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幻想司書 譚の語  作者: 和和和和
一冊目 桃太郎英雄伝
18/86

p11 鬼ヶ島への導き





 その日の空は雲一つない晴天。まるで天が出立を祝福してくれているような光景は、まさに最終決戦にふさわしく、兵士たちの士気を高めるのにも一役買っていた

 港に停泊された数えきれない軍艦に、あらかじめ決められた通りに乗っていく兵士たちの中、仲間たちと船を共にしようとした桃太郎に、(やや)が駆け寄っていく

「桃様――これを」

 戦う力を持たないため、この場に残ることになった(やや)は、十二単を思わせる色鮮やかな着物の裾から、数珠状の紐の先に太陽の光を閉じ込めたような朝焼け色の勾玉がつけられたペンダントを取り出す

「あなたからお預かりしていた霊具、吉備津です。これをお返しいたします。私では何の力にもなれませんが、せめてこれを(やや)だと思って持っていてください」

「ありがとうございます」

 この街を守護していた勾玉――霊具「吉備津」を桃太郎の首にかけた(やや)は、想い人の無事と勝利を願いながら静かに目を伏せる

「では、ご武運をお祈りいたしております」

「はい」

 本心では共に生きたかったのかもしれないし、旅立つことを止めたかったのかもしれない。しかしこの戦いに臨む桃太郎の覚悟も、その存在と力の必要性をも十分に理解している少女は、それ以上何も言うことなく戦いに赴く勇者の背中を見送る

 桃太郎と同じ船に乗るのは、戌彦、申彦、小雉たちはもちろん、彼らと同じく仙人の力を有したこの戦いの主力とも言うべき者たち

 読真たちは話に聞いた程度だが、彼らもまたこれまで桃太郎達と何らかの関わりを持ち、確かな絆を結んだ仲間たちでもある

「みんな……」

 先に船の甲板で待ってい仲間たちと視線を交わした桃太郎に、もっとも長く勇者となる少年と旅をしてきた三人の仲間たちがそれを迎え入れる

「これが最後の戦いだ。――勝つぞ」

「はい」

「うん」

 戌彦の言葉に、申彦と小雉が頷き、周囲にいる仲間の仙人の力を持つ者たちが次々に首肯する。信頼する仲間たちと視線を交わしあった桃太郎は、海の上に浮かぶ漆黒の大樹を抱く島――敵の本拠地「鬼ヶ島」へと視線を向ける

「行こう。みんなの力で未来を掴みとるんだ!」




「……うわぁ、ものすごい疎外感」

「お友達がいないのですね、哀れなものです」

 そのやり取りをちゃっかり桃太郎達と同じ船に乗り込んでいた読真と譚は、目につかない物陰で見つめながら言葉を交わす


 最終決戦に赴く主人公と仲間たちが決意と絆を再確認するメインイベントが繰り広げられている中、完全に蚊帳の外に置かれている読真と譚は、開放された甲板の上であるにも関わらず、冷たい隙間風を心なしか感じながら、主人公(桃太郎)達とは真逆の精神状態に置かれていた

 いくら幻想司書が物語に介入できるとはいっても、いきなり主人公パーティに混ざって行動するようなことはできない。それは本当の意味での主人公と、感情移入をしていたとしても部外者にすぎない読者としての距離であり、精々このようにその他大勢に紛れてさりげなく行動を共にするのが限界だ


「お互い様だろ」

「あら、私はいないのではなく、必要としていないだけですよ。欲しがっていてもできないあなたと一緒にしないでもらえますか?」

 仲間たちとの絆を感じている桃太郎達を遠目に、絆とは無縁とも思える言葉をかけあっている読真と譚の姿を傍から見ているものがいたとするならば、いささか滑稽に映るだろう

「口の減らない奴」

 誰も見ていない甲板の端の影でいつも通りの舌戦を繰り広げ、いつものように読真が渋い表情で折れる様を見ていたモノスは一人、譚の頭上で感慨深いため息をつく

「今日も平和やな~」


「全然平和じゃないけどな」

「全然平和ではありませんよ」



「出陣じゃ!!」

 そうこうしているうちに、桃太郎達が乗り込んでいるこの船――旗艦の先端に立った鎧武者姿の男性が大きく声を上げる

 おそらくこの戦いの陣頭指揮を取っているのるであろう男性の声に従い、港に停まっていた船が次々と海へ旅立ち、統制された航路を取り、編隊を組みながら一直線に鬼ヶ島へ向かっていく


