お姫様にかかっている呪いについて
高い城壁に囲まれた都市にて。
“お姫様鬼ごっこ”なる物に出場させられるらしい。
それは僕の年齢では強制なのだそうだ。
「都市内の特定区間内を逃げ回るだけでいいから。……姫様も性格だけはお優しい方だから、本気で嫌がれば逃がしてくれると思うから安心すると良い」
という都市に入る為の審査をしているおじさんが、とても気の毒そうに告げた。
一応は指定された場所の地図を貰ったのだけれど、都市の城壁の内部の町に入ってから、アオイとリンが待っていてくれたので、
「僕、“お姫様鬼ごっこ”に出ないといけないらしい」
「……アオイ、そういえば今日だったっけ」
「そうね、今日だったわね……私も忘れていたわ。く、私とした事が」
嘆息するアオイにリンが楽しそうに笑う。
というかこのイベントが何なのか分からない僕は、
「この“お姫様鬼ごっこ”って何をするんですか?」
それに答えてくれたんは楽しそうに笑うリンだった。
「その名の通り、この国の呪いがかかったお姫様が男性を追いかけ回すイベントだよ?」
「それって、男性にとって凄く嬉しい事なのでは?」
お姫様に追いかけられるのは普通は嬉しい様な気がする。
けれどその答えにリンが更に笑みを深くして、
「それが違うんだよね、ユウトはお姫様の“呪い”がどんなものか知っているかな?」
「いえ、呪いにかかったとしか聞いた事がありません」
「そっか、じゃあ、その呪いについて説明するけれど、男性がそのお姫様を見ると、その男性にとってこの世で一番関わりたくない、即座に逃げ出したいと思うような、名状しがたき男性の存在に見えるというものなの」
「……女性なのに男性に見えるのですか?」
「そうなの。因みに女性だと、とても理想的な男性に見えるらしいわよ、ね、アオイ」
そこでアオイに話をふったリンだが、アオイが顔を真っ赤にして、
「何で私に言うのよ」
「だって、その王女様の追っかけみたいな事を前にやっていたじゃない。凄くカッコイイって」
「う、うぐ」
「今日も見ていくんでしょ? 良さそうな見物場所探しに行かないとね」
「べ、別に……」
「ユウトがそれに出るんだったら、私達案内する約束しているから終わるまで時間をつぶさないといけないし」
「そうね、それだから仕方がないわね。ユウトを待たないといけないんですもの」
良い口実を得たかのように、アオイが笑う。
女の子にはそんな男性に見えるのか、そのお姫様はと思いつつ僕は気づいた。
「リンはあまり興味が無いようにみえる」
「ん? ああ、私の場合は、お姫様の“呪い”が効かないからね」
「そうなんだ」
「そういう“体質”みたいなものなの。多分この帽子が本体だからでしょうね」
ニマッと笑って冗談をいうリン。
話していると楽しくなる女性だなと思いつつ、
「でもそんな恐ろしい男性の姿に見えるのですか」
「ええ、何でも昔その魔女と一人の男を取り合って魔女が負けて、女の子が生まれたら将来女の子にモテモテな呪いをかけてやる! と捨て台詞を放って、そのご実行しちゃったからね」
「……それが何で男に見える呪い?」
「いや、その呪いの副作用らしくて。それで側にいられる男性は家族くらいしかいなくて大変らしいわ。将来の結婚もそうしようという話にもなっているしね。何しろ同性愛校舎の男性にも悲鳴を上げて逃げられるらしいから」
「……大変ですね」
「そうね。でもどこかに逃げない、そういった呪いの効かない男性がいるんじゃないか、ということでこのイベントが行われているの。まあ、全力で逃げると追ってはこない優しい性格のお姫様だから、大丈夫だと思うよ」
「でもそのお姫様の呪いを解くことを僕はしないといけないかもしれないんですよね?」
「女神様の話が本当ならね。と、そろそろ時間になるだろうからいったほうがいいよ? 送れたり出場できなかったりすると、場合によっては罰金だし」
「はい、えっとそれで終わったら何処で待ち合わせに?」
「そうね……そこの喫茶店でどう?」
リンの指差す先にちょっと変わった看板のかかった喫茶店がある。
それを見て、僕はではああそこで、と言った約束をし、会場に向かったのだった。