p4 幻想心器の目覚め
赤髪の鬼――朱羅の声を合図に、その背後に控えていた二体の大鬼が、桃太郎たちに向かって一斉に襲い掛かる
その腕で地面をたたき割りながら襲いくる二体の大鬼は、さながら土石流のごとき迫力と破壊力を持って自分よりもはるかに小さな六人の人間に襲い掛かる
「小雉、彼らを頼む!」
「わかった」
桃太郎の声に頷いた小雉は、譚と読真の手を取ると同時に、その腰のあたりから光の翼を生やして天高く舞い上がる
しかし、大鬼たちもそれを易々と見逃してくれるわけではない。その大樹の幹のように太い腕を振り上げ、宙空に舞い上がった小雉と二人の人間を力任せに叩き落とそうとする
「――っ!」
周囲の大気を震わせる暴風のような唸りをあげて襲い掛かる巨大な腕に、小雉はその光の翼をはばたかせて、それを紙一重で回避する
「うわっ……!」
自分の脇をかすめていく大鬼の腕に、さながら駅で特急の新幹線とすれ違ったかのような風圧と衝撃を受けた読真が思わず声を上げると、その体を支えて宙に舞い上がっている小雉から注意の声が向けられる
「少し怖いかもしれないけど、我慢してあんまり動かないでね。二人も連れて飛び回るのは難しいから」
「は、はい」
「そうですよ。間違っても失禁しないように注意しなさい」
小雉の言葉に頷いた読真は、平然と小雉に吊られて宙を舞っている譚の、空気をまったく読んでいないかのような平常運転の辛辣な言葉に呆れたように声を漏らす
「お前な……」
「この状況でそんなやり取りができるなら大丈夫だね」
読真と譚のやり取りに、戦闘中にも関わらずわずかに目を細めた小雉は、その表情に微塵の遅れも出さず戦場へと視線を向ける
「大丈夫。二人は私たちと――桃が守ってくれるから」
戦場に立つ二人の仲間と、桃太郎の姿に無償の信頼が込められた視線を向けて紡がれた小雉の言葉は、読真と譚に、その根幹にある感情を気づかせる程度には、重みのあるものだった
「はああああっ!」
青白い燐光を放つ霊刀「黍団子」が空中に三日月形の斬軌を描いて奔る。さながら空気を切り裂いているかのように、音もなく滑るように走る刃は一直線に朱羅に向かっていく
しかし、その刃は朱羅に届く前に、その手に携えられていた紅の光を帯びた太刀に遮られ、澄み切った金属質の音とともに赤と青の燐光をまき散らす
「くっ……!」
「以前より、仙気が強くなっているな」
刃を弾き飛ばされた桃太郎に向けて獰猛な笑みを浮かべた朱羅は、間髪入れずに真紅の光を帯びた刃を縦横無尽に振るう
上下左右、戦うために振るわれているとしか思えない朱羅の刃は、型などは微塵もなく、ただ力任せに刃をふるっているとしか思えない怒涛の攻撃。しかし、その戦技ともいえない力任せの攻撃は、朱羅が生来から持っている基本的な身体能力よって、攻撃の軌道が読みづらい凶悪な業へとその形を変えていた
「どうした、桃太郎! そんなことじゃ、鬼を倒すなんて夢のまた夢だぜ!!」
血に飢えた刃のような瞳をぎらつかせ、戦いの中に享楽を見出している赤髪の鬼の言葉に、桃太郎はその嵐のような攻撃をしのぎながら、唇をかみしめる
「くそが……ッ!」
その様子を見ていた戌彦は、大鬼の腕の一薙ぎを斬馬刀の刃で受け流し、切り返すように天へ昇る光の斬撃を放つ
戌彦の刃から放たれた破壊光の斬撃は、その姿を睥睨している大鬼の喉笛を確実に捉えるが、そのあまりにも強靭な体は、その斬撃でさえほとんどダメージを与えることができなかった
「オオオオオオオオオッ!!」
そういう風に作られているのか、大鬼は獣のように咆哮を上げてただ破壊衝動に任せてその巨体を振り回す。
