p3 桃太郎と仲間たち
「……ふぅ」
一刀の下に無数の鬼をなぎ払った青年――桃太郎は、青白い燐光を放つ刀を鞘に納めると、踵を返して、山伏風の男と共にいる読真と譚にゆっくりと歩み寄る
距離をとった時点でその太い腕から解放されていた二人は、読真は地面に座り込むようにして、譚は静かに佇んで桃太郎が鬼達を殲滅していく様を見届けていた
「大丈夫だったかい?」
「え? あ、あぁ、どうもありがとうございます」
全ての鬼を屠り、歩み寄ってきた桃太郎が優しく微笑むと、読真は感謝の言葉と共に頭を下げる
「いや、気にしないで。たまたま通りがかっただけだから」
そう言って微笑んだ桃太郎は、軽く上空を見上げて優しく微笑みかける
「お疲れ様、小雉」
「?」
その言葉につられて読真と譚が上空を見上げると、動きやすいように軽装化した巫女服に似た衣装に身を包んだ黒髪の少女が、腰から伸びた光の翼をはためかせてゆっくりと舞い降りてくるのが見て取れた
大きな目に、整った顔立ち。天真爛漫といった言葉がよく似合う明るい印象を持つ少女は、ゆっくりと地面に降り立つと、読真と譚に視線を向け大輪の花のような笑みを浮かべる
「怪我は無かった?」
「はい、おかげ様で」
透き通った声で微笑み掛けてきた少女に応じた読真は、巫女服を纏った少女がその手に携えている弓を見て小さく目を瞠る
(あの弓……)
それを見て思い浮かべるのは、最初に天から降り注いできた閃光の矢雨。矢筒らしきものは見えないが、おそらく最初の迎撃は彼女によるものと考えて間違いないだろう
「自己紹介がまだだったね。僕は『桃太郎』って言うんだよろしくね」
「譚と申します。こっちは読真」
桃太郎が名乗ったのを見た譚は、普段は人形のように整っていても無機質な表情に微笑を浮かべ、自分と読真を順に手で示して自己紹介をする
元々黙っていれば相当の美少女である譚が微笑む様は、得も言われぬほど絵になるものであり、それを見た巫女服の少女は、感嘆の声を上げる
「わぁ、可愛い子」
(黙っていればだけどね……知らぬが仏とはこの事だ)
見事に猫を被っている譚の様子を見て、読真は内心で吐き捨てながら、巫女服の少女の感想を全力で否定する
「よろしく」
無論、譚の本賞など知る由もない桃太郎は、恭しく頭を下げた譚に――というよりは、誰に対しても創価のかもしれないが――優しく微笑んで語りかける
「先程は危ないところを助けていただき、ありがとうございました」
(こいつ……!こんな常識的な対応もできるのか!)
桃太郎の言葉に、かしこまった口調で行儀よく頭を下げる譚を見て、読真は戦慄に打ちひしがれて目を見開く
鉄面鉄皮の表情に、別人と見紛うばかりに笑みを浮かべて愛想を振りまくその姿は、読真の中にある「天上天下唯我独尊。常に偉そうで敬語を話していても、他人を罵る毒舌の持ち主」という譚の印象に「超絶猫かぶり」という情報を一つ付け加える事になる
余談だが、それを時と場合によって表情や態度を使い分けることができると好意的に解釈できないのは、読真に刻みつけられた譚への抵抗心による賜物だ
「それと、ここにいるのは僕の仲間達だよ」
そう言って桃太郎は、周囲にいる三人の男女に視線を向けて譚と読真に話しかける
「彼は『犬飼戌彦』」
先ほど無数の鬼を身の丈にも及ぶ斬馬刀で切り捨てていた野武士風の男を指して言った桃太郎は、次いで山伏風の出で立ちをした大男を指す
「そして彼が『楽々森申彦』」
「私は『留玉臣小雉』。よろしくね、譚ちゃん」
桃太郎が紹介するよりも早く口を開いた巫女服を纏った少女――小雉は、どうやら愛想を振り撒く譚が気に入ったらしく、その目を輝かせて語りかける
「はい」
