モンスター襲撃イベント、そして瑠璃との出会い(後編)
「へぇ・・・最近のゲームってけっこうすごいのね」
ナイトメアオンラインにログインして、私の口からでた
最初の言葉はゲームのグラフィックに対する感想だった。
現実に近い、だけどどこか現実離れした風景を眺めるのは
なかなか面白くちょっとした旅行気分になれる。
流れる川を中心に洋風で水色の建物で作られた街並み、
マップ名には『アクアゲート』と表示されていた。
「最初の街だけあって人があまりいないわ・・・あら?」
初期地点から風景を楽しみながら歩いていた私は
街の中にモンスターらしき影を見つけて首をかしげる。
ゲーム開始前に読んだ説明書には街の中は安全地帯で、
草原や山林フィールドなどにでなければモンスターに
襲われる心配はないと書いてあったはずだ。
「おや、お前さんもしかして新規さんかい?
なにやら困ったような顔をしてるようだが」
モンスターの様子を見ていると、少し離れた場所から
こちらに声をかけながら近づいてくる戦士風の男が目に入る。
立派な鎧を纏った、いかにも熟練者だという風貌だった。
「えぇ、アレなのだけど・・・」
私がそう答えながらモンスターに視線を戻すと、
戦士風の男は私の視線を追って納得したという顔になる。
「今はモンスター襲撃イベントの最中なんだよ」
「モンスター襲撃イベント?」
説明してくれる戦士風の男に私はいくつか聞き返しながら
モンスターと戦っている人たちを見て回る。
どうやらイベントの日にはモンスターが街の中に現れ
それを倒すと珍しいアイテムが手に入る事があるらしく、
この戦士風の男もそのアイテム目当てで人の少ない
アクアゲートに来ていたらしい。
覚えておかないと危険かしらね、と考えていると
戦士風の男が私の足元に見ながら言う。
「お?お前さんのところに雑魚モンスターがでるぞ」
「え?きゃあ!!」
言われるとほぼ同時に私の横に現れるモンスター、
突然の事に驚いて私は後ろに軽く跳ぶ。
その動きを見た戦士風の男はほう、と感心の声を漏らす。
「初心者にしてはなかなか良い動きをする。
現実でもそれなりに動けるほうみたいだな?」
「まぁ、運動は嫌いじゃないわね」
会話を交わしながらも私は人のように二本足で立つ
豚のようなモンスターの攻撃をかわして、
私は初期装備であるショートソードを引き抜く。
そしてそのままモンスターの距離をつめて一閃。
「ハッ・・・!」
「グヒッ!!」
「あがっ・・・!?」
しかし私の放った一撃はモンスターの眼前で空振りし、
モンスターが手にしている棍棒の一撃を受けて
私は体勢を大きく崩してしまった。
「グヒグヒッ!」
それを好機と見たのかモンスターが私に追い討ちを
かけようと棍棒を振りかぶる。
それを見た私は考える間もなく、体勢を崩したまま
モンスターの足を狙ってショートソードを横に薙ぎ払った。
「グギャ!?」
足を薙ぎ払われたモンスターはそのまま地面に倒れ、
バタバタともがきながらも必死に起き上がろうとする。
そんなモンスターに私はとどめの一撃を放つと、
モンスターは声を上げるまもなく絶命して消滅した。
「ふう・・・」
「見事なもんだな、こりゃ将来有望だ」
私が安心してため息をつくとガハハと戦士風の男が
笑いながら肩を叩いてくる。
だが、次の瞬間男の顔色が変わった。
「お、おい・・・お前それ・・・」
「え?」
男が驚きの表情を浮かべてモンスターの遺体が
消滅した場所を指差すと、そこには黄金に輝く
宝箱が一つ出現してウィンドウが表示される。
『宝箱を開けますか?』
「えぇ・・・開けるわ」
固まっている男を放っておいて私が宝箱を開けてみると、
そこから現れたのは綺麗な装飾が施された一本の日本刀だった。
「綺麗な刀ね」
そしてその綺麗な刀に目を奪われた私は、戦士風の男の
口がニヤリと笑みを浮かべているのに気づかなかった。
視点:瑠璃
「まったくもう、邪魔な人たちですねