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召喚アトランダム  作者: 北瀬野ゆなき
【第五章】最終試練編
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第99話:決着、そして選択の時

「砦で防いでその間に俺が攻撃するのは分かりましたが、それで倒せるんでしょうか?」


 作戦会議の中で玲治が挙げた問い掛けに、邪神アンリは肩を竦めるポーズを取りながら一言──


「そんなの無理」


 ──バッサリと切り捨てた。


「………………」


 薄々と予想は付いていた答えだったが、あまりにもキッパリと言い切られたため、玲治は黙るしかなかった。

 ついでに言うなら、だったら何のための作戦だというのかという思いもある。


「そもそも、前提が間違っている。

 アレを倒すのは私達にも貴方にも不可能。

 たとえ、私達の力を貴方が束ねたとしてもそれは同じこと」

「ムカつく話だが、その通りだな。

 以前にも言った筈だぜ?

 一矢報いて要求を呑ませるのが目的だってな」

「まぁ、倒せるのであればそれに越したことはないですが……。

 欲をかいて本筋を外しては元も子もありません」


 教え諭すような三柱の言葉に、玲治も以前の話を思い出す。

 彼も倒すのは不可能だと言われていたことは記憶していたが、三柱の力を束ねられるようになり実力が大幅に増したことで多少増長していた部分があったのだろう。


「すみません。

 それなら、質問を変えます。

 その作戦で、要求を呑ませられるくらいの一矢になるでしょうか」

「多分、無理」


「多分」と頭に付いて先程よりも少しハードルは下がったものの、基本的には否定の要素が強いことは変わらない。

 不安を隠せない玲治は、半ば詰め寄るようにして尋ねた。


「だったら──ッ!」

「うん、次の手を考えておく必要がある」

「次の手、ですか?」


 テナが首を傾げて問い掛ける。

 その思いは他の者も同じだった。

 それと言うのも、防御を三柱が構築した砦に任せて玲治を攻撃に専念させるというのは、ダメージソースとして有効な手札が彼しかいない中では最も可能性の高い作戦だったためだ。

 その作戦で倒し切れないとしたら、他に手があるとは思えない。


「敵は私達管理者をも上回る存在であり、ダメージを与えようと思ったら私達の数倍の力が必要になります。

 しかし、力を合わせようにも属性が異なれば反発してしまう。

 それを起こさずに私達から分け与えた力を束ねられるのはレージさん、貴方だけです」

「あの野郎もそう思ってるだろうな」


 まるでソフィアの言葉を否定するようなニュアンスを含む闇神アンバールの言葉に、アトランダム一行は首を傾げた。

 彼の言葉をそのまま受け取れば、玲治の他にも三柱の力を束ねることが出来る者がいるように解釈出来る。

 おずおずとフィーリナが問い掛けた。


「あの、他にもそんなことが出来る人が居るのですか?」

「いいえ、そんな者はおりません」

「ああ、そんな変態的な力の持ち主はそいつだけだ。

 他にはいねぇ。だが……」

「混ぜると反発するなら反発させればいい(・・・・・・・・)

「は?」


 予想外の答えに、思わず口を開けた間抜けな表情を晒してしまう玲治。

 他の者達も驚きを露わにしている。


「手前ぇも身を以って体験しただろうが。

 反発し合う力を抑えられなきゃ、爆発する。

 あの時は俺達の方で出力を絞ったから見た目は派手でも威力は低かったがな。

 力を絞らなければ、いや敢えて限界まで注ぎ込んだらどうなるか……予想が付くんじゃねぇか?」

「う…………」


 玲治は三柱から力を分け与えられた時のことを思い出し、顔を青褪めさせる。

 力の融合を習得するまでに何百回もの爆発をその身で味わったことは、彼のトラウマになっていた。


「私達の力で出来た砦にアレが突っ込んできたら、転移で退避して砦の構築に使った魔力を融合させる」

「成程、それなら確実に爆発に巻き込むことが出来ると思いますが……。

 しかし、貴女達の計画はレージさんに集めた力で打倒することではなかったのですか?

