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召喚アトランダム  作者: 北瀬野ゆなき
【第一章】不憫召喚編
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第01話:70億分の1の不運

本作は「邪神アベレージ」(宝島社様より2015年9月7日書籍版発売)の世界に異世界召喚で一人の青年を放り込む話です。

なるべく未読の方でも楽しめるように書きたいと考えておりますが、読んで頂いた方がより一層楽しめると思われますので、ご興味をお持ち頂けましたら目次ページ下部か作者マイページからご覧下さい。

「それでは、勇者召喚の儀を始めなさい」

「はい、承知致しました」


 聖堂の地下、秘密裏に設けられた一室にてその儀式は行われていた。この場に足を踏み入れることが出来るのは、極々限られた者だけだ。


 豪奢な法服を纏った老人の命を受け、白い衣を纏った水色髪の少女が床に描かれた魔法陣の一角に着き、跪いて祈りの姿勢を取った。それに合わせるように同じ衣を纏った少女達が三人、陣の円上に均等に並んで彼女と同じように祈りを捧げる。

 彼女達の纏う衣は非常に薄い素材で出来ており、衣の下が透けて見えてしまう程だった。彼女達は下着も着けておらず、その肌が露わになってしまっている。しかし、その場に淫靡な雰囲気は全く無く、逆に神聖な空気が辺りを包んでいた。


 彼女ら四人の中でリーダーの位置にあると推測される水色髪の少女が、おもむろに勇者召喚のための祝詞を唱え始める。


「慈悲深き聖女神ソフィアよ。

 我らは貴女の信徒にして下僕なり」


 勇者召喚、それはここではない異世界から強者を喚び出す秘術──尤も、喚び出される者からすればこの世界こそが異世界に当たるわけだが──だ。

 喚び出された者は勇者としての称号を世界のシステムによって自然と付与され、その力を以って様々な活躍をする。


「貴女に祈りを捧げ、その慈悲を乞う者なり」


 しかし、勇者というのは何も異世界から召喚された者ばかりというわけではない。この世界の住人の中からも光神の加護を受けた勇者が登場することはある。実際、今代にも三人の勇者が居る。

 ならば何故、わざわざ異世界から召喚など行うのか。それは、この世界の住人よりも異世界から召喚された者の方が強いためだ。


 伝承の中で異世界から喚び出された者達は何人も居るが、みな身体能力、魔力ともにこの世界の住人を上回る力を秘めており、加えて強力な固有スキルを保有していることが殆どだ。

 この世界の者達は彼ら異世界からの来訪者が強力な力を有していることは言い伝えとして知っているが、それが何故なのかまでは知らない。必要がないからだ。召喚する側の者にとっては必要なのは彼らの力とそれが齎す結果であって、原理などには興味が無いのだ。


 それゆえに何らかの困難に遭遇した時、彼らは縋るように勇者召喚を行う。


「今、我らは窮地の中で慈悲を欲する者なり」


 召喚された者が強力な力を保有している理由、それはこの世界と該当の世界の世界自体の力関係が原因である。


 この世界の住人は知る由もないことだが、この世界は召喚勇者達の故郷である異世界の創作をもとに構築された世界なのだ。

 その結果、世界同士の力関係としては向こうの世界よりも下位に当たることになり、召喚によって招かれた来訪者が世界の境を超える際に両世界の力関係を加味した補正が為される。上位世界の存在であれば下位世界の存在よりも上位でなければならない、その概念の辻褄合わせのために強化やスキルの付与が行われる……それが彼らの持つ力の理由である。


「振りかかる脅威を払うため、我らは(こいねが)う。

 願わくは貴女の御力を貸し与えたまえ──」


 ここで、中には疑問に思う者が居るかも知れない。

 世界の力関係において異世界の方が上位に当たるのであれば、そこに住む住人を自由に召喚出来てしまうのは不自然だ、と。

 その疑問は正しい。主導権は実際には上位である異世界の方にあるのだ。


 この世界の住人が召喚の儀を執り行うとこの世界の管理者がそれを異世界の管理者へと取り次ぎ、それに応じて異世界の管理者がその召喚を許可するかどうかを判断する。

 許可する場合は異世界の中で条件に該当する人間を選定し、その者の居場所に転移陣を繋ぐことになる。


「異界の地に扉を開き、強き者を招かん」


 この時、普通の善良な管理者であれば条件に該当する人間の中でも、現実に飽きたり英雄願望を持っているような、召喚に応じる意志がある者を選ぶ。

 この場合、選ばれる者は不運ではない。

 仮に表向きでは召喚されたことに不満を抱いていたとしても、内心では事態を歓迎しているのだ。


 それゆえに、そういった者達は最終的には何だかんだでこの世界に居付くことが多い。


「異界の勇者よ、我らの声に応え馳せ参じよ」











 ただし、全ての管理者が善良であるかと言えば、そんなことはない。管理者の中には当然のように邪悪なモノや性質の悪いモノも居る。邪神や悪神などと呼ばれる存在が、それだ。

