


 教皇の言葉に玲治とテナは驚くが、オーレインとエリゴールは諦めたように呟く。


 ダンジョン「邪神の聖域」には入場料が設けられており、一人当たり銀貨一枚が必要となる。

 かつて挑戦者としてこのダンジョンに挑んだオーレインとエリゴールは当然そのことを知っていた。

 知っているという意味ではテナも勿論知っているのだが、ダンジョン側の住人だった自分にまで適用されるとは思っていなかった。


「テナ様からお金を頂くのは私としても心苦しいのですが、何人たりとも例外はなしというアンリ様からの厳命ですので……」

「うぅ、アンリ様ぁ」

「カァー」


 テナは恨みがましい声を上げる。アンリとしては、彼女が挑戦者としてダンジョンに挑むことになるなど想定外だったのだろうし、この場に彼女が居れば撤回してくれただろうが、居ない以上はどうしようもない。

 たとえ使い魔越しに状況を把握出来ていても、何も出来ない。


 テナは諦めると、小袋から銀貨を四枚取り出し、横に設けられていたお布施箱へと投げ入れた。


「毎度、ありがとうございます」


 頭を下げる教皇の後ろで、ダンジョンの入口である大扉がひとりでに開いていく。

 完全に開き切ると、教皇は横に避けて道を開けた。


「それでは、ご武運をお祈り致します。

 貴方達にアンリ様のご加護がありますように」

<登場人物から一言>

はっちゃけ教皇「ふむ、残念。布教失敗ですか……おっと、新たな信徒候補の方が来ました」


<作者からのお知らせ>

前作「邪神アベレージ」の発売日から毎日更新を続けていた本作ですが、投稿開始時点で描き溜められていた分はここまでです。





が、その後に書き進めた分がありますので、もう少し毎日更新を続けます。

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