ただのガラスと推定される
そんなこんなで彼女、アオイのおやつのカップケーキを三人で一つづつ食べながら一緒に旅する事になった。
と言っても少し歩いた先の村で馬車に乗り、都市に向かう。
その馬車に乗る時間は、途中乗継をして二日ほどだ。
ただ女の子の二人旅はそれはそれで色々と面倒な部分があるらしい。
つまり、美少女である彼女達に声をかけてくる男が後を絶たないのだそうだ。
「そんなわけで、ユウト君と一緒に移動できるのは、私達にとって凄くいいの。特に腕っぷしも強いからね」
「はあ。僕ってそんなに強いんですか? うちの村は皆こんな物だった様な気がするけれど、やっぱりこのスコップの影響かな?」
「そうなの? じゃあスコップなしで私と試しに戦ってみる?」
活発そうな帽子をかぶった彼女にそう言われた僕だけれど、ただ僕としては、
「あの、僕、まだ貴方の名前すら聞いていないんですが」
「ん? そうだったっけ。ごめんごめん。私はリン。如月リン」
「? 苗字と名前が逆じゃないですか?」
「あ、そういえばそうだったわね、つい、癖でさ。リン、それが私の名前」
「リンさんですか」
「呼びすてでお願い、さん付けされるのって慣れていないのよ」
冗談めかしたように言うユナに僕はとりあえずは、先ほど貰ったカップケーキの最後の一口を口にする。
新鮮なクリームののった素朴なケーキだが、品の良い甘さと香辛料の香りがしてとても美味しかった。
そのケーキをおやつとして持っていたアオイは、また失敗しちゃったとぶつぶつ呟きながら落ち込んでおり、先ほどやけ食いするかのように一口でカップケーキを飲み込んでいた。
なかなかいい食べっぷりだった。
さてその件については置いておいて、何でこんな風に女の子二人で旅をしているのかというと、
「観光も兼ねて色々回ってみる事にしたの。私、この世界の事ってよく知らないからさ。仲良くなったアオイちゃんにお願いして旅行に連れて行ってもらう事にしたの」
「そうなのですか。やっぱり都市観光が最終目的なのですか?」
「うーん、私達は都市出身だから田舎の方が物珍しいかな? それで旅して今は都市に戻る最中なの」
「都市出身……まだ都市には、雪トマトを売りに行ったくらいしか記憶が無いので、出来れば都市の人お勧めのスポットを紹介してもらえるといいですね」
「そう? じゃあその内案内してあげるよ。しばらく都市にいるの? というか何でそんな凄そうなスコップを持って都市に行くの?」
「実は……」
リン達に僕のこれまでの経緯を説明すると……リンには爆笑され、アオイには冷たい目で見られてしまった。
確かにあのときはちょっと悪のりした感じではあったけれど、
「というわけで都市に向かうように女神様に言われたので」
「ふーん、お姫様の呪いを解く、ね。確かに都市の城にいるお姫様には呪いがかかっているって聞いた事があったけれど……」
「じゃあその呪いを僕が解く事になるのかな?」
「ん~、なのかな~、アオイ、どう思う?」
「そうなんじゃない。私達には関係ないわ」
プイッとそっぽを向くアオイ。
僕の前で失敗したのをそんなに気に病んでいたのだろうかと僕が思っていると、リンが、
「アオイ、そういう態度は良くないぞ? 大体、アオイの魔法プログラムが“失敗”するのはいつもの事じゃない」
「な! そんな事はないわ。いざという時は発動しているもの」
「予定通りの炎じゃなくて氷だったり雷だったりその逆だったりしているあれだよね?」
「け、結果が全てなの!」
「だったら失敗したのも受けとめようよ。負けず嫌いというか、好みの男の子相手に意地張っているみたいだよ~、にまにまにま」
リン、後で覚えていなさいよ。その帽子がどうなってもいいって事だと受け取ったわ」
「や~ん、アオイがいじめるぅ~」
女の子同士の会話を聞きながら、仲が良いな~と思っているとそこでアオイが深々と嘆息し、
「それで、ユウト。貴方、そのスコップで地面はもう掘ってみたの?」
「いや、まだだけど?」
「都市は石畳の道で掘るのは大変だからこの辺りで掘ってみたらどうかしら」
「あ、確かに」
言われてみればそうだなと思って、僕はざくっと未知のはじの方で地面を掘る。
と、カチンと硬い物がスコップの先に当たる。
さらに掘り進めるとガラスの立方体の様な物が出てきた。
拾い上げるとそれは透明だと分かる。
それを見たアオイが、
「なんだ、ただのガラスじゃない」
「そうなのかな?」
「ええ、私が言うのだから間違いないわ」
「……でも綺麗だからユナへのお土産にしよう」
そう僕は呟いてそれを袋にしまったのだった。
そこはとある大きな屋敷にて。
「そろそろ私も大人げないし呪いを解こう。うん、そうしよう」
一人の女性がそう呟き、庭の土を掘る。
「確かこの辺の箱の中にあったはず。……あれ、軽い」
そう取り出した金属製の箱を開けた彼女は真っ蒼になる。
慌てたようにその埋めた場所を書いてある日記帳を見て彼女は更に蒼白になりながら、
「やばい、何で中身が無いの?」
と、一人呟いたのだった。