プラスマイナス5歳まで
次の日の朝。
僕は適当に近くの屋台からグリルされたパンに、ローストビーフと野菜、そう、厚切りの“雪トマト”を挟んだものと瓶詰めの“空ぶどう”炭酸のジュースを購入。
青い空をそのまま落とし込んだ透明な果実の汁。
栓を開けると、シュワシュワと上の方が白い泡になって浮かび上がってくるのですぐに口をつけて僕は量を減らす。
口いっぱいに“空ぶどう”のジュースの香りとさわやかな炭酸が広がる。
次にようやくサンドイッチを僕は口にする。
「香ばしい全粒粉のパンにローストビーフにレタス、玉ねぎ。そこまでは問題ない。だが、この“雪トマト”は家が育てたもののほうが美味しい!」
部屋で呟きながら僕はむっしゃむっしゃと食べていく。
十分もかからずにそれらを食べあげて時間を確認。
「まだ十分時間があるし、ベッドに転がっていよう」
そう呟いてから、ベッドに僕は転がっていたのだった。
集合時間、10分前について筈だった。
だがその集合場所からちょっと離れた所にミナト達はいた。
正確には、ある人物から目を背けるようにミナトがいたわけだが、僕がやってくるとげそっとした顔で、自分とは反対方向を指さし、
「何でヒナタ姫がいるんだ?」
ちなみにヒナタ姫は女の子に囲まれ、きゃあきゃあ言われていた。
こちらからはよく声が聞こえないが何かを言っているようだ。
それを視界の端に僕は捉えながら、
「昨日会いに来てくれて、賞金をもらったんだ。そして、僕達と一緒に行って、姫自身が自分で元に戻すお手伝いをしてくれるんだって」
「そしてあのメイド、結構怖いんだな」
「何が?」
ミナトに聞くと、何でもこの中で唯一仲良くなれそうかもしれない女の子がメイドのミミカだけで、しかも声をかけたら相手にしてくれなかったらしい。
そういえばミナトは、ヒナタ姫を一目見るだけで気絶するし、アオイは知り合いでそういった対象にならないようだった。でも、
「リンは? 彼女も女の子だよ?」
「帽子が本体な子はちょっと」
どうやら好みがあるらしい。なので、
「いっそ魔女エーデルさんは?」
「歳の差プラスマイナス5歳まででお願いします」
そんな理由で駄目だったらしい。
今の会話を聞いていて、アオイはどうでも良さげな顔で、リンは楽しそうで、魔女エーデルはむっとしているようだった。
とはいえこんな所でいつまでも時間を潰している訳にはいかない。
なので僕は、
「姫様、そろそろ出発を」
「はーい。ではまた会いましょう、美しいお嬢さま方」
「「「はいっ!」」」
それを見ながら僕はなんとも言えない気持ちになったが、とりあえずは、
「魔女エーデルさん、何処に行けばいいのでしょうか?」
「そうね、まずは採石場かしら。でもどうしてあの子を連れてきたの?」
「来たいといいましたので」
「そう……悪いことをした自覚があるから私は引け目に感じているのよね。仕方がないか」
そう呟く魔女エーデル。
だが、すぐにそんな魔女エーデルの認識と僕達の姫への認識が覆されることになるとは、この時は微塵も思っていなかったのだった。