 波は穏やか。澄み渡る青空は桃太郎を筆頭とする人々の決戦を後押ししているようでありながら、進路の先にある鬼ヶ島は不気味な静寂を保っており、嵐の前の静けさを彷彿とさせる


(待っていてください、母上……!)




 桃源郷を楽園たらしめる試練の道は、鬼ヶ島を球状に包み込んでいる結界そのもの。島から約十二海里をその範囲とする結界はそこに触れた者を自動的に選別する

 出航から約一時間ののち、試練の道へと通じる結界の幕を通り抜けた瞬間、船に乗っていた一般の兵士たちが一瞬にして消失し、桃太郎達仙人の血脈に連なる者だけが船とともに結界の反対側――鬼ヶ島の領海へと侵入する

「――!」

「試練の道に道引かれたか」

 一瞬にして船上の戦士たちが消失したのを見て目を瞠る読真とは裏腹に、こうなることを知っていた同船上の仙人の血に連なる者たちは、その姿に視線を向ける

「みんな、親方様、どうかご無事で……!」

 この船に乗っていた芹彦をはじめとする同胞たちの無事を願いながら、桃太郎は船上から自分たちの戦場となる島――鬼ヶ島に視線を向ける

 こうなるであろうことは最初から分かっていたこと。たとえ誰が倒れてもその屍を踏み越えて勝利とともにこの世界に平和をもたらすことこそが、人類すべての願いを背負う桃太郎達戦士の務めだ

「見ろ!! ――奴ら、俺たちのことをおもてなししてくれるってよ」

 その声に視線を向けると、船の進路――鬼ヶ島の沿岸に青白い鬼火が浮かんでおり、左右に分かれて一直線に――まるで、道標のように並んでいる

「あいつらもこの決戦を予期しているってわけか――どうする?」

「もちろん、行くよ。あの先にはおそらく天羅(てら)がいる」

 戌彦の問いかけを受けた桃太郎は、首から下げた宝珠「吉備津」と、腰に携える霊刀「黍団子」にそれぞれ手を当て、最後の戦いへの決意を口にする

「……だな。罠だろうがなんだろうが、結局あいつらとはケリをつけなきゃならないんだ。だったら、力を温存したまま敵の大将と戦った方がいいだろ」


 これが罠であるのは間違いない。しかし、敵の本陣である鬼ヶ島に乗り込む以上多少の危険は承知の上のことであり、鬼側(向こう)にとっても、人間(こちら)がこの機会を狙って攻め込んでくることなど百も承知だろう

 つまるところ、この鬼ヶ島という場所はこっそりと侵入することができるような場所ではなく、罠があろうがあるまいが正面から打ち破るしかないのだ


「なら、一気に行くぜ!!」

 いなくなった兵士の代わりに舵を取る仙人族の男性が声を上げ、桃太郎達が乗っている船を半ば力づくで浜に乗り上げさせる

「うわっ!?」

 船全体を揺らす衝撃に甲板の上でよろめいた読真とは対照的に、桃太郎達船に乗っていた仙人の血筋に連なる者たち、そして譚も何事もなかったかのように船から飛び降りていく

「うっそぉ……」

 次々に船の甲板から飛び降りていく桃太郎達を見ながら、読真は決して低くない船から見える地面との距離を測りながら、渋い表情を浮かべる

(一般人にこの高さから飛び降りるのは無理! 停まってからゆっくり降りよう)

