夢統べる漆黒・ナイトウィザード
「よいしょっと、さてボスどこかしらね?」
瑠璃が悩んでいる間やる事がない咲耶は、
近くの建物に登りどこにボスがいるのかを確認する。
瑠璃もよくやる事だが、ナイトメアオンラインでは
こうする事でボスの居場所を簡単に特定できるのだ。
しばらくあたりを見渡していると、井戸のある小さな
広場から複数の攻撃エフェクトが光るのが見えた。
「あれがボスね・・・でも様子がおかしいわ」
咲耶がその光景を眺めながら首をかしげる、
普段のボス戦とは違いどこか違和感を感じるのだ。
「何か変ね・・・」
「何がですかぁ?」
「わひゃ!?」
考える咲耶の足元・・・というよりは臀部のあたりから
急に瑠璃の声が聞こえ、咲耶は驚いて飛び退く。
それを見てケラケラと笑う瑠璃。
瑠璃は咲耶が驚いた際に出す奇声が大好きらしく、
チャンスを見つけてはこうして驚かして来るのだ。
「驚かせないでちょうだい」
「その反応が可愛いすぎるから無理な相談ですねぇ」
「うぅ・・・」
自分の失態に顔を赤くする咲耶を見て、
瑠璃は満足そうにスクリーンショットを撮る。
こういう時は瑠璃に敵わないとわかっている咲耶は
さっさと話題を切り替えるために瑠璃にボスの話を振った。
「それで、ボスはどうするのかしら?
しばらく経つけど、まだ戦ってるみたいよ」
ほら、と咲耶が指を指したほうを見た瑠璃は
そうでしたと言って咲夜の横に並ぶ。
「実はですねぇ私が今とても欲しいレアアイテムが
実装されたばかりなんですよぉ」
瑠璃がそう言うと咲耶は頷いてボスに向かって駆ける。
レアアイテムが欲しいということは、つまりさっさと
ボスを倒してドロップを貰おうという事だからだ。
咲耶はボスに向かって走りながら瑠璃に尋ねる。
「ちなみに欲しいレアアイテムってなんなのかしら?」
「あぁそれはですねぇ」
瑠璃は咲耶の頭あたりを見ながら艶やかな笑みを浮かべた。
「犬耳ですよぉそれも咲耶に似合いそうな真っ黒なぁ」
それを聞いて嫌な予感がした咲耶は先に断りを入れる。
「・・・私はつけないわよ」
「無理やりでもつけちゃいますよぉ」
すでにその時の光景を妄想している瑠璃は頬を染めながら
興奮しちゃいますねぇと言っているが、咲耶は逆にため息をつく。
そんな咲耶を見ながら瑠璃は思い出したことを咲耶に言う。
「あぁそうでしたぁ、安心してくださいねぇ咲耶」
「何に安心しろっていうのよ」
自分でつける気になったの?と目で聞く咲耶に
瑠璃は自分のアイテム鞄からとあるものを取り出した。
「尻尾はちゃんと用意してありますからぁ」
「どこでそんなものを・・・」
瑠璃が取り出した黒い犬の尻尾をみた咲耶は、
先ほどよりも大きなため息をついた。
「でもこれどうやって装備するんでしょうねぇ?
やっぱり咲耶の後ろの穴に―――」
「うるさい!さっさと行くわよ!」
なんやかんやと騒ぎながらも瑠璃と咲耶の二人が
ボスのいる広場に到着すると、そこには異様な光景が広がっていた。
「あららぁ?」
「何が起きたのかしら・・・」
二人の目に映ったのは、いまだHPを9割以上残している鬼のような
姿のボスとその周りに散っている無数のプレイヤーの姿だった。
ボスが咲耶たちに攻撃してこないところを見ると、
ノンアクティブモンスターなのだろう。
「惨めですねぇこの人数でやられたんですかぁ?」
咲耶が倒れているプレイヤーを白百合でつつくと、
そのプレイヤーは悔しそうな声を漏らすが
実際に失態を犯しているので何も言い返してこない。
それを見た咲耶はプレイヤーたちとボスを交互に見て
自分の感じた違和感の正体に気づいた。
そう、咲耶が見ている時にだんだんと攻撃エフェクトが
少なくなっていたのだ―つまり。
「このLVの人たちでさえ一人ずつ減らされていった・・・?」
咲耶の呟きを聞いた瑠璃は倒れているプレイヤーたちの
ステータスを確認して珍しく驚いた表情になる。
それもそのはず、倒れている皆が皆LV70~99という
このゲームの中でもトップクラスの高LVプレイヤーだからだ。
もっとも、いくらLVが高くてもフィードバックシステムを
使いこなせずに操作が下手だったら大して意味はないし
瑠璃のようにLVが低くても強いプレイヤーはいるが。
「それに見てみなさい瑠璃、皆それなりの武器を持ってるけど
ボスのHPはほとんど減ってないみたいよ」
「ですねぇ・・・どういうことなんでしょう?」
