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恥ずかしがり屋の妖狐

挿絵(By みてみん)





「・・・暇ねぇ」


「そぉですねぇ」



モンスター襲撃イベントから数日。

特に目立ったイベントが起きる事も無く、咲耶と瑠璃は

ホーム内でだらだらと過ごす日々を送っていた。


瑠璃からカタカタとタイピング音が聞こえてくるのは

恐らく暇つぶしにどこかにハッキングでもしているのだろう。


咲耶はキーボードを打ち続けている間、あまり動かない

瑠璃のキャラを眺めながらふと考える。


異常な速度を持つ瑠璃を操れる動体視力や反射神経。

片手間で行うハッキング行為や他者を陥れる知識や知略。

本人が言うには更に別の事を同時に行うことができる

分割思考マルチタスクも得意としているらしい。


つまり瑠璃は所謂、一種の天才というモノなのだろう。


ハッキングに飽きたのかキャラを操作し、ごろごろと

転がってきた瑠璃は、頭を正座で座っている咲耶の

膝の上に乗せて至福の表情を浮かべる。



「(なんで神様はこんな危ない子に多才な能力を

  与えてしまったのかしらね・・・)」



そう思っても口に出さない咲耶の優しさを知らず、

瑠璃は咲耶の顔を見て頬を染める。



「そんな熱い視線で見つめられると濡れちゃいますよぉ」



わざとらしくイヤンと手で顔を覆う瑠璃をとりあえず

軽く小突いて咲耶は立ち上がり、背を伸ばす。


別に座りっぱなしでキャラが疲れを感じるわけでもないが、

キャラを自由に動かせる為に気分的にやってしまうのだ。



「あぁん私の枕返してくださいよぉ」



咲耶が立ち上がった事で膝を枕にしていた瑠璃は

頬を膨らませて抗議するが、咲耶はそれをスルーして言う。



「ねぇ瑠璃、少し露店回りでもしましょうよ。

 こうしてごろごろするよりはきっと楽しいわよ?」



咲耶にそう言われた瑠璃は少し考えた仕草を見せるが、

ハッと顔を上げると笑顔を見せる。



「デートのお誘いというやつですかぁ、いいですねぇ!」


「まぁ・・・そうとってくれてもいいわ」



はしゃぎながら咲耶の腕に自分の腕を絡めてくる瑠璃に、

咲耶は苦笑しながら一緒に歩いてホームを出た。








このナイトメアオンラインではプレイユーザーが

露店を開くことによって、自分で手に入れたアイテムや

武具を好きな値段で売りに出すことが出来る。


だがその露店は各町に配置されている広場でしか

開くことができないので、大抵どの時間帯でも

広場は賑わっているのだ。


だが、広場に来た咲耶と瑠璃は広場の様子が普段と

違うことに気づいて互いに顔を見合わせた。



「おかしいですねぇ人はいるのに露店がありませんよぉ?」


「それにあの人だかりはなにかしら?」



広場では露店が無い代わりに、一箇所に沢山の人が

集まり何かに注目していた。


だが周りより一回り背の小さい瑠璃はその人だかりの先に

あるものが見えず、仕方なく腰の刀に手をかける。



「咲耶、ちょっとまっててくださいねぇ」



そういい残して瑠璃は瞬時にその場から消え、

次の瞬間には人だかりの後列2列ほどのプレイヤーが

HPを一気にゼロまで削られてばたばたと倒れていった。



「んーやっぱり刀のスキルだと範囲が少々狭いですねぇ」



瑠璃がそういいながら刀をヒュンと一振りすると

いきなりの瑠璃の暴挙に固まっていたプレイヤーたちが

一斉に飛び退き、道を開ける。


そんな様子を見ていた咲耶はため息をつきながら瑠璃に並ぶ。



「十分でしょ、それに相変わらず無茶をするわね」


「だってぇ邪魔なんだから仕方ないじゃないですかぁ」



反省の色を全く見せない瑠璃も瑠璃だが、

咲耶はもう瑠璃のPK等の突発的な行動に慣れているので

平然とした態度で人だかりの奥にあったモノに目を向ける。



「えっと・・・ダンジョンかしら?」


「たぶんそうなんじゃないですかぁ?」



そこにあったのは巨大なやしろのようなもので、入り口には

ワープポータルのようなものが輝いていた。

おそらく、和の街である蓬莱町に合わせて作られたダンジョンだろう。