だが圧倒的な質量と、それに伴う膂力を有す大鬼の攻撃は、まるで天災のような破壊を引き起こし、戌彦と申彦を、荒波に揉まれる枯葉のようにもてあそぶ
「オオオオオオッ!!」
大気を震わせる咆哮とともに、光を帯びた腕を闘志とともに申彦が地面にたたきつけると、大地が隆起し、吹き上がる力が大鬼を呑み込んで吹き荒れる
「――ッ!」
しかし、その大地の咆哮も大鬼の体に決定的なダメージを与えることはできず、逆にその痛みが大鬼にさらに火を注ぎ、自分たちへの攻撃を激しくさせるだけにとどまってしまう
次の瞬間、大鬼の口腔内に強大な力が収束し、そこに込められた膨大なエネルギーを証明するかのように周囲の景色を捻じ曲げていく
「申彦!」
「オオ!」
それを見た戌彦の言葉に応じるように声を上げた申彦は、光をまとったその両腕を前に突き出す
「仙技・山護!!」
申彦が声を上げたその瞬間、その両腕から生じた光が巨大な壁を形作り、大鬼の口腔に収束した破壊の光の前に立ちはだかる
それとほぼ同時に大鬼の口腔から解放された破壊の光は、申彦によって作り出された光の盾と真正面からぶつかりあい、その破壊の力を周囲にまき散らす
「ぐっ……!!」
その熱量だけで大地を蒸発させ、崩壊させる極大の破壊の光の衝撃に渾身の力を込めて耐える申彦の盾は、膨大な破壊力の前に軋み、今にも砕け散りそうになっている
申彦の盾によって阻まれ、砕け散った破壊の光は、天高く昇る爆発とともに山を抉り取り、海を空に巻き上げ、地面にきょだな穴を穿っていく
「おいおい、冗談だろ……?」
まるでこの世の終わりのような破壊が引き起こされているのを見た読真は表情をひきつらせ、譚もまたその人形のような顔に剣呑な光を宿らせる
「犬飼さん、楽々森さん……!」
破壊の力の渦中にいる仲間を案じて不安気に眉をひそめる小雉だが、その両腕には読真と譚をそれぞれつかんでいるために、先ほどのような援護をすることができない
桃太郎と朱羅、戌彦、申彦と二体の大鬼の戦いを見ていることしかできないことに、もどかしそうに唇をかみしめた小雉に向かって、もう一体の大鬼が破壊光を飛び越えて襲い掛かる
「小雉!」
「――っ!」
申彦の盾に守られながら、その様子を見ていた戌彦と、朱羅と刃を交えている桃太郎がそれに視線を向け、まるで天を舞う蝶を叩き落とそうとしているかのような大鬼に視線を向ける
「しっかり掴まっててね!」
地面を揺らしながら自分に向かって襲い掛かってくる大鬼を見た小雉は、読真と譚に一言声をかけると、光の翼をはばたかせて風のように空を翔ける
巨大な腕が振り回され、その口腔からは力の塊が無数の弾丸となって放出される。巨体を感じさせない俊敏さと跳躍力を併せ持つ大鬼は、天を舞う小雉を確実に追い詰めていく
(やっぱり疾い……!)
ここに至るまでの旅の道中で、桃太郎たちとともに大鬼と対峙したことがある小雉は、たった一人でその凶悪にして強大な敵の攻撃をかいくぐりながら、改めてその恐ろしさを痛感していた
「くそ……っ!」
その様子に意識を奪われている桃太郎を見て、朱羅はその目に怒りと嘲りの色が宿して赤い光を帯びた刃をふるう
「おいおい、どこを見てるんだよ!?」
「ぐっ……!」
朱羅の圧倒的な膂力に弾き飛ばされた桃太郎は、足を踏ん張って踏みとどまり、数メートル後ずさったところで、再度赤い刃が振り下ろされる
「今は俺との殺し合いだろうが!」
歓喜さえ感じられる声を上げた朱羅の言葉に、その刃を受け止めた桃太郎は、今の心中とは裏腹に澄み切った刃の音と舞い散る燐光の中で眉間に皺を寄せる
(なんとか持ちこたえてくれ、小雉……!)
