番外編~春休みに準備中-3
さて、喫茶店の会計を済ませて、人気のない都市の郊外に向かった僕達。
エーデルとメイサさんの腕試しであるらしいが、
「おーい、ユウト達、どうしたんだ?」
「あ、ミナト、実はかくかくしかじかで」
ようやく起きてきたらしいミナトが現れた。
なので合流したので僕は説明をしました。
それにミナトが変な顔になり、
「へぇ、伝説の魔女エーデルの天敵で、全然勝てないという伝説の人物か。しかも女神様の血を引いていないのにその強さ……もしやアルバ村に移住すればそこにいるだけれでどんどん強くなったりするのか?」
「まさか、まさか……えっと……え……」
そんな楽な方法が取れるわけないじゃないかと僕は言い返したかったが、アルバ村とはいえ、他の村からお嫁さんに来る人もいて。
そしてスライムをカキーンと吹き飛ばしたりするのも、異常な事であるらしい。
だが村に来た人はみな、その程度が可能な人達ばかり。
「あれ、本当にそんな力がある?」
「ないわよ~」
どこからともなく女神様の声がした。
どうやらこの状況が面白いのでずっと見ているのかもしれない。
とはいえ、今の話からすると、
「ではどうして皆強いのでしょう」
「そういう人と恋に落ちているだけだと思うわ」
「でも大人しそうなミルカおばさんとかは……」
「人は見かけによらない物よ~」
「なるほど。ミナト、そういうことらしい」
女神様と会話をした僕がミナトにそう告げると、ミナトは頷き、
「じゃあアルバ村に行っても能力底上げにはならないか。残念だな」
「そういえばミナト、どうして強くなりたいんだ?」
「それは、強くなれるならなりたいじゃないか。それも楽にできるなら最高だ」
「それもそうだね」
などと僕達が話していると女性陣がじーっと僕達を見ている。
その目に何か冷たい物を感じた僕は、
「べ、別に楽して強くなってもいいじゃないか」
「強くなってどうするの?」
ユナに問いかけられた僕はそこでちょっと考えてから、
「いざという時に身も守れるし?」
「危険な事に首を突っ込まない、これは重要な事よ? 身を守るにはね」
ユナに僕は怒られてしまった。
確かに危険な所に自ら突っ込んで行くのは、身の安全という意味であまりよくない。
ユナは幼馴染として僕を心配しているのだろう、そう僕は思ったので、
「そうだね、ユナを心配させちゃうしね」
「べ、別にそういうわけでは……」
もじもじとしだすユナを見ながら僕は、いい幼馴染を持ったなと僕が思っているとそこで肩を叩かれた。
そこにはミナトがいて、妙に笑顔で、
「幼馴染か。こんな可愛い幼馴染が俺も欲しかった。……リア充め、絶対に許さんぞ」
「! どうして僕の敵にまわろうとするんだ!」
「ふん、まだお前は分かっていないようだな。この俺を貴様は今……うぎゃ」
そこでミナトが変な声を上げた。
見るとそこではアオイが本を持っていてそれで叩いたらしい。
「アホなことをやっていないで、あの二人の様子を見ていましょう。エーデルはかなりご立腹のようだけれど」
「あーほんとだ。何かブツブツ言っているな」
ミナトがそれを見ているとそこで、声がやけに鮮明に聞こえた。
見ると、リンが鋼線を使い糸電話のような物が見える。
どうやらそれで声が増幅しているらしい。
「く、やっぱりお姉チャンが全部裏で糸を引いていそう。説明してくれてもいいのに。あのババア、絶対に全部知っていてだまっ……うぎゃぁああっ」
ババアと悪口をいうとまたいつものように“コピー本”が落ちてきたようだ。
それに珍しくミナトが反応する。
「あ、それ“バラタの念書”だろう? 結局それは読めてないんだよな。これ先に読ませてもらってもいいか? アオイ」