「でも普段はここの広場にこんなものないわよ。

 イベント告知もなかったし、一体なんなのかしら?」


「・・・ランダムイベント」



咲耶がそう言って首を傾げると、先ほど飛び退いたプレイヤー達の

中から人を掻き分けるように、瑠璃よりも更に一回り

背の小さい少女が現れて呟くように咲耶に声をかける。



「たまに・・・告知とか無しに・・・イベントが起きる。

 大きいものも・・・小さいものも・・・ある」


「へぇ、けっこう長いことこのゲームをやってるけれど

 そんなイベントがあるなんて知らなかったわ」


「まぁこんなダンジョンが現れるようなイベントは

 滅多におきませんからねぇ・・・それよりもぉ」



さりげなく少女と咲耶の会話に混ざりながら、

瑠璃は少女へと近づいていくとその頭にポンと手を乗せる。



「久しぶりですねぇ妖狐ようこ


「ん・・・・・・」



そのまま瑠璃が頭に乗せた手をわしゃわしゃと動かすと

妖狐は目を細めて気持ちよさそうな反応を見せる。


少女は身長は130cmあるだろうかという低さで、髪の色は

ミルキーゴールドで白に近い金色のショートカット。

装備している空色の着物は瑠璃のミニ着物とは違い、

裾の長いちゃんとした着物になっている。

腰には短刀を左右に1本ずつ、計2本装備しており

一番目立つのは頭と腰の少し下から生えている

髪と同じ色の狐の耳と尻尾だ。



「瑠璃、貴女の知り合いなら紹介してちょうだい」



二人を眺めているのも悪くないとも思った咲耶だが、

流石にダンジョンを目の前にしていつまでもこうして

いるわけにもいかないので瑠璃に声をかける。


すると瑠璃は妖狐を咲耶の前に移動させて

自分で自己紹介をするように促す。



「・・・妖狐・・・よろしく」



簡潔に名前だけの自己紹介を済ませた妖狐は、

恥ずかしいのかくるりと回って瑠璃の後ろに隠れてしまうが

すかさず瑠璃の手によって同じ場所に戻されてしまう。



「・・・やー」


「やーじゃないです、咲耶は優しいから安心していいですよぉ」



そのあまりにも可愛らしい行動につい咲耶も妖狐を

抱きしめたくなるが、どうやら極度の恥ずかしがり屋

らしいので我慢して咲耶も自己紹介をする。



「はじめまして妖狐、私は咲耶っていうの」


「ん・・・・・・」



咲耶が片膝をついて妖狐と目線を合わせて言うと、

妖狐も小さく頷いてそれに応える。



「可愛いわね、この子」


「むぅ・・・あ、そういえばぁ」



妖狐を見て微笑む咲耶に嫉妬の炎を燃やしていた瑠璃だが、

ふと思い出しやかのように妖狐へと向き直る。



「妖狐、貴女確かこういうイベント情報に詳しいですよねぇ?」


「・・・・少し」


「このダンジョンについて何か知りませんか?」



瑠璃が言うには、妖狐はPTパーティを組んでの冒険が苦手らしく

こういうイベントをメインに楽しんでプレイしているらしい。


そのせいか告知に現れないランダムイベントも大抵先陣を切って

参加している為、装備も瑠璃には劣るが咲耶よりは上物だった。


瑠璃にダンジョンの事を聞かれた妖狐は少し考える素振りを

見せた後にたぶん、と前置きして話し出す。



「大きな街・・・たぶんここを混ぜて3箇所・・・ダンジョンがある」


「あぁ・・・ランダムイベントのなかでも2番目に大きいイベントですかぁ」



瑠璃は納得して頷いた後、こういった大型のランダムイベントを

体験したことのない咲耶に軽く説明をする。


簡単にまとめてしまえばこのゲームには数多くの街があるが、

その中でももっとも大きい3つの街にダンジョンが現れ、

そのダンジョンをクリアする事によってPプレミアレアのアイテムも

手に入る可能性があるというのだ。



「Pレアといえば、瑠璃のそのかんざしもそうよね?」



咲耶がそう言って瑠璃の頭を指差すと、瑠璃はそうですよぉと頷く。



「この簪も似た様なイベントで手に入れたんですよ」



もっとも、モンスターからのドロップじゃありませんけどね。と

言いながらケラケラ笑う瑠璃を見て咲耶なんとなく理解した。

イベントをクリアしたプレイヤーをPKしてその簪を