今のままでは、小雉や読真、譚を危険に巻き込んでしまうと考えた桃太郎は、一刻も早く仲間を救うために、その意識のすべてを眼前にいる赤髪の鬼へ向ける
「決着をつけよう、朱羅!!」
大気を唸らせながら走る戌彦の斬馬刀と、申彦の鍛え抜かれた鋼の巨躯の力が大鬼の怒涛の攻撃をかいくぐりながら炸裂し、その体に阻まれてその力を霧散させる
生身のはずなのに鋼の塊をはるかにしのぐ強度を持つ大鬼の体によってはじかれた刃と拳から伝わる痺れと衝撃に戌彦は顔をしかめる
「……ッ!」
攻撃が攻撃にならない戌彦と申彦が苦い表情を浮かべるのとは対照的に、その攻撃を受けても平然としている大鬼は己の体にまとわりつくように動く二人に爛々と光る瞳を向ける
大鬼の破壊の波動を何とかしのぎ切った戌彦と申彦は、二発目を撃たせないようにその巨体にまとわりつくように移動しつつ、消耗戦を仕掛けるが、圧倒的な質量と硬度を持つ大鬼をなかなか弱らせることはできない
しかし、たとえるならば今の戌彦と申彦は人間の体にたかる蠅蚊のようなもの。決定的なダメージをなかなか与えることができずとも、大鬼からすれば煩わしいばかりであり、破壊衝動の塊のような大鬼にとってはその怒りを沸騰させるような存在でしかないのも事実だ
「グオオオオオオオオオッ!!」
業を煮やしたのか、怒りに満ちた地獄の咆哮を上げた大鬼がその口腔内に再度破壊の力を収束させていくのを見た戌彦は、その懐に潜り込むと同時に自身の武器である斬馬刀に光の力をまとわせ、それを鬼の顎に向けて解放する
「させるか!!」
顎を強制的に叩き上げ、無理矢理口を閉じさせることで破壊の閃光を阻んだ戌彦と同時に、その剛腕に力をまとわせた申彦が大鬼の足を力任せに払う
「……ッ!」
四つん這いで歩いている大鬼の大勢が崩れたのを確認した戌彦は、申彦の剛腕によって中空へと舞い上がり、上空からその頭部に追い打ちをかけるように渾身の斬撃を見舞う
「なめるなよ! 木偶の坊が!!」
戌彦の斬撃を受け、体を支え切れなくなった大鬼が、瓦礫と土埃を巻き上げながら、地響きを立てて倒れ伏す
「――っ!」
だが、その程度で大鬼を倒すことはできず、土ぼこりの中から伸びてきた大鬼の腕が戌彦を掴もうと襲い掛かる
さながら、体に止まった蠅を叩き落とそうとしているかのような大鬼の腕を回避して距離を取った戌彦は、その精悍な顔を苦々しげに歪める
「ったく、おとなしく死んどけってんだ……!」
まるで自分の攻撃など効いていないかのように体を起こした大鬼を見て吐き捨てた戌彦は、斬馬刀に渾身の力をまとわせてその大敵を睨み付けた
その傍らで、もう一体の大鬼は天を舞う小雉と読真、譚を捉えようと立ち上がった状態でその腕を無造作に振り回す
「もっと高く飛べないんですか?」
「無理! そんなことしたらあの砲撃から逃げられなくなる!! それに――」
自分の体をかすめていく大鬼の腕を見て声を上げた読真に、その手を握って宙を舞う小雉は、疲労の色を隠せない声で言い放つと同時に、その翼から光の粒子をまき散らす
小雉の体からこぼれた光の粒子は、誘われるように桃太郎、戌彦、申彦の体に吸い込まれ、その傷を癒し、疲労を回復させていく
「私は、みんなから離れられない」
大鬼の砲撃は基本的に直線的に放出されているが、いくつかのパターンがあり、広範囲に弾幕を張るタイプや、放出されると同時に扇状に広がるものが存在する。
特に広範囲に広がる攻撃は厄介で、距離を取れば取るほどその回避が困難になる。無論広がっている分威力が落ち、同時に射程も短くなっているが、それも通常時と比べればのレベル。