「いいけれど、珍しいわね。ミナトが読んでない本て」
「まーな。でもまさかこんな所で手に入るとは思わなかった。良かったな……えっと」
そこでミナトはジト目で見る魔女エーデルに気づいたようだ。
冷たい目でじっと見ているその様子にそれ以上ミナトは何も言わず、そこで、
「この辺りだと良さそうだな」
そこでメイササンが言ったのだった。
戦闘の結果で見れば、メイサの圧勝だった。
「うむ、相変わらずエーデルは弱いなぁ」
「こ、この……農作業なんてどう考えても嘘じゃない!」
エーデルが地面にうつ伏せになりながら叫んでいる。
それはもう瞬殺というレベルで倒されたのでそうとしか言えないのかもしれないが、そこでメイサさんが深々とため息を付いて、
「農作業って大変なんだぞ? 土を掘り返して種を撒いて、魔法を使ったりもするが、体力がいる。しかも害獣というか、スライムの食害も洒落にならないくらいにダメージが来るしな。作り始めの頃の“雪トマト”は美味しそうな頃になると鳥も来るが、スライムも食べにやってきて大変だったしな」
「う、うぎゅ」
「それでそれ用の罠や工夫をしていたんだけれど、エーデルにはスライム用の罠が効くみたいだな」
「ひ、人をスライムといっしょにするんじゃ無いわよ! 本当に嫌なやつね」
「ははは。それでどうする? 今日は」
つまり更に戦闘を続けるかとメイサさんは聞いたらしい。
それを聞いたエーデルは悔しそうに呻いてから、
「く、今日はこれくらいにしておいてやるわ」
「はいはい。さてと」
「ちょ、何をするのよ!」
そこでエーデルが焦っているも、メイサさんがエーデルをお姫様抱っこする。
顔を赤くするエーデルにメイサさんが、
「動けないならこのまま宿に連れていってあげよう」
「! 回復魔法をかけなさいよ!」
「嫌だな~」
メイサさんが楽しそうにそう告げる。
そんな二人を見つつ、僕達といえば、
「あ、そういえば僕のうちの雪トマトを味見に持ってきたんだった」
「へー、美味しそう」
アオイがそれを見て美味しそうという。
なので皆にそれを配り、食べながら美味しいね―と話していたりして僕は嬉しかった。
結局倒された魔女エーデルが、宿に連れて行かれてもう二度とこんな都市に来るか、ろくなことがないとぼやいていた。
「あ、エーデルさん、また会えますか?」
「……あんたらアルバ村の連中もメイサも、二度と会いたくないわ」
「……」
「ま、まあメイサじゃないなら、別にいいわよ」
僕が黙ってしまうと、エーデルはそんなことを言ってくれた。
でもメイサさんは、
「ははは、と既読これからは様子見にいろいろな場所に行こうかな」
「ふん、確率でメイサに会うことなんて少ないし」
「少ないのに昔はよく遭遇したな」
「……」
「……」
「あんた、まさか私をストーカーしているんじゃ」
「僕は君がストーカーしちる疑惑があるけれどね」
そこでお互い睨み合いになった。
どうしようかと思っていると僕の見た先に雪トマトがあるのに気づき、
「あ、これうちの雪トマトです、どうぞ」
「あら、ありがとう。……美味しかったらまた買いに行くわ」
「よろしくお願いします。乾燥トマトなんかもありますよ?」
「トマトの甘露煮は?」
「売っています」
「よし、その内買いに行きましょう」
と言ったエーデルとの会話に、僕の店にはこないのかな、安くしておくよとエーデルが言われてちょっと悩んだろしつつ、そこで僕達は別れて。
それからは喫茶店で雑談したりして過ごす。
次の日にはようやく入れるので、寮に行ったり、その後は店の手伝いをしたり。
そんなふつうの日々の中、エーデルが女神様のゴリ押しによって、僕達の高校に来ることになるのは、もう少し後の出来事だった。
「おしまい」