横取りしだのだろうと。


そこでふと咲耶は一つ疑問に思ったことを瑠璃に言う。



「Pレアってすごい性能の装備なのよね、

 それなのに瑠璃は1つしか装備してないの?」


「ん~できればもっとほしいんですけどねぇ。

 滅多に持ってる人がいない上にぃ盗られるのが

 怖くて装備してない人ばっかりなんですよぉ」



瑠璃の装備の話をしているのに他者の装備の話で返す瑠璃、

つまりPレアを奪う為の獲物がいないという事だろう。



「ならこのダンジョン、クリアしちゃいましょ。

 私と瑠璃ならそうそうやられないでしょうし、

 装備を見た感じ妖狐もそれなりに強いんでしょう?」


「確かに妖狐は咲耶よりは強いですけどぉ・・・」



さりげなく咲耶の胸に刺さるような事を言った瑠璃は

妖狐に視線を送ると、その視線の意味を理解した妖狐は

ぽそりと口を開く。



「ダンジョンが出てから・・・時間が経ち過ぎてる・・・」


「それって何かまずいのかしら?」



なにか問題があるのだろうかと咲耶は妖狐を見るが、

再び瑠璃の後ろに隠れてしまったので仕方なく瑠璃が

話の続きを受け持つ。



「まずいというかぁもう攻略されてる可能性があるんですよぉ。

 この蓬莱町だとぉ・・・たぶんギルド『櫻花おうか楼閣ろうかく』ですねぇ」


「櫻花楼閣?」



あまりギルド等に詳しくない咲耶が首を傾げると、

瑠璃の背中から少しだけ顔をだした妖狐が続きを話す。



「大きな街には・・・そこを拠点とした・・・大型ギルドがある。

 この蓬莱町は櫻花楼閣・・・ギルドマスターは茶々姫」


「ちなみに残りの2つの街はぁプレイヤーが最初に作ったキャラが

 出現する始まりの門『アクアゲート』と、咲耶はまだ行ったことが

 ないと思いますけどぉ地下にある空洞都市『アースランド』ですねぇ」



狭い活動範囲内で瑠璃と共に毎日だらだら過ごしている咲耶は、

今の話を聞いてもう少し行動範囲を広げようと考えながら、

その残りの街にも存在するギルドについても聞いてみる。



「そのアクアゲートとアースランドにはどんなギルドがあるの?」


「アクアゲートは・・・アイアスがマスターの・・・セントクルセイド」


「アースランドは確かぁライオットがマスターの嵐王国ストームキングダムですねぇ」



私は櫻花楼閣以外はセンスの悪さに吐き気がしますよぉ

という瑠璃と、それを聞いて何度も頷く妖狐。


妖狐も着物と短刀を装備している事から瑠璃と同じく

和風の物が好きで、互いにそこが気に入ったのだろう。


そんな二人を見て苦笑していた咲耶は、ダンジョンを見てから

再び瑠璃たちに視線を戻すと少し弾んだ声で言う。



「ねぇ瑠璃、私こういう大型ダンジョンって行ったことないのよね。

 もしかしたらレアアイテムはないかもしれないけど、その、

 少し行ってみたいなーなんて・・・?」



ちらとらとダンジョンと瑠璃の顔を交互に見ながら咲耶は

遠慮気味な態度で言う。

今の話通り、櫻花楼閣という大型ギルドがこのダンジョンを

攻略していた場合、瑠璃の目的のレアアイテムは見つからず

無駄足になる可能性があるからだ。


だが瑠璃からすればそれは堪ったものではなかった。

それは無駄足になるかもしれないダンジョンに

連れて行かれるという怒りでは決してない。


咲耶が(無意識に)上目遣いでお願いしてきているから

性的な意味で欲望を堪えられないという意味だ。



「・・・わかりましたぁイきましょう!!」



少々アクセントの違う言葉で返した瑠璃だが、

咲耶はそれを気にすることもなく満点の笑顔で瑠璃と妖狐に

PT申請のウィンドウを開き、了承を得てPTを組む。




そしてそれとほぼ同時に、ダンジョンから一人の


女性プレイヤーがふらりと姿を現し、そして―倒れた。




更新が遅くなって申し訳ありません。

次はもうちょっと早く・・・出来たらいいな?

ちなみに茶々姫はそのままチャチャヒメと読むんだけど

々←これにルビをふれないので仕方なく読みなしです。

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