小雉達がその射程から逃れるためには、相当な距離をとる必要がある。加えて仲間の後衛も兼ねている小雉は、弓を使えなくとも、その回復のために桃太郎たちから必要以上に距離を取ることを避けていた
「なるほど」
小雉の言わんとしていることを正しく理解した譚は、自由になる方の腕を懐に手を差し入れ、銀色の光を放つ銃を取り出す
「……とりあえず、応戦くらいはしてみましょうか」
そう言って引き金を引いた譚の銃が火を噴き、放たれた弾丸が狙いすましたかのように、大鬼の目に炸裂する
「ガアアアアアッ!!」
「大きいということは、そういう場所に攻撃が当てやすいということでもありますからね」
目に直接弾丸を叩き込まれ、顔を抑えて仰け反る大鬼を見た譚は、小さく独白すると同時に白煙を上げている銃口に息を吹きかける
「やった!」
「ダメ、あの程度じゃ大鬼は倒せない!」
歓喜の声を上げる読真とは裏腹に、小雉は緊張感を滲ませた声で言葉を続ける
「……そのようですね」
小雉の言葉に大鬼に視線を向けていた譚は、銃弾が炸裂した目が瞬く間に治癒していくのを見て合点がいったように独白する
確かに巨大な大鬼は強大な敵ではあるが、完全無欠というわけではない。譚がやったように目を狙えば一定以上の効果が期待できる。
しかし、鬼には強大な再生能力があり、当然自身の弱点となる部位をかばったり防ぐ程度の戦闘技能は持ち合わせている。譚の一撃が命中したのは、その銃の腕前ももちろんだが、大鬼の油断があったからに過ぎない
「ギャオオオオオオオオッ!!」
そして、譚の一撃を受けた大鬼は、その痛みに怒り狂って咆哮を上げ、その体から莫大なエネルギーを放出する
怒り狂った大鬼は、これまで口腔から放出していた破壊の力を自身の体内で炸裂させ、そのエネルギーを体から全方位に向けて解放する
「きゃあっ!」
大鬼の体から放出される膨大なエネルギーは、まさに暴風となって荒れ狂い、天を舞う小雉たちをその渦に呑み込んで翻弄する
(だめ、うまく飛べない……!)
光の翼の制御を超え、吹き荒れる力の渦に巻き込まれた小雉は、あらゆる方向に引っ張られる渦の中、懸命に姿勢を保とうと意識を注ぎ込む
「おおおおおおおおおっ!?」
「……っ、少々痛くしすぎましたかね」
大鬼が解放した力の渦に呑まれて吹き飛ばされる読真と譚は、暴風に弄ばれながら、小雉と手をつないでいるだけの自分の手に懸命に力を込める
しかし、小柄な譚はともかく、小雉にとって読真の手は大きすぎた。空中を手をつないだ状態だけで縦横無尽に飛び回っていた恐怖で冷や汗をかいてことも災いし、読真の手は小雉の手をすり抜け、その体が慣性の法則のまま、空中に投げ出される
「あ」
「しまっ……」
自身の手から読真の体重と感覚が抜けたことに気付いた小雉が懸命に追い縋ろうとするが、大鬼が巻き起こした力の暴風はそんな抵抗をあざ笑うかのように吹き荒れ、読真を一人無防備に空中に投げ出す
そして、それを見逃す大鬼ではない。空中に投げ出された獲物を見て目を細めた大鬼は、これまでの怒りを叩き付けるかのように、その太い腕を力の限り叩き付けようとする
「読真!」
「坊!」
空中に投げ出され、成す術もない読真に迫る大鬼の腕に、譚とこれまで沈黙を守っていたモノスが、はじかれたように声を上げる
「間に合って……!」
読真が投げ出されたと同時に、大鬼によって作り出されていた力の暴風が消失し、それに伴って制御を取り戻した小雉は即座に大勢を立て直すと、全速力で飛行する
力の暴風に呑まれたことで読真と小雉たちの距離は大きく開いてしまっており、全速力で飛翔する巫女服の乙女の目には、大鬼の巨大な腕が自分よりも早く少年を捉える姿が幻視されていた
(だめ、間に合わない……っ!)
