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召喚アトランダム  作者: 北瀬野ゆなき
【第五章】最終試練編
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第98話:真・邪神戦(後)

 玲治が邪神アンリから分け与えられた力を何とか運用出来るようになり、いざ最終決戦へと挑もうとしたところで、三柱はそれを制止して作戦会議を開くことを求めた。


「これから奴と戦うことになるわけだが、ハッキリ言って考えなしに突っ込んでも無駄死にするだけだ」

「そうですね。

 口惜しいですが、力量差すら正確には計れていないのが現状です。

 それだけの差があるとなると、正攻法ではまず無理でしょう」

「性格は悪いけど強力なのは間違いない。性格は悪いけど」


 無表情な外見に反して強い恨みの籠められた言葉で「性格が悪い」を連呼する邪神アンリは兎も角、彼らの言っていることは玲治達にも理解出来た。

 元々、これから相対することになる敵の力量は三柱よりも上、仮に管理者達の企み通り玲治を媒介にして三柱全ての力を合わせたとしても、倒すには至らないだろうというのが彼らの見積もりだった。


「それは分かります。

 しかし、作戦を立てようにも相手の情報が無いと立てようが……」


 玲治は彼らの言葉に納得しつつも、困惑しながらそう答えた。

 彼自身、敵となる邪神とはまともに相対したことすらない。

 目の前の管理者達は相対したことはあるそうだが、それでも戦ったわけではないらしい。

 どんな戦い方をするのか全く不明な相手に対して作戦を立てるということに無理があるのは、彼にも分かる。もっとも、分かったからと言って対策が立てられるものであるかは別の話だが。


「まぁ、そうだな。

 万全な対策なんぞ、立てられるわけもねぇ。

 出来るとしたら、ある程度の前提を元に大まかな対応パターンを組んでおくってとこだな」

「前提?」

「考えられるものは幾つかありますが、あまり多過ぎても咄嗟の対応が難しくなります。

 この場合は、二つに絞った方がよいでしょう。

 具体的には、相手が人型ないしは同等のサイズだった場合と、そうでなかった場合です」

「なるほど」


 管理者達の話では、敵である邪神は少年の姿をしていたということだったが、それが全てとは限らない。

 これまでの三つの階層を見れば、戦闘時は別の姿に変わっても不思議ではなかった。


 身体のサイズというのは、戦闘において重要な要素の一つだ。

 自分と同等のサイズの相手と戦う場合と、ドラゴンなどの巨体を相手取る場合で採り得る戦術は全く変わってくる。


「相手が人型ないしは同等のサイズだった場合ですが、この場合はパーティメンバーと隊列を組んで当たった方がよいでしょう。

 人型だからといって攻撃力や防御力が相応とは限らないため油断は禁物ですが、少なくとも人としての動きの範疇で対応が可能な筈です」

「では、逆の場合は?」


 玲治の問い掛けに答えたのは、光神ソフィアではなく邪神アンリだった。


「怪獣退治のつもりで戦う」




 ◆  ◆  ◆




「怪獣退治、か。

 言い得て妙だな」


 狭間の第四階層に突然姿を現した砦の上部で、玲治は運任せの剣を振り下ろした格好のまま油断なく正面に立つ「|邪悪なる群体《Evil Colony》」を睨む。


 そう、正面だ。

「邪悪なる群体」の頭部と思わしき部分は、丁度玲治の立つ砦の上部と同じくらいの高さに来ている。

 それ故に、真っ正面を見据えると醜悪にして奇妙な敵の姿がよく見えた。


 運任せの剣によって発現する中で最も強力な極光の剣──引き当てるまで何度か「振り直し」をする羽目になったが──による攻撃を当てたものの、傷付いた様子は見られない。

 三柱の力を用いない範囲ではあるが、現状の自身に出来る最大である筈の攻撃が大したダメージも与えられていないという事実はそれなりにショックが大きかったが、予想出来たことでもあるので早々に気持ちを切り換える。


