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番外編~春休みに準備中-2~

 魔女エーデルの逃げ足は早い。

 涙目になって必死に逃走している。

 そんなエーデルを、楽しそうにメイサさんが追いかけている。

 

 それはもう、お気に入りの“玩具”を見つけたかのように。

 輝かしい笑顔で走り去るメイサさんの後を僕達が追いかけていく。

 いずれエーデルがメイサさんに捕まるだろうことは明白なこの状況を見つつ、後でおやつに“雪トマト”を食べようと思いいくつか入った袋を持って僕は走っていた。


 休日なので人が多い。

 けれど隙間をぬって、まるで猛獣から逃げ出そうとする仔ウサギのようにエーデルは逃げているが……メイサさんとの距離は縮まりつつあった。

 出来れば早く捕まえてもらえれば、僕はそこで走るのを止められるので早くしてくれないかなと思った。


 だがエーデルは、頑張る頑張る。

 よほどメイサさんの“鬼畜”っぷりに苛まれたのがトラウマになっているのかなと、僕は人事のように思った。

 と、そこでメイサさんが走るスピードを上げた。


「僕から逃げようなんて、100年早いなぁ」

「ぎゃああああああ」


 そこで魔女エーデルはメイサさんに腕を掴まれた。

 それでもまだ逃げようとしているらしく、必死でジタバタしていたエーデルだが、そんなエーデルにメイサさんが、


「まあ、あれから時間が随分経ったし、今回は自分で解いたり色々したらしいから“何もしない”よ?」

「……ほ、本当?」

「ん~、嘘かな?」

「いやぁあああああああ」


 恐慌状態に陥ったらしいエーデルにメイサさんが、


「というのも冗談で、今回は頑張ったらしいから何もしないよ」

「……」

「よくがんばったね」

「……」


 メイサさんが怯えるエーデルの頭を帽子の上から撫でられていた。

 珍しく大人しく撫でられているなと思いつつそこで、


「とりあえずは近くの喫茶店でも行って、話そうじゃないか。久しぶりに会ったんだしね」


 そんなふうにメイサさんが言い出したのだった。








 そんなわけで、近くの喫茶店に入った僕達は、メイサさんにジュースを奢ってもらっていた。

 ここのお店で人気であるらしい、チョコレート風味のソーダを僕達は注文しながら、そこで空気のように存在感を消しながらこの状況を見守っていた。

 現在メイサさんの隣りに座った魔女エーデルが血の気の引いた顔で座っている。


 そこで目の前にある僕たちと同じ飲み物を飲んでいたメイサさんが、


「エーデルは飲まないのか? ダイエット中?」

「……誰のせいだと……いえ、落ち着くために飲もうかしら」


 そう言って飲み物に口をつけると、ごくごくと半分程度飲み干してからエーデルはふうっと自身を落ち着かせるように息を吐いて、


「それで、何であんたがここにいるの?」

「ん? いや、ユウト君達から今回の事の顛末をきいてね。どうやらまた振られたらしいから、からかおうかと」

「な、何の話?」

「この国の王様を王妃さまと取り合ってまた振られたって話かな」


 エーデルがそれを聞いて半眼になり、


「いつの話よ、随分前じゃない」

「ん? その後も一人ってことは延々と振られたのかな?」

「……」

「どうやら図星のようだね。ふむ、相変わらずふられ続けているのか~」


 楽しそうに笑うメイサさん。

 だがそんなメイサさんにエーデルはムッとしたように、


「なによ、こんな美人な私を振るほうがおかしいのよ!」

「確かにエーデルは見ているだけなら美女だからね」

「でしょ! こんな美しい私。そう、全ての男は私の美貌にひれ伏すべきなのよ!」

「ははは、相変わらず頭の悪い事を言っているな」

「……」

「……」


 じろりとエーデルがメイサさんをにらみ、


「そもそもあんたも私の美貌にひれ伏すべきよ! 何でひれ伏さないの!」

「何故って……だからエーデルは喪女なんじゃないのか?」

「……」

「……」


 エーデルが涙目でメイサさんを睨んだ。

 だがメイサさんは相変わらず笑っていて、


「本当に性格が悪いわね。どこからどう見ても本物にしか見えないわ」

「それは本物だからね」


 その答えを聞きながら何故かエーデルは僕を見た。

 空気になっていたはずなのに何でだろうなと僕が思っていると、エーデルが、


「このメイサ。私が最後に会ったのは、100年位前だけれど、何で生きているの?」

「確か、伝説の古代竜を倒した時に、返り血を浴びて不老不死になったとききましたけれど。そうでしたよね? メイサさん」

「そうだよ。いや~、あれは強かったなぁ、ははは」


 笑うメイサさんを見て魔女エーデルがそんなバカなという顔をしている。

 だがすぐに僕を見て頷き、


