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地獄絵図

挿絵(By みてみん)






背後でドサリというなにか重いものが倒れる音がし、

ダンジョンに背を向けてPTウィンドウを見ていた咲耶が

何事かと後ろに振り返る。


するとそこには咲耶と似た髪型と髪の色をした、

一目で相当なレアアイテムだとわかる羽織を装備した

女性プレイヤーがボロボロになって倒れていた。


咲耶が女性プレイヤーに駆け寄ろうとPTウィンドウを

消そうとするが、瑠璃が近づかないように手で制する。



「ちょっと瑠璃、いきなり何よ」



キャラが倒れたという事は、キャラを操作している

プレイヤーが精神的に参っているということだ。


だからこそ咲耶は女性プレイヤーに手を貸そうとしたのだが、

瑠璃がそれを邪魔してきたので軽く睨む。


それに対し瑠璃は焦ったように女性プレイヤーを

指差しながら必死に説明した。



「そ、そんな目でみないでくださいよぉ。

 ソレに手を貸すつもりならその必要はないですからぁ」


「・・・茶々姫」



瑠璃の言葉を次いだ妖狐の口から出た単語に、咲耶は

しばし思い出すような仕草をしてからポンと手のひらを叩く。



「あぁ、どこかで聞いたと思ったら櫻花楼閣のギルドマスターの名前ね」


「いくらダンジョンが楽しみだからってついさっきの話を

 忘れちゃうなんて咲耶らしくないですねぇ」



ケラケラと笑う瑠璃にばつの悪そうな顔をした咲耶は、

妖狐に短刀でツンツンとつつかれている女性プレイヤーを見て、

今の話の流れから彼女が茶々姫なのだろうと気づく。


だがなぜ瑠璃が茶々姫に近づくなと言ったのかが分からず、

瑠璃に話を聞こうとしてその表情を見てぎょっとした。


普段はPKする時ですらケラケラと笑っている瑠璃が、

笑顔のまま周りの気温すら下げんばかりの冷たいで瞳で

倒れている茶々姫を睨んでいたからだ。


その様子から今はこの二人の関係に触れるべきではないと

思った咲耶は、結局消さずじまいだったPTウィンドウを操作して

瑠璃と妖狐の二人にPT申請を送る。


それに気づいた二人は、いきなり現れたウィンドウと

笑顔で二人を見ている咲耶をしばし交互に見比べたあと、

苦笑してPT申請を許可してPTに参加する。



「瑠璃、私からは何も聞かないわ」


「あははぁ咲耶には気を遣わせちゃいましたねぇ」



いいのよ、と言って茶々姫を避けてダンジョンへと

向かって行く咲耶に、瑠璃と妖狐も続いて歩き出す。


咲耶も長い付き合いのせいで、どちらかというと瑠璃寄りの

人間になってしまった為、瑠璃と仲が好ましくない相手だと

わかった以上、倒れている茶々姫と瑠璃のどちらかを

取るという事になった場合は瑠璃を選ぶのだ。


こうして咲耶たちは何事もなかったかのように意気揚々と

ダンジョンに入っていくが、なぜギルドマスターである

茶々姫があんな姿でダンジョンから出てきたのか、

それを全く考えてはいなかった。








「うわぁ・・・!」



ダンジョンに入った瞬間、咲耶はその景色に感嘆の息を漏らす。


入口のポータルがあったダンジョンの外見とは違い、

ポータルの先に広がるのは平安時代にでもタイムスリップ

したのではと錯覚するような和のみやこだったのだ。


咲耶に続いてダンジョン内に出現する瑠璃と妖狐も、

和風好きだけあって目に見えて嬉しそうなのがわかる。


三人は一度顔を見合わせると、笑顔で頷いて

同時に都の中心を伸びる大通りへと飛び出していく。



「いやぁよくできてますねぇ」



時々現れる鎧武者のような姿をした雑魚モンスターを

軽く蹴散らしながらも、建物のグラフィックをちゃんと

観察している瑠璃が感心した風に言う。


すると無言ではあるが妖狐もコクコクとそれに

同意するかのように景色を見ながら頷く。


そんな二人を見ながら来てよかったと心から思う

咲耶だったが、ふと目に入った大きな建物にだけ他の建物には

ないものがある事に気付き、瑠璃と妖狐を近くに呼ぶ。



「瑠璃、妖狐、ちょっといいかしら?」



咲耶の声を聞いた瑠璃と妖狐が咲耶の隣に並ぶと、

妖狐がどうかしたのかと目で咲耶に問いかける。



「あの建物を見て欲しいのだけれど、もしかしてあれって

 エリア移動とかそういうポータルだったりするのかしら?」


「どこですかぁ?」


「ほら、あれよ」



瑠璃の言葉に咲耶が建物を指差すと、瑠璃がタタッと

その方向へと向かって行き、何かを確認したあとに

咲耶と妖狐に向かって手招きをする。


それを見た咲耶と妖狐が瑠璃の近くまでくると、

瑠璃がずいっと咲耶に顔を近づける。


その際に少し鼻や唇が触れた気がした咲耶だが、

このゲームでは強烈なダメージを受けた際にリアルの体で

その部分に微弱な振動を受ける程度でしか感覚がない為、

気のせいだという事にして一歩引く。