 彼が今立っている砦は、管理者達が合作で創り上げたものだ。

 彼らの持つ力は相反するが故に、一つに合わせることは難しい。だからこそ、それが可能な玲治を媒介とすることで「邪悪なる群体」へと一矢報いることにした。

 しかし、それはあくまで攻撃の話だ。

 防御に関して言えば必ずしも力を混ぜ合わせる必要はない。層のように構成すれば、そんなことをしなくても防御力の強化が出来るためだ。


 砦の基盤は光神ソフィアと闇神アンバールによって構築され、その上に邪神アンリが「邪悪なる群体」からの攻撃を和らげるための結界を張っている。

 更に、それぞれの力をより強化するために玲治を除くアトランダムメンバーも分散して対応する管理者の周囲で力を集めていた。

 聖弓の勇者オーレインと聖女フィーリナは光神ソフィアに、先代魔王エリゴールと火の四天王ミリエスは闇神アンバールに、人族のアンリと邪神の眷属テナは邪神アンリに、それぞれ力を与えている。

 もちろん、それらの力は神族の力と比較すれば小さなものだが、どのみち「邪悪なる群体」に散発的な攻撃を仕掛けたところで全く通じないのだから、少しでも砦を強化して防御力を高めることに回す狙いだ。


 そして、それは同時に管理者三柱もパーティメンバーも攻撃を捨てて防御に回るということであり、攻撃を全て玲治に託すということでもある。

 そんなプレッシャーが掛かる中、玲治は敢えて運任せの剣を鞘へと収めて引き抜いた。


「よっ、と」


 何度か引き直すことになったが、目的の剣を引き当てることが出来た彼は改めて剣を構えて丁度同じ高さに位置する「邪悪なる群体」と対峙する。


「わざわざ待っててくれるなんて、随分とサービスが良いんだな」

【君がどんな剣を引き当てようとしているのか、気になってね。

 でも、本当にそれでいいのかい?