(やっぱり、犬、猿、雉か……まぁ、桃太郎の仲間といえば定番だよな。人型になってるのは、これが歪みってやつなのか……)
三人の自己紹介を聞きながら、読真は内心で三人の名前がそれぞれ犬、猿、雉――昔話で語られる桃太郎の仲間に酷似していることに気づいて内心で感嘆の声を漏らす
悪夢に歪められた世界とはいえ、その根幹までが変わる訳ではない。しかし、桃太郎のようなお伽噺や昔話には、多様なバリエーションと、解釈が存在する。
例えば桃から生まれた桃太郎が、今では一般的な桃太郎だが、中には桃を食べて若返ったおじいさんとおばあさんの子供が桃太郎であるという説もあり、供として連れて行く犬、猿、雉も地方によっては全く違うものである事がある
話としての人物配置や概念を残しつつも、様々な物語の性質や属性が入り混じり、混沌としながらも一つの話を作り出している――これが、悪夢によって引き起こされる世界の〝歪み〟なのだ
「ところで、君たちはどうしてこんなところに? もうすぐ大規模作戦が展開されるから、避難命令が出ているはずだよ?」
「避難、命令……?」
読真と譚は、桃太郎が発した言葉に、視線を交わして首を傾げる
「おかしいな、知らないの? 御館様から連絡が言ってるはずなんだけど……」
訝しげに眉をひそめる小雉に狙いを定めたのか、譚は彼女からさらなる情報を引き出すべく普段の様子からは想像もできないような猫撫で声で問いかける
「実は私達、旅をしていて最近この辺りに来たばかりなんです。だからそういうこと詳しくなくて……」
「そうなんだ」
譚の言い訳が功を奏したのか、あるいは単純に子供だから説明してくれているのかは分からないが、いずれにしても小雉は、猫を被った知略家の少女に望まれるままに彼女が望む情報を説明し始める
「これから、私達の御館様――『五十狭芹武』公が、鬼ヶ島に攻め込んで、最終決戦をするの。それで、鬼ヶ島に一番近いあの街から、私達が向かう事になっているんだよ」
「鬼ヶ島……ですか」
洋上に浮かぶ巨大な枯れ木を持つ島を指して「鬼ヶ島」と呼んだ小雉の言葉に、譚の水晶にように透き通った瞳にわずかに鋭い光が宿る
それはさながら獲物を見つけた猛禽のように鋭く、幻想司書としての譚の知識と嗅覚が、正しく自身の進むべき道を指し示した証でもある
(……ってことは、物語も後半か)
譚ほど深い考察は無くとも、鬼ヶ島を目の前にしているという事は、この物語も佳境に入っているという事くらいは理解できる読真、海の上に浮かんでいる巨大な樹を頂く島を見てその目を細める
「だから、信じて待っててね。そして、『桃花美仙』様を解放して、人類に勝利をもたらしてみせるから」
「桃花美仙?」
しかし、次いで小雉の口から発せられた聞き慣れない人物の名前に、読真と譚は口をそろえて首を傾げる
(そんな人、桃太郎に出てきたっけ……?)
「え? 桃花美仙様を知らないの?」
全く知らない名前に首を傾げた二人を見て、さしもの小雉も目を丸くして驚いたように声を上げると、それまでやり取りを見守っていた桃太郎が口を開く
「君たちは、本当に何も知らないのかい? あの島――鬼ヶ島は、かつて『桃源郷』と呼ばれたこの世の楽園だったんだ。そして桃花美仙は、その桃源郷を統べていた女王だよ」
「へ、へぇ……」
桃太郎の説明によって、徐々に明らかになっていくこの世界の歪みを目の当たりにして顔をひきつらせる読真とは対照的に、譚はこの世界がどういう風に歪んでいるのかを理解するために、その話に真剣な面持ちで耳を傾ける
(こういう所は真剣なんだな……)
自分とは違い、この物語の世界に起きた変化を、何一つ聞き逃すまいとして真剣な表情を見せる譚を一瞥した読真は、内心で感嘆しつつ、自身を戒める
(よし、やってやるぞ。俺だって、幻想司書見習いなんだからな!)