「うわっ!」

 桃太郎達を倣って飛び降りるのを内心で拒絶していた読真だったが、船のヘリに来ていたのが災いし、岸に乗り上げた衝撃で空中に投げ出され、そのまま砂浜へと墜落する

 一人だけ腹から砂の敷き詰められた地面に落ちた読真に一瞥を向けた譚は、感情のこもらない冷ややかな声で言い放つ

「無様ですね」

「……お願いだから何も言わないでくれ」

 地面に突っ伏したまま、一人だけ醜態を晒してしまった読真は、しばらくの間自身の惨めさに打ちひしがれる


 これが生身の時だったらただでは済まなかっただろうが、幻想司書となった今の読真が、この程度のことで活動に支障をきたすことはない

 頑丈になった体に感謝をしつつも、「こいつ大丈夫か?」と言わんばかりの視線を向けてくる仙人族の人々の視線にさらされながら読真はゆっくりと立ち上がる


「よし、行こうみんな」

 そんな読真の心情を慮ったのか、桃太郎は場を仕切りなおすように力強く言い放ち、仲間とともに鬼火によって作られた道を駆け上っていく

「念のため、周囲には気を配って、何が起きてもいいようにできるだけ離れずに行くぞ」

「オウ!」

 先頭を走る桃太郎の背後に続く戌彦の言葉に、読真たちの知らない仙人族たちが声を上げ、一丸となって鬼火によって作られた道を島の中心へと向かって走り出す

 桃太郎達とともに読真たちが走る鬼火の道は不気味なほどの静寂に包まれており、敵の本陣の中であるというのに、侵入者に対して一向に戦力が向けられる様子はない

「明らかに誘われているな」

「さて、鬼が出るか蛇が出るか……まあ、鬼が出るんだけどな」

 鬼火の道を走る桃太郎達は戦力を温存していながらも、静かすぎる道に逆に神経を消耗するほど警戒を高められ、場をほぐすために仙人族の一人が発した稍おどけた言葉も、答えが向けられることなく島を覆う森の中に消えていく

「森を抜けます……!」

 申彦の言葉が示すように、一行の行く先で森が途切れ、一同の目の前にうっそうとした森によって遮られていた鬼ヶ島の中心部がさらけ出される

「――っ!」

 一行が足を止めた先に広がっていたのは島の中心部。この島――かつて桃源郷と呼ばれた理想郷の中心に鎮座する神の樹・「桃楼樹」の根本にあたる部分だ

 巨大な根元を中心にクレーター上にえぐられた大地には、霊樹に寄り添うように荘厳にして煌びやか。まさに楽園と呼ぶにふさわしい巨大な街――だった場所が広がっていた

「廃墟……?」

 そこに広がっている光景を見た読真が、ここまでの疾走で上がった呼吸で独白すると、そこにいた全員がその光景にわずかに悲しげな色を瞳に宿す

「ここが、鬼たちが反乱を起こす前、鬼と仙人たちが暮らしていたという街か……」


 今でこそ鬼たちの拠点と化している鬼ヶ島だが、かつてはこの島の主である桃花美仙の下、鬼と霊樹の身によって不死の存在となった仙人達が暮らす大都市が広がっていた

 鬼の反乱によって無残にも滅び去った楽園の姿に、誰もが永遠の終焉と滅びの足音を感じ取り、自分たちが敗北した後の世界の姿を重ねずにはいられなかった


「どうやら、敵はあそこで待っているらしいな」

 瓦礫となった街を横切って続く鬼火の道が向かう先――桃楼樹の巨大な幹に沿うように作られた巨大な城を見て独白した戌彦の言葉に、誰かが誘われるように口を開く


「鬼灯城……!」


 かつて桃花美仙が住まう屋敷とされた桃源郷の中枢。神聖なる神社(かみやしろ)であるその城は、白い城壁に漆黒の瓦屋根が美しいコントラストを描き出し、一種の芸術品のようにそこに鎮座している

 大樹と一つになった巨大な城は、見る者に畏敬の念を抱かせ、来る者に二の足を踏ませるような存在感をもってそこに在り、まさにそれは神に選ばれし巫女の居城と呼ぶにふさわしいものだった