 さっきの光の剣の方が強かったと思うけど】

「これでいいんだ。こっちの方が都合がいい」


 玲治が引き当てた剣は、飾り気の無い武骨な長剣だった。

 頑丈そうであり数打ちの量産品にはない凄みはあるが、流石に先程まで玲治が持っていた極光の剣を超えるような力は感じられない。

「邪悪なる群体」が首(?)を傾げながら問うたように、わざわざ弱い剣に切り換えたようにしか見えなかった。


 しかし、玲治は敢えてこの剣を選んだ。

 理由は、あの極光の剣では彼の持つ力を十分に発揮出来ないからである。


 玲治は「器」としての才で、三柱から与えられた力を束ねることが出来るようになった。

 ここで生じる問題は、如何にしてその力を運用するかという点だ。


 魔法として使うのは論外だ。

 折角本来相反する属性の力を融合させることが出来るようになったのに、わざわざ別の色に変換するような過程を通しては意味がない。

 有効なのは、力をそのまま力として用いること。

 彼の場合なら、剣に三柱の力を載せて叩き斬るのがシンプルにして最高の選択だ。


 しかし、極光の剣ではそれは出来ない。

 あれは強力であるが「光」だ。

 そこに魔力を上乗せするのは困難だし、仮に出来たとしてもまともに使えるのは光神ソフィアの力だけになるだろう。

 闇神アンバールや邪神アンリの力は光を阻害してしまう筈だ。


 だからこその、玲治の剣の選択だ。

 余計な機能は無い方がいい。ただただ剣として頑丈な方がありがたい。


【ふぅん。なら、そろそろ見せてよ。君の成果を】

「言われなくても──ッ!」


 玲治は左手の掌を自身の胸へと当てると、意識を集中する。

 三柱から結んでもらったラインを経由して力を引出し、自らの中で撹拌してゆく。

 白と黒、そして黒に似た混沌の色。

 それらが彼の脳裏でマーブルに混ざり合い、融合してゆく。

 名状しがたい色彩へと変化したその力は彼の全身から迸る。

 気を抜けば反発して吹き飛んでしまいそうなそれを、意識して折り畳んでいった。


【へぇ……思ったよりも使いこなせているみたいだね】

「──────ッ!」


 素直な感心を浮かべる「邪悪なる群体」の態度に、叫びたくなるところを奥歯を噛み締めて堪える。

「彼」の態度は、玲治の唯一といっていい切り札を余裕の目で見ているものだったためだ。

 しかし、そんなことに取り合う余裕は今の彼には無い。

 そもそも、こんな風に敵の眼前で準備が出来るのも、相手が余裕を見せているためだ。

 問答無用で襲い掛かられては、為す術なく敗北してしまうことは明らかなのだから、そこに不満を持つことは間違っている。


 玲治は右手に持った剣の刀身に左手の掌を当て、自身の身体を巡る極彩の力を剣へと流し込む。


【さぁ、採点といこう】

「はあああああぁぁぁ──ッ!」


「邪悪なる群体」は砦に対して真っ向から吶喊してくる。

 玲治はそれに対抗するように正面から迎え撃つ……などということはしない。


【え? ──ぐぇッ!?】


 呆気に取られたような声を上げた「邪悪なる群体」は、次の瞬間横からの衝撃を受けて蛙が潰れたような音を鳴らす。

「彼」が意表を突かれた理由、それは突っ込んだ筈の砦とその上に立っていた玲治の姿が一瞬にして横へと移動したためだ。

 直後に襲ってきた攻撃は、言うまでもなく「彼」の横へと移動した玲治による渾身の一撃である。


「彼」の認識では、砦はあくまで足場でしかなかった。

 本命はその上に立つ玲治であり、それ以外の要員は足場を形成するだけで手一杯。そう思っていたのだ。

 しかし、この砦はあくまで管理者達が魔力によって構築したもの。

 その造形は彼らのイメージ次第であり、構造を変更することも魔力次第である程度自由に行える。


「まだだ!」

【イタタタタッ!?】


 好機とばかりに玲治は異様な色の光で輝く長剣を次々と振るってゆく。

 その間も、彼の立っている場所は刻々と変わっている。

 彼が動き回っているのではなく、彼が立っている場所そのものが移動しているのだ。

 玲治は移動も回避も全てそちらに任せて、ただただ攻撃に専念するだけでいい。

 もちろん、そのためには砦の構造を操作して彼を動かしている者達を一片の疑念もなく信じる必要があるため、それほど簡単なことではないが。

 足場は「邪悪なる群体」の周囲を取り囲むように移動しているため、まるで「彼」を包み込んでいるかのような様相となっている。


 玲治は動きの止まった「邪悪なる群体」を一方的にタコ殴りにしてゆく。

 それだけを見れば、圧倒的に優位に戦いを進めているようにも見えるだろう。

 しかしながら、彼の内心はその様子とは裏腹に焦りを浮かべていた。


(痛がってるわりに、ダメージを与えた手応えが全然ない!

 端から倒せるとは思ってなかったけれど、ここまで効かないのは予想外だ)


「邪悪なる群体」は苦痛の声を上げているが、その実は傷付いているわけでもない。

 仮に流れているのならだが、出血している様子もなかった。

 そもそも、痛がっている様子も何処か余裕のあるものに見えて仕方ない。

 例えて言うなら、赤ん坊に髪の毛を引っ張られて痛い痛いと言っているといったところだ。


 ──このままでは無理だ。


 そう判断した玲治は、階下の者達へと向けて叫んだ。


「パターンB!」

【???】


 突然の叫びに困惑する「邪悪なる群体」を尻目に、彼は転移魔法を発動して砦の上部から姿を消す。





【───────ッ!】


 玲治が姿を消した数瞬後、既に原型を留めない程に形の変わっていた砦はその構成要素である魔力の反発によって激しい爆発を引き起こした。

 砦に埋め込まれるような態勢になっていた「邪悪なる群体」をその中央に残したまま。

次回決着(予定)

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