「ちょ、ちょっと・・・どうしたのよ急に」



気のせいだという事にしても実際は僅かに動揺していた

咲耶が多少吃りながらそう言うと、確信犯であろう

瑠璃は少し頬を赤らめながらもお手柄です!と咲耶の手を取る。



「これたぶんあれですよぉ!ねぇ妖狐?」


「ん・・・たぶん隠しボスの部屋・・・」


「へぇ、そういうのもあるのね」



奥地にはボスがいて、倒すとレアアイテムを

手に入れることができるというのがこのゲームでの

ダンジョンの仕様だという事は知っている咲耶だが、

隠しボスがいるという事は知らずに建物を見上げた。


しかし同時にこんなわかりやすいところに隠しボスが

居ていいのだろうかと嫌な予感が脳裏を過ぎる。


そんな咲耶の様子を気にする事もなく、ボスを倒して

レアアイテムを手に入れようと瑠璃と妖狐がボスの部屋へと

足を踏み入れようとしているのに気付き、咲耶も慌てて後を追った。










「これは・・・」



咲耶がポータルを通り、ボスの部屋へと転送されると

珍しく瑠璃が動揺しているのが目に入り、その視線の先に

あるものを見て咲耶も思わず一歩後ずさる。



「・・・櫻花楼閣の・・・メンバー・・・全滅してる」



ボスの部屋へと入った三人の目に映ったのは、

道場のような広い和風の一室の中で佇む鎧武者と

そのまわりで地獄絵図のように倒れている40人近くの

プレイヤーの姿だった。


別に沢山のプレイヤーがボスにやられているという光景は、

数日前の酒呑童子との戦いの時もそうであったように

珍しいものではない。


だが今回は今まで咲耶が見てきたモノの中で最も酷く、

それどころか自らも残虐な事を平然とこなす瑠璃ですら

呆然としてしまうような状況になっていたのだ。


そこらじゅうに転がっているのはおそらくボスであろう

鎧武者にやられたプレイヤーの腕や足や頭。

部位欠損ダメージを追ってHPがゼロになった為、

その悲惨な姿で固定されているのだ。


そして一番異質なのは先程も述べたボスらしき鎧武者の姿。


外のマップに出現した雑魚と姿形がほぼ同じな為、

油断してかかったのだろうという事もありえるが

少し慢心を抱いたくらいで負ける櫻花楼閣ではない。


櫻花楼閣はナイトメアオンラインの世界に存在する

大型ギルドの中でも間違いなく最強クラスのギルドなのだから。



「咲耶ッ!!」



この部屋で呆然としてどれだけ時間が経ったのかわからないが、

急に瑠璃が白百合を抜刀して咲耶へと名を叫びながら走る。


我に返った咲耶はいきなりどうしたのかと瑠璃に

向き直ろうとした瞬間、強烈な衝撃を受けてその場に崩れる。


何が起きたのか理解できずにいる咲耶に妖狐が駆け寄り、

手持ちのアイテムからHPを完全に回復させる薬である

【月の涙】を使用すると、すかさず短刀を腰から抜いて

瑠璃の方へと向かう。


混乱したまま咲耶が妖狐の向かった先を見て、再び驚く。

今日一日だけでもう何度驚いたかんわからないが、

全滅した櫻花楼閣のメンバーを見たときよりも驚いていた。


プレイヤーの死体に囲まれていたはずの鎧武者が

いつの間にか瑠璃と妖狐の二人と刃を交えていて、

なんとその鎧武者の移動速度や剣戟の速さが

咲耶の知る最速の象徴、瑠璃を上回っていたのだから。



「しつこいですねぇ!!」


「・・・シッ!!」



必死に鎧武者と切り結ぶ瑠璃だが、その合間を縫うように

攻撃する妖狐が与えるダメージを見て苦悶の表情を浮かべる。


酒呑童子に放った時のようにダメージを与えられないのではなく、

攻撃をしているはずの妖狐がなぜかダメージを受けていたのだ。


逃げようにも速さは鎧武者が上、瑠璃はどうにか咲耶と

妖狐だけでも逃がそうとするがそれも適わない。


そんな様子を眺めていた咲耶がどうしたらいいものかと

辺りを見回すが、役に立ちそうなものは何もなく

おそらく攻撃に参加しても足手纏いにしかならないだろうと

いうことは自分自身がよくわかっていた。


かといって自分だけ逃げ出すわけにはいかない。


どうすれば良いものかと必死に考える咲耶だが何も

案が浮かばず、ただ目の前で必死に戦っている瑠璃と

妖狐を見ていることしかできなかった。


その時、咲耶の背後のポータルから新しくプレイヤーが

このボスの部屋へと転送され、咲耶の隣に並び声をかける。



「貴様―確か咲耶といったな、俺が合図したら一気に

 あの鎧武者に全力の一撃を叩き込め、良いな?」


「え・・・あ・・・夢魔・・・さん?」



咲耶が突然かけられた声の方へと顔を向けると、

そこには以前の酒呑童子のイベントの時に初めて会い、

そのまま瑠璃にボロ雑巾のようにされていた夢魔が

真剣な表情で威風堂々と立っていたのだった。





まさかの再登場、夢魔さんことナイト・ウィザードさん。

一発屋かと思った?ざんねん!まだ出番ありました!

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