自身を叱咤し、桃太郎の言葉に耳を傾ける
「あれを見て」
そう言って小雉が指差した方向にあるもの――鬼ヶ島にある巨大な黒い枯れ樹に、読真と譚が視線を向けると、巫女服に身を包んだ少女は、神妙な面持ちで言葉を続ける
「あれは『桃楼樹』。鬼ヶ島の中心にそびえ立つあの霊樹に鬼達の居城――『鬼灯城』があって、そこに桃花美仙様が捕らえられているの」
「捕まってるってことですか?」
小雉の言葉に読真が問いかけると、それを無言で首肯した桃太郎が話を引き継ぐ
「桃花美仙は、神がもたらしたとされるあの霊樹――桃楼樹の巫女だったんだ。あの樹になる果実は、その実を食した者に永遠の若さと命を与え、あらゆる病や呪いを祓うといわれていたらしい
以前は年中尽きる事のない美しい花を咲かせ、人と調和して存在していた鬼ヶ島――桃源郷で、ある日異変が起きた」
「――今から約二十年前、突如鬼達が桃花美仙様に突如反旗を翻し、彼女を捕らえてしまったの」
桃太郎の言葉を引き継いだ小雉の言葉に、その場にいた全員の表情に翳りが差す。それは怒りであったり、敵意であったり、桃花美仙を案じる憂いであったりと様々だが、その表情からこの場にいる四人が鬼達に対して良い感情を抱いていないというのが、読真にもありありと伝わってくる
「大方、桃楼樹に成る不死の実を人間に喰われるのが嫌で、独占しようとでもしたんだろう――馬鹿な奴らだ」
小さく吐き捨てるように言った戌彦の言葉には、明らかな憎悪が宿っており、それだけで彼が鬼に対してただならぬ感情を抱いているのが見て取れる
(……もしかして、人間と鬼ってうまくいってなかったのかな?)
戌彦の様子と、桃楼樹の実を人間に食われるのが嫌だったという鬼の話から、ふとそんな考えが一瞬読真の脳裏をよぎるが、その考えは桃太郎の言葉によって頭の片隅に追いやられる
「けど、鬼の反乱によって捕らえられた巫女の嘆きなのか、それともこの霊樹の怒りなのか――かつては美しい花を年中咲き誇らせるこの世で最も美しい樹だったというこの桃楼樹は、今ではあのような姿へと変貌し、その果実も失われてしまったんだ」
「へぇ……」
(歪んでるとはいっても、支離滅裂で滅茶苦茶な話になってるわけじゃないのか……それなりに整合性を保ってるって感じだな)
桃太郎の言葉に理解の声を返すが、その言葉には二重の意味での理解の色が宿っていることに気づいたのは、この場では譚とモノスだけだ
この世界は悪夢によって歪められた桃太郎の世界。確かに時代設定や世界設定に、読真の知らないものが混じって入るが、全く意味のないものではなく、ある程度意味の通ったもの――例えるならば、全く新しい話のようになっているのが分かる
今の読真にはその理由を知る由もないが、一つは完結した物語であればある程、その物語そのものが話としての体裁を保とうとすること、そして悪夢が主人公を利用して物語を終わらせる――つまり、歪んだこの物語が完結するように歪めているのがその理由だ
「一つ、質問をしてもよろしいでしょうか?」
「なに、譚ちゃん」
その時、これまで無言で話を聞いていた譚が、軽く手を上げて疑問を口にする
「鬼達が反旗を翻したと言う事は、鬼というは、桃花美仙の下僕のようなものだったという事ですか?」