 今伺った方法であれば、極端なことを言えば彼が居なくても成り立つと思うのですが」

「そんなことはありません。

 目に見える攻撃手段も無しに砦だけ作ったとしても、怪しまれてしまうでしょう。

 彼が私達の切り札である、と相手に思わせておくのも肝要です」

「まぁ、当初の計画から変わってることは事実だがな。

 あの野郎には既に知られちまってるし、多少の修正は必要ってことだ」


 狭間に来る前の一幕で、彼の邪神は三柱が計画を玲治達に語る場に乱入してきた。

 既にその時から彼らの計画は筒抜けになってしまっているのだから、当初の計画に固執することは何の得も生まない。


「もちろん、第一段階でダメージが与えられればその必要はありません。

 その判断は、実際に対峙することになる貴方に任せます」






 そして、自分の力では「邪悪なる群体」を倒し切れないと判断した玲治は、第二計画への移行を指示したのだった。




 ◆  ◆  ◆




「……ふぅ」


 転移魔法で砦があった場所から少し離れた場所に降り立った玲治。

 数瞬遅れて、三つの転移反応が彼の後で起こった。

 姿を見せたのはアトランダム一行と管理者の三柱だ。


「レージさん!」

「よかった、無事だったのですね」


 パーティメンバーの少女達が玲治の姿を見て駆け寄る。

 砦によって守られた管理者達の傍に居た彼女達と異なり、玲治は剥き出しになった砦の上部で強大な敵と直接対峙していたのだ。

 それも、言ってみれば相手に本当の狙いを掴ませないための囮として。

 もちろん彼女達も玲治の合図を受けて計画が第二段階に移行したことは分かっているので無事だということは頭では分かっていたのだが、それでも心配の念は抑えられなかった。


「話に聞いていた以上に凄まじい威力だったな。

 これであれば如何に彼の邪神とはいえ……」


 ミリエスが前に進み出て未だ噴煙が収まらない砦の跡地を眺める。

 爆発は転移とほぼ同時だったため彼女達はそれを直接視認したわけではなく音と衝撃を感じただけだったが、それだけでも桁違いの威力があったことは理解出来た。

 倒し切ることは不可能だと事前に聞いてはいたが、これだけの爆発であればひょっとして……と彼女が期待してしまうのも無理はない。


 しかし──。



「いかん! 下がれ!」

「……え?」



 噴煙が切り裂かれるのと同時に、ミリエスの姿が消える。

 何かが伸びて来て彼女を撥ね飛ばしたと判断出来たのは彼らのうちの半数ほど。

 その彼らも彼女の名を呼ぶ余裕すら持てず、次々と襲い来る攻撃に為す術なく倒れてゆく。


 玲治が状況を悟ったのは、彼自身の身体が宙を舞ってからだった。

 先程まで砦が存在した方向から伸びてきた触手に撥ね飛ばされ空高く舞い上がった彼の身体は、重力に従って地面へと落下する。


 たった一撃。

 それも、相手にしてみれば手の甲で軽くはたくようなそんな一撃で、彼は継戦能力を奪われてしまった。

 いや、彼だけではない。

 人族も、魔族も、そして神族もことごとく倒れ伏していた。

 立っているのは、吹き飛ばされた噴煙の中から姿を見せた異形「邪悪なる群体」のみだ。


【今のは少し驚いたよ。

 君の特性を利用すると見せ掛けて、裏であんなことを企んでいたとはね。

 なかなか愉しかったよ】


「邪悪なる群体」は称賛を述べるが、それを言葉通りに受け取る者はいない。

 知恵を絞って出来得る限りの手を打っても、結局のところ圧倒的な力の差は覆せない……そう嘲笑っているのが目に見えたためだ。


【まぁ、流石にもう出し物も終わりみたいだね】

「あ、あれだけの爆発で無傷なのか……」

【うん? まぁ、ちょっとは痛かったよ。

 流石に僕も無敵というわけではないからね、防御力以上の攻撃を受ければ傷付きはするさ。

 単純に、君達の攻撃ではそれが足りないだけだよ】


 それはある意味において、トドメとも言うべき言葉だった。

 何らかのスキルなどで攻撃を無効化しているのならば、その弱点を突けば対応出来るかもしれない。

 しかし、単純に自分達の攻撃が相手の防御力を上回ることが出来ないのなら、対策など存在しないためだ。


【さて、思ったよりも愉しませてもらったし要求を聞いてあげてもいいんだけど……】


 その言葉に思わず希望を抱いてしまった玲治は反射的に顔を上げる。

 しかし、「邪悪なる群体」は触手の一本を伸ばして彼の脚を掴んで空中へと吊り上げた。

 撥ね飛ばされたダメージが抜けないうちに乱暴な扱いを受け、玲治は苦痛に呻く。


「……うぐ……ぁ……」

「レ、レージさん──ッ!?」


 少女の上げる悲痛な声を背景に、玲治は「邪悪なる群体」の頭部(?)の正面へと逆さ吊りのまま運ばれる。

「邪悪なる群体」の身体には幾つもの口が存在するが、その中でも特に大きな口が今彼の目の前にあった。

 一本一本が玲治の腕と同じくらいの太さと長さを持った鋭い牙が何本も立ち並ぶ、凶悪な口の前にだ。

 目の前の光景に青褪める玲治に向かい、「邪悪なる群体」は邪悪に嗤い囁いた。


【──なんてね?