「つまり、何かしらの対策が必要なのだろう」
瑠璃と咲耶がボスを考察していると、建物の影から
一人の男性キャラクターが姿を現す。
咲耶は生き残りがいたのかとそちらを見るが、
瑠璃は苦虫を噛み潰したような顔になる。
「あらあらぁボスにやられるのが怖くて一人だけ
そんなところに隠れてたんですかぁ夢魔さん?」
皮肉たっぷりな言い方で瑠璃が言うと、夢魔と
呼ばれた男はクッと卑屈な笑いでそれに答える。
「俺はそこいらの雑魚とは頭の作りが違うのでな、
連中の囮にして奴の動きを見ていただけだ」
「口だけならなんとでも言えますからねぇ」
「瑠璃・・・知り合い?」
互いに睨み合いながらそう言う瑠璃と夢魔を見て
咲耶が聞くと、瑠璃は心底嫌そうな顔になる。
「知り合いたくもなかったんですけどねぇ」
瑠璃がこうあからさまに嫌そうな顔をする事は
滅多になく、珍しいなと思う咲耶に今度は夢魔が
またもや大げさな礼をしながら言う。
「こいつは美しいお嬢様だな、俺は人呼んで
夢統べる漆黒・ナイトウィザードだ」
「はぁ・・・」
「長いからこの人を呼ぶ時は夢魔でいいですよぉ」
「好きに呼べ、俺は気にせんからな」
一体どういう仲なのだろうか?と咲耶が首をかしげると
それに気づいたかのように夢魔が自己紹介を続ける。
「ククッ俺はな、この世界で唯一装備の揃った
全盛期の瑠璃をPKしたことのあるプレイヤーなんだよ」
「つまり、夢魔はこのゲームでは数少ない魔法使いなのね」
「そういうことになりますねぇ」
調子に乗った発言をした夢魔は今やボロ布のように切り刻まれ、
ご丁寧に瑠璃のアイテム鞄の中に眠っていた要らない武器が
無数突き刺さり剣山のようになっていた。
その後、咲耶は瑠璃から当時の話を聞いたのだ。
わかりやすく説明すると瑠璃は初見の追跡魔法に驚き、
回避に失敗して『一度だけ』PKされてしまったらしい。
このゲームでは決められた職が無く、うまく魔法を
イメージできないと使えないという事から魔法使いなんて
滅多に現れないという油断もあったとの事。
もちろんそれ以降は瑠璃が見かけるたびに夢魔の首を
刎ねている為、実際の実力差は比べるものですらないのだが。
「夢魔は所謂、厨二病患者なんですよぉ」
「厨二病・・・?聞いたことない病気ね」
まぁ咲耶は知りませんよねぇと瑠璃は厨二病の説明をした、
簡単に言うと過剰な妄想で我を忘れてしまう人の事だと。
「しかも厄介な事にこのゲームってスキルとか動きとか、
フィードバックシステムで結構自由になんでも
できちゃうじゃないですかぁ?」
「そうね・・・あぁそういう事?」
「そういう事なんですよぉ」
話の途中で納得した咲耶に瑠璃は、
流石に頭の回転が速いですねぇと笑顔で頷く。
そう、つまりナイトメアオンラインでは厨二病患者が
もっとも強く、優れたスキルを身につけてしまうのだ。
「まぁ夢魔の事はいいとしてぇ今はあのボスですよぉ」
「そういえばボスを倒しに来たんだったわね」
夢魔のせいで忘れかけていたが、二人は未だ広場に
堂々と立っているボスに視線を向ける。
「ボスを倒すのはいいけれど・・・周りの人たちが邪魔ね。
なんでやられたのに復活地点に戻らないのかしら」
ふと咲耶がボスから視線をはずし周りで倒れている
プレイヤーを見てそう言うと、瑠璃が冷ややかな視線を向けて
そのプレイヤーたちに聞こえるように大きめの声で言う。
「どうせ自分たちが大してダメージを与えられなかったから
他の人が戦ってダメージを与えられるかどうか確認したり、
まぁつまり情報欲しさに残ってるんですよぉ」
惨めですねぇと瑠璃が付け足すと、半数のプレイヤーが
恥辱に耐え切れなくなったのか復活地点へと転送される。
それを見てケラケラと笑う瑠璃、まだ残っている連中は
意地でも情報が欲しいのだろうと諦めてた。
「さてぇそれでは試しに少しボスを叩いてみますかぁ」
「そうね」
再びボスへと視線を戻した瑠璃は普段より少し真面目な顔で
白百合を抜くと、それ見た咲耶も龍牙を構える。
そして二人は鬼の姿をしたボスへと一気に駆け出した。
更新期間を早くして1話あたりの長さは今のままがいいのか、
更新が遅くなっても1話を長くした方がいいのか・・・ううむ。
しかしこのナイトメアオンライン、厨二病患者が強くなれるって事は
自分が参戦したら最強クラスの強さなんじゃなかろうか・・・!