「いいえ、下僕と言うよりは桃源郷と霊樹の巫女、桃花美仙を守るために霊樹がつかわした守り神のようなものだったのよ」
軽く首を横に振って答えた小雉の言葉に、「なるほど……」と小さな声で呟いた譚は今後の事を思案しているのか、人形のように整った眉をわずかにひそめる
(ってか、せめて何か言ってくれないと、俺どうすればいいのか分からないんだけど……)
ここまで終始モノスが沈黙を貫いているのは、さすがにこの世界感の中で帽子が喋るという異質な状況を発生させないためなのだろうが、読真は内心では勝手な事はできないと、当たり障りのない答えを返すのに疲れていた――無論、そんな自分の気苦労を譚が汲んでくれるなどとは微塵も思ってはいないのだが。
「そんな事より、分かっただろう? 僕達はこれから鬼の本拠地、鬼ヶ島に乗り込んで鬼達から桃花美仙様を解放する最後の決戦がある。その時、間違いなくこの辺りは戦場になる」
そう言って真剣な面持ちで読真に視線を向けた桃太郎は、二人に言い聞かせるように優しく力強い声で語りかける
「わかったら、妹さんを連れてここから逃げるんだ」
「妹?」
その言葉に読真が訝しげに眉をひそめると、その様子を見ていた小雉が読真と譚を交互に見比べながら小首を傾げる
「え、二人兄妹でしょ?」
小雉のその言葉に、譚はその人形のような顔に、本心から嫌悪の色を浮かべて読真を指差す
「違います。私がこれの妹? 考えただけで怖気がはしりますね」
「それはこっちの台詞だ」
互いに視線を交わし、拒絶する二人を見た小雉は、次いで思い至った可能性に、その頬を赤らめて視線を彷徨わせる
「え? 二人が兄妹じゃないなら……もしかして恋人なの?」
「それだけは絶対にありません!!!」
「それだけは絶対にありません!!!」
年頃の乙女らしく、二人の関係に興味津々といった様子で訊ねてきた小雉に、読真と譚は声を揃えて渾身の否定をする
読真はこの世の終わりのような表情で声を荒げ、淡々とした口調ながらも、その人形のような顔に嫌悪の色を露にしている譚の様子は照れ隠しで言っているようには見えない
「そ、そうなの……?」
目を点にして、半ば引き気味に応じた小雉の目の前で、読真は戦慄に身を震わせながら、青褪めた顔で呪いをかけられたように独白する
「譚と恋人? そんなおぞましい……合法とはいえロリはロリなのに」
「私も、勘違いとはいえ、永遠に恋人も出来ずに朽ち果てる、こんな甲斐性なしと恋人扱いされるのは不愉快極まりありませんね」
まるで伏魔殿の深淵を覗き見たような表情で身をわななかせていた読真は、譚の言葉で我に返り、抗議の言葉を発する
「おい、ちょっと待て。なんでお前が俺に恋人ができないって決めつけるんだよ?」
「決まっているでしょう? 女性としての意見ですよ。あなたと恋人になるなんて、ただの罰ゲームですからね。死刑のほうがましでしょう?」
「そこまで言うか!? 普通!」
憤慨する読真の言葉に小さくため息をついた譚は、その人形のように整った顔に、小さな憐憫の籠った笑みを浮かべる
「図星をつかれると人間って怒るんですよね~」
「理不尽に貶められても怒るわ!!」
(結構、仲よさそうにみえるんだけどな……?)
