恋多き方ですね
お姫様に連れてこられたのは、あの会場のすぐ傍にあった建物だった。
レンガ造りではあるけれど、都会という建物が密集する場所でその一角には少し緑が多めである。
所々にライオンの様な動物などの置物が置かれていたりするけれど上品な建物で、都会の喧騒が何処か遠くに聞こえるような建物だった。
そのまま中に案内されると、床には赤いカーペットが敷かれている。
特別な場所に来てしまった様な気がして僕は緊張してしまう。
リンやアオイの二人の様子をちらりと見ると、リンは気楽そうでアオイは緊張しているようだった。
そこでお姫様がようやく気付いた様に僕を振り返り顔を赤くして、
「すみません、つい嬉しくて手を握って連れてきてしまいました」
「あ、いえ……綺麗なヒナタ姫にそうして頂き光栄です」
もう少し褒めたたえる様な言葉を口に出来ればと思うのだけれど、口からはそんな言葉も出てこない。
でも恥じらうお姫様は可愛い。
美少女なのでそんな風な顔をしてもそれはそれで可愛い。
そう思いながら僕がぽやんとしていると客室に案内された。
内装もこった物だったけれど、ここでは割愛する。
そしてお姫様に促されるように椅子に座っていると紅茶とケーキが運ばれてくる。
ふわふわのスポンジに純白の生クリームに、新鮮な桃が挟まれたケーキ。
どうぞと言われて口にすると舌の上で桃の果実がとろける凄く美味しいケーキだった。
すぐ横でリンとアオイがケーキに口をつけて、悶絶している。
そこでアオイがリンを見て微妙そうな顔になり、
「リンはどうやって消化しているのかしら」
「さあ? 美味しいよ?」
「……そうね」
といった謎な会話をしていたのはいいとして、そこでヒナタ姫が、
「城でなくてこちらに案内してしまいごめんなさい。城に連れて行ったら、父と母が、今すぐ結婚まで話を持って行ってしまうかもしれませんので」
「そ、そうなんですか……」
「ええ、思いっきりがいい人達ですから。こちらにいるメイドのミミカも、イケメンというよりは美人な女性に見える、の一言で採用になったわけですし」
短い黒髪で、青い瞳のメイドがこちらを警戒するように僕の方を見た。
何で警戒されているんだろうと僕が思っているとそこで、
「でも呪いの効かない殿方と出会えるなんて、夢のようです。確か出身は、アルバ村でしたかしら」
「「アルバ村!」」
そこでリンとアオイが声を上げたけれど、すぐに気にしないでというかのように手を振るけれど、何でだろうなと思いながらもヒナタ姫の話を聞くことにする。
ヒナタ姫は小さく苦笑し、
「……では続けさせていただきます。この呪いは、元々、私の母と魔女が父の取り合いをして魔女が負けたことに起因しています。確かその時に振られたのが通算、2000人めだそうで」
「……恋多き方ですね」
「それで女の子が生まれたら、女の子にモテモテな呪いをかけて男とくっつくのを邪魔してやろうとしたそうなのですが、予期しない効果がついておりまして。しかも、魔女自身が意地を張って呪いを解くのは嫌だと言ってどこかに逃げてしまいまして」
「逃げちゃったんですか」
「一説によると、あの魔女はよく魔法に“失敗”することがあるらしくて。ヘタをするともう呪いが解けないのかもと思い、私達は、本当の姿を見える相手を探したほうがいいのではといった話になりまして、このようなイベントを開くことになったのです」
そう微笑んだヒナタ姫に目を奪われてしまった僕はすぐにはっとなり、
「あ、女神様にお姫様の呪いを解いてくるように言われたんだった」
僕はつい忘れてしまいそうになった春休みにするでっかい事を思い出す。
ヒナタ姫が動きを止めた。
そしてそれに真っ先に反応して声を上げたのは、メイドのミミカで、
「そんなの信じられないわ」
「信じてもらわないと困るわ~」
そんな女性の楽しそうな声が、何処からともなく降ってきたのだった。