その一方、自分に向かって振り下ろされる大鬼の腕を見ていた読真には、すべての景色がスローモーションに移り、同時に今自分がここに至るまでの記憶が鮮明によみがえっていた
(死ん……)
明確に死を認識し、自身の最期を理解した読真は、自分に向かって振り下ろされる大槌のような腕を視界に映していた
そして、大鬼の腕が宙に舞った読真を捉える
「っ!!」
その瞬間、光が弾けた。
「なっ!?」
本来ならば、成す術もなく読真の体を粉砕していたであろう大鬼の一撃。当然それを見ていた誰もが――譚やモノスでさえも、読真の死を疑っていなかった。
「ギャオオオオオオオッ!!」
しかしそんな一同の考えは、突如生じたまばゆい光と、次いで大気を震わせた大鬼の苦悶の声によってかき消される
「なっ……!?」
「なん、だと……!?」
それを見ていた譚、モノスをはじめ、桃太郎達や朱羅でさえも、目の前で起きたことが信じられないかのように目を見張る
これまで、戌彦や申彦、譚の攻撃を受けてもダメージらしいダメージを受けていなかった大鬼が、明らかにこれまでとは違う声――苦悶とも、恐怖ともとれる声を上げ、その場にもんどりうつようにして倒れ込む
「彼は、一体……?」
大鬼が地響きを立てて仰向けに倒れる様子を見て、驚愕を隠せない表情で独白した桃太郎をはじめとする全員の視線の先には、激しい光の中から姿を現した読真の姿が映っていた
「……って、あれ?」
しかし当の本人は、何が起きたのか全く理解することができず、宙に舞った状態のままで、再度空中に投げ出された死の恐怖に顔を青ざめさせる
「うわぁあああああああっ!!」
「――っ!」
重力に引かれ、地面に向かって一直線に落下していく恐怖に涙目で声を上げる読真を見て我に返った小雉は、光の翼をはばたかせて空を走り、読真の襟首を掴んで空中に舞い上がる
「し、死ぬかと思った……」
襟首を掴まれ、宙吊りにされた状態で今にも破裂しそうなほど高鳴っている心臓を抑えた読真は、冷や汗と流しながら、生きていることを実感するように大きくため息をつく
「俺、最近走馬灯ばっか見てる気がする……」
この世界に来てから二回。譚に本の世界に来るために殺されたときに一回。二十四時間も経たない内に三度も脳内をよぎった走馬灯に声を震わせる読真の耳に、譚から抑制のきいた声が届く
「よかったですね」
「なにが!?」
その言葉の意味を掴みあぐねて聞き返した読真に、譚は襟首を掴まれた状態で宙づりにされている新米司書の腕を指さす
「覚醒したようですよ」
譚が指さした読真の両腕には、これまでなかった手甲が装備されていた。白の装甲に金の装飾が施されたそれは左右で形状が異なり、左手のそれには、真紅の宝玉が嵌められたバゼラードに似た短剣状の武器が装備されている
いつの間にか自身の腕に出現している白の手甲と短剣を見て、初めて気が付いたといった様子を見せる読真に、譚の厳かな声が届く
「――あなたの幻想心器が」