突如論戦を繰り広げ始めた二人に気圧されるように半身後ずさった小雉は、気の置けない関係に見える読真と譚を見て、この世における男女の関係の深淵に、お年頃の小雉は内心で首を傾げる
その傍らで、仲がいいのか悪いのか分からない読真と譚のやり取りを見ていた桃太郎は、困惑を隠しきれない様子で、とりあえず二人を諫めるように声をかける
「と、とにかく、二人はここから早く逃げ――」
「そうはいかねェぜ!?」
しかし、桃太郎の言葉は最後まで紡がれる事無く、天上から降り注いだ鋭く敵意に満ちた声によってかき消される
「――っ!?」
読真と譚の口論をも止め、同時に桃太郎、戌彦、申彦、小雉の視線をも奪った声は、やがて太陽を遮る影となり、そして天空から一人の男が降り立つ
「てめぇは……」
その姿を見た戌彦は、その目に剣呑な光を宿らせ、自身の身の丈にも及ぶ斬馬刀の柄に手をかけて、殺意にすら似た敵意を宿してその人物を睨みつける
突然現れたその人物は、腰まで届く逆立った血のように赤い髪に、獲物を狩る捕食者を彷彿とさせる鋭い金色の瞳が天を射る矢のような鋭い視線を放つ男。
外見か推測される年齢は、二十歳前後だが、その身に纏った覇気は何千年という時を生きて凝縮された果てしない力の渦を内包している
その側頭部からは漆黒の二本の角を生やし、武者甲冑を思わせる鎧に身を包んだその男は、角を除けば人間と全く遜色ない存在としてそこに佇んでいた
「朱羅!」
戌彦に朱羅と呼ばれた血色の髪の男は、戦意と敵意に歓喜が入り混じった表情で桃太郎達を見据え、腰に下げていた太刀を抜き放つ
「お前らを、天羅様のお膝元へ活かせる訳にはいかないんだよ!」
陽光を凶々しい光に変える太刀の刀身を輝かせた朱羅の言葉に、読真はさきほどまで口論を繰り広げていた譚に小声で話しかける
「天羅?」
「察するに、鬼達の親玉でしょう」
「なるほど」
譚の推測に小さく理解の声を漏らした読真の視線の先で、朱羅は妖しく光る太刀の切っ先を桃太郎たちに向けて高らかに言い放つ
「俺様は、お前達に殺られた他の三人とは訳が違うぜ!? 王鬼四将の力を思い知らせてやるよ!!」
(四天王的な奴だ! しかも物語も終盤だから、最後の四天王!! こんな出方をされると、他の三人が逆に気になるぞ!?)
「お前達の殺られた三人」、「王鬼四将」という言葉から、朱羅が四人いる鬼のリーダー格の最後の一人らしい事を察した読真は、なんともいえない歯痒い感覚を覚える
今の読真達は、例えるならば長編連載漫画を途中から見ているようなものだ。話は見通せないし、ここに至る主人公達や世界の紆余曲折も分からない。
それを最初から追体験していようものなら、それはまたどれほどの時間がかかっていたのか分からないが、途中から物語を見せられるというのは、それとは別の意味のもどかしさがある
「それはこっちの台詞だ、こっちこそ天羅の前に、てめえを返り討ちにしてやるよ!」
「クク、面白い、やってみろ」
怒気を孕んで咆哮する戌彦の言葉に口角を吊り上げた朱羅が指を鳴らすと、上空から巨大な鬼が二体、その背後に降り立つ
地響きを立てて落ちてきたそれは、身の丈十メートルに迫るような巨躯で、人型でありながら手を足を地面につけており、ほぼ裸体に近い薄緑色のその身体はミイラのようにやせ細っている
「で、でかっ!!」
「――これは、大鬼!!」
地獄の底から響くような咆哮を上げた巨大な鬼――大鬼は、冥府から漂う空気のような息と共に、薄紫色の唾液を口端から流して桃太郎達を爛々と光る真紅の瞳で睨みつける
「これは、一難去ってまた一難というやつですね」
「なんで、お前はそんなに冷静なんだよ!」
普段と同じく淡々とした口調で冷静に分析する譚に思わず突っ込みを入れた読真に、小さな先輩司書は水晶のような瞳で応じ、いつになく真剣な面差しを送る
「どうやら、私の秘密兵器、読真シールドを使う時が来たようですね」
「え!? 冗談だよね!? 本当にやるなよ!? ってか、この状況でボケるなよ! 本気にするだろ!?」
読真シールド――明らかに自分を盾にして自分だけ助かろうとしているように聞こえる譚に抗議の声を上げる読真だが、緊張感の欠片もないこの状況を見ていたモノスは、沈黙を守ったまま内心で憐れな新米司書に同情と憐憫の情を向ける
(坊、多分お嬢は本気やで……)
緊迫した空気の中、それを台無しにする二人のやり取りが行われているからと言って、戦闘が中止になるはずもない
むしろ、そんな事など意に介する事も、介する余裕もないといった様子で目の前の敵に全ての意識を集中する桃太郎たちの視線を受けた朱羅は、その身体から戦意と殺意の全てを解放してそれに応え、高らかに言い放つ
「さあ、最後の宴をはじめようか!!」