第一回、魔法戦に遭遇
輝くような満面の笑みを浮かべていいるアオイに、何だかな、と僕が思っているとそこで、
「この私特製の魔導書、“タマちゃん、その3”の力を見せてあげるわ!」
「……魔導書?」
僕は聞いたことのない言葉に首を傾げる。
本は本以外の何物でもないと思う。
確か村の小さな図書館には絵本と図鑑と、教科書とちょっとした文庫本が置いてあるだけで、彼女の持っているような凝った装丁の本は置かれていなかった。
でも、魔導書なんて本があるなんて聞いたことがない。
そんな僕を見て、彼女、アオイは、
「あら、魔導書も知らないの? でもそれはそうでしょうね、これは特殊な魔法の一種だもの。使えるものもこの世界にほとんどいない、特別な魔法……。それに、魔法を使える人間自体が少ないから、こんな高度な魔法に出会えるなんて都市の特別な場所か、たまたま特別な人に出会えないと知りことすらなかったでしょうね」
「はあ」
「そもそも貴方、スライムを吹き飛ばせるようなすごい武器のようなスコップと体を持っているようだけれど、魔法なんて使えないでしょう? 田舎出身みたいだしまともな魔法教育も……」
「使えますけれど」
「……魔法が?」
「はい」
それに彼女はさきほどまでの得意げな様子を消し去り、じっと様子をうかがうように僕を見て、
「どんな魔法?」
「例えばこう、手をかざして『ファイヤー』というと出てくるような、根性で出すような魔法です。というか、魔法ってそういうものですよね?」
「……貴方、魔法使いの家系か何かかしら? 例えば都市から追われたような……」
「いえ、普通の農家です。あ、都市に雪トマトを売りに行ったりはしていますよ」
「……何だか貴方と話していると混乱してくるわ。まあいいわ、私の魔法の実験台になってくれるようだから、その程度の“嘘”は大目に見てあげましょう」
全部本当のことを話していたはずなのに、何故か嘘扱いされてしまった。
酷いなと思っている僕の目の前で、アオイが持っていた本を開く。
「“タマちゃん、その3”、我が呼び声に応えよ、“3つの書”」
それと同時にほんの名から更に小さな文庫本のような本が3つほど光り輝くその本のページから現れる。
本から本が増えていくので更にその文庫本から本が増えるのだろうか、と考えて僕はあ頭が痛くなってきたので考えるのをやめた。と、
「さあ、あの標的を攻撃しなさい!」
そう告げると共に、三冊ほどの文庫本が僕の方に飛んできたのでとりあえず、“万能スコップ”を構えて、程よい位置に来た所で横になぐ。
カキーン
三冊の本は、以前のスライムと同じように青空の彼方に飛んでいき星に……ならなかった。
遠くへと飛んでいったその三冊の文庫本は、すぐさま引き返すように僕の方に飛んでくる。
もう一度吹き飛ばすかと僕が思っているとそこで、
「何度打ち返しても無駄よ、標的を自動的に追尾する魔法が組こんであるもの」
「となると完全に破壊しないといけないってことか」
「残念ね、貴方のスコップが届かないところから攻撃させてもらうわ! “開放せよ”」
楽しそうなアオイの声とともに、その文庫本が自分からページを開き、そして。
ぽんっ
空中の僕が手を伸ばせば届くような高さで止まったかと思うと、白い煙を出してその上には、
「クリームの載ったカップケーキ?」
「あ、あっ、それ、私のおやつ……そんな、炎を召喚するはずだったのに……」
そう嘆くアオイを見ながら僕はそのカップケーキの一つに目を落として、
「一つ食べていいかな?」
「……勝手にして」
地面に手をついていじけるアオイを見ながら僕は、その内の一つのカップケーキに手を伸ばしたのだった。