 君自身がもう少し頑張ってくれたらよかったんだけど、

 さっきのあれは管理者達の仕業だしね。

 これじゃ、ご褒美を上げるわけにはいかないよ】


 嘲笑と共に大口が開かれる。

 彼の身体など容易く引き裂くであろう牙と共に。

 何とかこの場から逃げようとする玲治だが、先程の触手の一撃で負ったダメージにより身体を上手く動かせず、手に持っていた筈の運任せの剣も何処かにいってしまった。

 頼りの魔法も、焦りのせいで上手く集中することが出来ない。


【それじゃ、さようなら(いただきます)


 迫り来る死に、玲治は思わずギュッと目を瞑る。

 為す術なくその光景を見るしかない少女達も、堪えられずに目を逸らした。








 次の瞬間、玲治の身体は「邪悪なる群体」の大口の中へと飛び込んだ。


「うわああああああーーーーーーッ!?」

「レ、レージさんッ!!」

【へ? ──ごふぇッ!?】


 牙によって噛み砕かれたわけでも、「邪悪なる群体」によって放り込まれたわけでもない。

 彼自身が自ら飛び込んだのだ。

 といっても、別に玲治が自棄になって自害を目論んだとかそういうわけではない。


 それは、飛行魔法によるものだった。

 玲治が魔法を意図的に発動させたわけではなく、オート魔法のスキルによるものである。


 いきなり体内へと飛び込んできた異物に、「邪悪なる群体」はくぐもった声を上げる。

 しかし、たまったものではないのは飛び込んだ玲治の方も同じだ。

 彼の主観で言えば、喰われたとしか思えないのだから無理もない。


「うぐ……うわああああッ!」


 生温かく異臭のする「邪悪なる群体」の体内で、半ば狂乱状態の玲治は何とかその場から逃げようと管理者達から与えられたラインを最大限に起動させる。

 いや、起動させてしまった。


【ちょ、待、それは拙──ッ!?】


 彼が今居るのは「邪悪なる群体」の体内。

 当然、その場は「邪」「混沌」「闇」「悪」「死」といった負の力で満たされている。

 常人であれば即座に死ぬか発狂するような場所だ。

 普通の人族よりは遥かに耐久力がある玲治も、長い時間は耐えられない。


 如何に三柱の力を束ねられるようになった玲治とはいえ、そんな環境で普通と同じように力を振るえるかと問われれば……到底無理な話だ。


 その結果──。








「ぎゃああああああ──ッ!?」

【ぎゃああああああ──ッ!?】


 奇しくも一人と一体は全く同じような悲鳴を上げた。




 ◆  ◆  ◆




「…………う……」


 黒く塗り潰されていた彼の意識は


「あ、レージさん。

 気付かれたんですね」

「……テナ?」


 顔の上から掛けられた聞き覚えのある声に、玲治は目を開いた。

 目の前には、金髪の少女の可憐な顔がある。

 心配そうにしながらも、彼が目覚めたことで安堵の色があった。


 思えば、彼女の膝に寝かされたのは何度目だろうか。

 そんな取り留めの無いことを考えていた玲治は、顔を横に向けた瞬間に硬直することになる。


「オラァ! くたばれ!」

「悔い改めなさい!」

「てい、てい!」

「あははははは」


 三柱の管理者が簀巻きにされた黒髪の少年を取り囲んで足蹴にしていたのだ。

 もっとも、効いている様子はなかったが。


 結局のところ、拘束されてるのも一方的に蹴られているのも、彼の気まぐれに過ぎない。

 その証拠に、玲治が目を醒ましたことに気付いた彼はあっさりと拘束から脱して立ち上がった。


「ああ、彼が目覚めたみたいだね」

「──ッ!?」

「クッ!?」

「チッ!」


 自由になった「彼」の姿に、管理者達は慌ててその場から下がった。


「さて……それじゃ話をしようか」


 少年の姿に戻ってもなおその力が健在だと感じさせる威圧感に、みな息を呑む。

 そんな彼らの緊張感を無視しながら、「彼」は玲治に向かって問い掛けた。


「僕の思っていた以上に愉しませてもらったし、約束通り要求を聞いてあげるよ。

 元の世界に帰りたい、君の望みはそれでいいのかな?」

「それは……」

「レージさん……」


 邪神の問い掛けに、玲治は即答出来ずに隣に立つ金髪の少女の方へと視線をやる。


 以前、テナとの会話の中でも迷ったまま答えを見付けられなかったこと。

 家族や友人の居る元の世界へと帰るのか、それともこの世界で出会った少女と共に生きてゆくのか。


 いずれ答えを出さなければならないとしながらも、結論を出せずにいたことだ。

 しかし、ここが分水嶺。

 今こそその答えを出さなければいけない。


「俺は──」

次回、完結

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