 およそ人の良識など考慮しないそれらの者達に繋がってしまった場合、召喚に応じる意志の有無など考慮はされない。


 故に中には不運な被害者が生まれることもある。


『いいよ。丁度退屈していたところだし、適当に見繕ってあげるよ』




 ◆  ◆  ◆




 その青年は、いつの間にか漆黒の空間に立っていた。


「え? な、なんだここ……!?」


 直前まで高校の教室に居た筈の青年、志藤玲治は目の前に広がる光景に困惑して辺りを見回した。しかし、周囲は真っ暗で何も見えない。


 玲治はブレザーの制服を着た十八歳の比較的長身な青年で、この歳の学生にしては珍しく髪も染めておらず黒髪をしている。絶世の美男子と言うと少々大げさだが、顔立ちはかなり整っており、女子からの人気もある。

 がり勉というほど真面目ではないが、不良というわけでもない。どこにでも居るような普通の学生だった。


『ここは世界の狭間だよ』

「だ、誰ですか!?」


 玲治は声をした方を振り向くが、そこには誰もいなかった。変わらない闇だけが玲治の視界に映っている。


『無駄だよ、今は姿を見せてないからね』

「ど、どういうことですか……?」


 別の方向から声が聞こえて、玲治はそちらの方を向く。しかし、やはり誰もいない。翻弄される玲治は、次第に焦りを感じ冷や汗を掻いていた。


『姿を作っても良いんだけどね。

 大抵の相手は僕を直視すると発狂するから声だけにしているんだよ』

「は、発狂?」

『僕みたいな手合いに慣れていたり、素養があれば別だけど。

 君の場合は……五分五分かな。

 僕は別にどっちでも構わないんだけど、試してみるかい?』

「え、遠慮しておきます」


 不穏な言葉に、玲治はその声の主を見ることを諦めた。『声』を信用するわけではないが、五十%の確率で発狂すると言われて見たいとは思えなかった。


『さて、それじゃ本題に入ろう。

 まずはおめでとう、君は選ばれた』

「選ばれた? い、一体何に……」

『異世界からの召喚にだよ』

「は?」


 声によって告げられた現実味の無い言葉に、玲治は思わず間の抜けた声を上げた。しかし、『声』はそんな玲治には頓着せず、勝手に話を進めている。


『向こうの世界に渡るに当たって、何か力をあげないとね。

 希望はあるかな?』

「いや、ちょっと待って下さい!

 異世界からの召喚って、そんな小説や漫画みたいなことを突然言われても」

『希望なしみたいだね。

 それじゃ僕の方で勝手に選ばせてもらうよ』

「ちょ、ちょっと待ってくれ!?」


 理不尽極まりない展開に玲治が慌てて止めようとするが、『声』は止まらない。それまではなるべく相手を刺激しないようにと丁寧な口調を心掛けていた玲治も、余裕を無くしつつあった。


『そうだね。神族系のスキルは前にやったばかりだからナシにしよう。

 それ以外で面白そうなのは……ああ、これなんか良いかも知れない。

 折角だから、その方向で他のスキルも統一しようか。

 あ、安心していいよ? 身体能力は高めにしておいてあげるから』

「いや、先に説明を……」

『じゃ、いってらっしゃい』

「聞けよ!」


 まったく話を聞かない『声』は、玲治の抗議を完全にスルーすると、勝手に自己完結して話を終わりにしてしまった。『声』がそう言い放った直後、玲治の意識は急速に薄れ始めた。


 薄れゆく意識の中、玲治はせめてこれだけはと『声』に尋ねた。


「……一体俺は……何処に連れて……行かれるんだ……?」

『君達人族が好きな、創作を元にした下位世界さ。

 君がその世界で何をやらかしてくれるのか、愉しませてもらうよ』


 その言葉を最後に、玲治の意識は途切れた。




 ◆  ◆  ◆




 玲治の姿が消えた闇の中、入れ替わるように黒い髪をした少年の姿が浮かび上がる。


『さて、出来る限り愉しませてもらうために、最低限のお膳立てはしないとね。

 折角だし、彼らにも手伝ってもらおうかな』


 そう告げると、彼は闇の中に掻き消えるように姿を消していく。

 その口元には、薄っすらと嘲笑が浮かんでいた。

<登場人物から一言>

邪神「愉しませてよね」


<作者からのお知らせ>

・感想返信について

状況を見ながらではありますが、対応が無理と思われる場合は感想返信なしとさせて頂く可能性があります。

大変恐縮ですが、ご了承願います。

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