べ、別にこの程度……
そんなこんなで都市観光に行くこととなったわけだけれど、そこで帰り際にヒナタ姫に、
「父と母にはユウトさんのことを私からお話しておきます。そして呪いを解いて頂くお手伝いを私からもさせていただきたいと思います」
資金や武器、情報の援助だろうか?
側にいたメイドのミミカがぎょっとしているのが気になるが、ヒナタ姫は優しげに微笑み、
「どちらにお泊りになられているのか、お聞きしてもよろしいですか?」
「え、えっと、まだ決まってなくて……アオイ、何処か安くて滞在しやすそうな宿をしらない?」
泊まる宿もまだ決めていなかった。
そもそも都市にきた数回は、父が宿を決めていたので僕はほとんど覚えていないのである。
なのでおすすめの宿がないか僕が聞くと、
「そうね、魔法学博物館の“くろっく”という宿が食事も美味しくておねだんもリーズナブルだったはず」
「一泊いくら位?」
「食事なしで、一泊5000コールドよ」
「よし、足りるからそこに決定だな」
「でも良い宿だから今くらいの時間に早めに宿は取っておいたほうがいいかも。夜は混むし」
「分かった。魔法博物館に行く前にそこの宿をとっておこう。ありがとう、アオイ」
「べ、別にこの程度……お礼を言われるほどじゃないし」
アオイにふいっとそっぽを向かれてしまう。
こう見えて恥ずかしがり屋なようだ。
そこでそんな僕達を微笑ましそうに見ていたヒナタ姫に気付いて、
「あ、ヒナタ姫、その“クロック”という宿に泊まっています」
「はい、ではそちらの方で後ほど」
後で何かを届けさせるということなのだろう。
そう会話して僕たちはその場を後にした。
そういえばスコップをまだ返してもらっていなかったのでそちらに向かう。と、
「ユウト、大丈夫だったか?」
「あ、ミナトの方こそ大丈夫だったか?」
「ああ、いつもの様に気絶しただけ……げ、何でお前がここにいるんだ」
ミナトがアオイの顔を見てそう言い出した。
だがアオイの方もむっとしたように顔をしかめて、
「それはこちらの台詞だわ。何でここにいるのよ」
「俺は高校デビューを目指して、友達一号をゲットしようと……」
「つまり、ユウトに友達になってもらおうと声をかけたわけね。そして何でそんなさわやかな少年みたいな感じになっているのよ」
「だから俺は新しい俺を目指したんだ! ああ、女の子が二人いるって聞いたのに片方がアオイなんて……」
どうやら知り合いらしい二人なので、僕はミナトに、
「知り合い?」
「幼馴染だ。だが、朝起こしに来てくれたり、たまに御飯作ってくれたり、この服かわいいでしょうみたいに見せに来たりしない、そんな味も素っ気もない幼馴染なんだ」
「え? 女の子の幼馴染ってそういうことをしてこないんですか?」
幼馴染のユナはそんな感じだったのになと僕が思っていると、
「畜生、羨ましい、羨ましすぎて嫉妬すらわかない~」
いじけているミナトにそこでアオイが嘆息して、
「そうやって勝手にいじけるのはいいけれど、何のよう?」
「うう、まさかアオイと一緒に魔法学博物館に行くことになるなんて。でも今日は初めての友だちとの遊びだったのに」
「ほとんどひきこもりの天才魔法使いだったからね。まあ、ミナトにしてはいいことじゃない?」
「やっぱりうちに帰ろうかな。はあ、初のお友達と外で遊ぶリア充生活が……ぐへっ」
そこでミナトの襟首をアオイが掴み、
「ダメな子だけれど一応幼馴染だしね、ユウト、これからもミナトをよろしくね」
「は、はあ」
そのまま青い顔のミナトをズルズルと引きずりながら、僕達は宿を取り、魔法学図書館に向かったのだった。