「そうね。あのアルバ村の住人。お姉ちゃんの末裔ならそれぐらいの力は……」

「あ、僕は連れ子だからあそこの人達と血は繋がっていないんんだよね」

「……」


 エーデルが沈黙した。

 沈黙して恐る恐るメイサさんを見て、


「元々あの村の住人じゃない?」

「うん」

「一般人?」

「うん、そうだね」

「私、この世界の一般人に、あんなメやこんなメにあわされたの?」

「うん、そういう事になるね」


 微笑むメイサさんに逆にエーデルが更に顔を青くして、


「お姉ちゃん、お姉ちゃん、何で黙ってたの! こんなのがいるなんて知らないわよ!」


 自分の姉である女神に言いつけている。

 すると何処からともなく声がして、


「うーん、私も驚いたけれど、まいっかなって」

「え……」

「だって面白いし?」


 楽しそうな女神様の声に、エーデルが凍りつく。

 そんな様子を見ながら僕は、


「女神様、お久しぶりです」

「あら~、ユウトちゃん、お久しぶり~。でも私のプレゼントしたスコップは今持ってきてくれないのね」

「移動するにはちょっと重いですしね」

「そうね、仕方がないわね~。まあ、スライムを撃ちこんだりこれからも頑張って使ってね」

「はい、分かりました……って、痛い!」


 そこで僕は何故かエーデルに頭を叩かれた。

 何でだと僕が思ってエーデルを見ると、


「だからスライムを打ち返すなと言っているでしょうが。何回私の家に落とせば気が済むのよ」

「あ、そうそうエーデルちゃん、その結界破って落ちてきたスライム、全部、そこのメイサ君が頑張ったものだからね~(笑)」


 女神様が、エーデルのその言葉に楽しそうに付け加える。

 するとエーデルは石のように固まってから、次に油のあまりさされていないネジのように、ぎぎぎぎとゆっくりとメイサの方を振り向き、


「……あのスライム、お前の仕業か」

「あー、そういえばエーデルの屋敷に飛んでけ~、と思って時々飛ばしていたな。本当に飛んでいたのか」

「ほ、本当に飛んでいたのかって、あれのせいで私がどんな目にあったか!」

「? たかがスライムだろう? スライムにやられるほどエーデル……あ~、うん。そうだな。うん」


 メイサさんが、スライムごときに何でエーデルがと思ったらしいが途中から生暖かい眼差しになり言葉を濁す。

 メイサさんの魔女エーデルの評価がわかるようだった。

 そしてそれをエーデルも感じ取ったらしく、


「言葉を濁しやがって……でも、分かっていないようね。私は昔の私とは違うのよ?」

「? そうなのか? 見たところ成長が見られないが」

「ふ、ふん、それは油断を誘うために決まっているでしょう?」

「そうなのか。いや、相変わらず間抜けというか、天然ボケというか……普通に喪女だしな……」

「ひ、人のことを喪女言うなぁああああ。というか、なんでお姉ちゃんは黙っていたの!?」


 そこで悲鳴じみた声を上げながら、エーデルが女神様に言うと、


「え~と、そのほうが面白そうだったし?」

「そ、そもそも私、メイサが死んだと思ったのに何で生きているの!? というか、私に会いに来て無事なら無事って言ったりとか、そういうの全く無いし!」

「あら、どうしてそう言って欲しかったのかしら~」

「……べ、別に生きているなら生きているで……」

「死んだって認めたくなかったの?」


 その女神様にエーデルが顔を真赤にして、


「べ、別に人間なんてすぐ死ぬし! 私と吊り合わないし、そもそも……何で100年近く私に会わなかったのよ!」

「それはアルバ村に僕がずっといたからかな」


 メイサさんがのほほんと答えた。

 だがそれを聞いたエーデルが不思議そうにメイサさんを見て、


「何で? 貴方って旅をするのが好きじゃなかったかしら」

「いや、“雪トマト”という植物にハマって、その栽培への工夫を繰り返していたらあっという間に時間が立っちゃって」

「……」


 エーデルがそれを聞いて言葉を失なったようだった。

 だがすぐに正気に戻ったらしく、


「なるほど。つまり今の貴方は、体がなまっているということね」

「おや? やる気かな?」


 そのメイサさんの声に、エーデルが笑う。


「いつも負けてばかりの私だと思わないことね。貴方が農作業をしている間、私は多くの敵を倒してきたわ」

「ん? そんなに成りすましが出てきたのか?」

「ええそうよ……じゃなくて、戦ってきた私に貴方が勝てるはずがない!」


 立ち上がり、ビシっと指差すエーデルにメイサさんが嗤った。


「愚かだな、魔女エーデル」

「……何よ」

「農作業の真の恐ろしさを君に教えてあげよう」


 そう、メイサさんはエーデルに告げたのだった。




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