「扉が……」

 黒白のコントラストが美しい鬼灯城へと続く道には、無数の門が備えられており、それが桃太郎達の眼前で重厚な金属音を立てながら次々に開いていく

「中に入って来いってことだね」

「ここまで来たらやるしかねぇよな」

 桃楼樹の根元に作られた鬼灯城本丸へと続く門が開いたのを見て、息を呑んだ小雉の言葉をその場にいる全員が首肯し、それを代表するように桃太郎が力強く言い放つ

「ああ」

 その言葉を筆頭に、一丸となって駆け出した桃太郎達は廃墟と化したかつての理想郷の街並みをまっすぐ通り抜け、幹の根元を取り囲むように作られている本丸前の広場へと続く階段を駆け上っていく

 ここまで走ってきたことでわずかに上がっている息、世界の命運を背負っているという責任、そして桃太郎はまだ見ぬ母の安全と再会を祈りながら、誰もが逸る気持ちに後を押されるように石造りの階段を一心不乱に駆け上がっていく


 人が余裕で四列通れるほど巨大な階段の通路は、その広さとは裏腹に子供でも登れるような小さな段差が積み重ねられており、そこがかつて子供たちでさえも訪れることができるように作られた場所であることを感じさせると同時に、その高さはまるで力なきものを阻む絶壁のごとき土台と共にそびえたっている

 階段の両端に導となって浮かぶ鬼火の透き通るような青い炎を瞳に映しながら駆け上る桃太郎達と読真、譚は、やがてその階段が途切れている場所へと到達し、そして低く抑制された声に出迎えられる


「よく来たな」

 そこには、巨大な壁にしか見えない霊樹の幹と、それに沿うように作られた鬼灯城本丸の門を背にして作られた即席の陣に陣取っている一人の男がいた

 否、正確には一人ではない。その両端に無数の鬼が控え、その背後にある鬼灯城の屋根や木の幹、壁などには数えきれないほどの鬼が鎮座し、桃太郎達を待ちわびていた。ただ、その中央に座すその人物の存在感があまりにも大きすぎたために、周囲の鬼たちが全く目に入らなかっただけだったのだ

「『天羅(てら)』……!」

「――っ!」

 陣地の中央に座す、他を隔絶した存在感を持つ鬼を見た桃太郎が敵意に満ちた声でその名を呼んだのを聞いて、読真と譚はそこにいる人物に視線を向ける

「あれが、鬼の首領……!」


 二メートル近い身の丈を持つ他の鬼に囲まれながら、陣地に座す鬼の身長はおそらくそれよりも頭一つ分ほど低い百八十センチメートルほど。

 腰まではあろうかという漆黒の長髪をなびかせたその鬼は、額から天を衝くよう伸びる二本の角を有している以外は人間と何ら遜色のない顔立ちで階段を上って姿を現した桃太郎達を、吸い込まれてしまいそうなほど美しい紅玉色の瞳で見つめていた


「最後に会ったのはいつだったかな? 随分と成長したと見える」

 人間と何ら遜色のない外見をした天羅(てら)は、人外という意味で鬼の首領にふさわしい整った顔立ちに不敵な笑みを浮かべ、見る者の魂を奪ってしまうような魔性の笑みを浮かべる

 その口から紡がれる静かな言葉は決して威圧的でも高圧的でもないが、思わず平伏してしまいそうなほどの威厳を孕みがらも、同時にそれを不快に感じさせないカリスマ性が宿っていた


 思わず聞き入ってしまうような天羅(てら)の声に耳を傾けていた読真の周囲で、おそらくはかつて対峙した経験があるであろう桃太郎達が武器を構えて戦意と敵意を剥き出しにして悠然と立ち上がった鬼の首領を睨み付ける

「今度こそ、お前を倒す……!」

 桃太郎達を筆頭に全員の体から仙人の力――仙気が吹き上がり、各々の体と武器をまるで輝いているかのように演出する

 その傍らで自身の幻想心器(ミソロギア)である純白の手甲を顕現させた読真も、左手甲に備えられた短剣を引き抜いて身構える

「――面白い、やってみろ」

 さっそく臨戦態勢に入った桃太郎達を見て微笑を浮かべた天羅(てら)は、その真紅の瞳に剣呑な光を宿して自身の刃向う者たちを睥睨する

 瞬間、ただ佇んでいるだけの天羅(てら)の体から膨大にして強大な力が吹き上がる。天を引き摺り下ろし、地を押し潰さんばかりの圧倒的な力が大地を砕き、それだけで体が引きちぎられてしまいそうな威圧感が桃太郎達に圧し掛かる

「――っ!」

(こいつ……!)

 生まれて初めて体感する圧倒的な「力」に、読真は目を瞠り、崩れそうになった膝を気力で支える

「お嬢」

「ええ、彼――桁外れにヤバいですね」

 先日相対した朱羅(しゅら)と呼ばれていた鬼と比べてもその力の差は歴然。完全に別格といえるほどの力を纏った天羅(てら)を見て、モノスと譚が言葉を交わす

 煉獄の太陽を彷彿とさせるどす黒い赤の力をまとった天羅(てら)を前に竦みそうになるからだと魂を叱咤し、今まさに最後の戦闘を始めようとした瞬間、周囲を押しつぶしていた強大な力の圧力が一瞬にして霧散する

「――っ!?」

「と言いたいところだが、それよりも先にやるべきことがある」

 突如力の放出をやめた天羅(てら)がまるで親しい友人に話しかけるような軽く口調で発した言葉に、桃太郎達と読真、譚は訝しげに眉をひそめる

「やるべきこと……?」

 戦意が見て取れない天羅(てら)への警戒心を怠ることなくその思惑を読み解こうとする一同の前で、鬼の首領の後方に陣取っていた鬼たちが二つに分かれていく

 そうしてできた一本の道に、鬼たちが次々と首を垂れかしずいていく様子を見ていた桃太郎達の前でその視界を遮っていた天羅(てら)は、不敵な笑みとともにその身を一歩横へずらす


「――っ!」


 その瞬間、時が止まった。


 そう錯覚しても仕方がないほどに、誰もがその目と心を奪われたのだ


 桃太郎達の目に映ったのは、天羅(てら)の背後に生じた一本の道をこちらに向かって歩いてくる一人の人物。

 その身に緋色と白の色鮮やかな着物を纏い、それをまるで天女の羽衣のように翻らせながらその姿を現したのは、目も覚めるような絶世の美貌を持つ一人の女性。


 腰までほど長い美しく艶やかな漆黒の髪。そしてそれとは対照的な白い肌とまるで神によって作られたのではないかと見紛うばかりの整った顔立ち。

 手を伸ばせば消えてしまいそうなほど儚く、触れれば壊れてしまうのではないかと思えるほど繊細でありながら、一輪の花のようにしとやかに、可憐に咲く奥ゆかしいその人物が纏う包み込むような慈愛の母性が戦場に満ちていた殺伐とした空気が、一瞬にして安らかなものに塗り変わえられる


(すっげぇ美人)

 まさにこの世のものとは思えないという言葉が適切に思える絶世の美貌に思わず見惚れてしまっている読真の視線の先で、ゆっくりと歩み寄ってくる黒髪の美女は、その神々しさも相まって、ただ歩いているだけだというのに、まるで天からその御使いが降り立ったかのような錯覚を与えていた


「――母子の再会だ」

 自身と肩を並べる位置で足を止めた絶世の美女の見て一歩後ろへ下がった天羅(てら)が不敵な笑みを浮かべる

「――っ!?」

 その言葉に目を瞠る桃太郎達の前で、野に咲く花のようにしとやかに佇む黒髪の美女は薄く紅を引かれた花のような唇に微笑を浮かべ、まるで心を洗い流すような穏やかで心地よい声音で語り掛ける



「はじめまして、ですね。わたくしはこの鬼灯城の主、桃花美仙と申します」





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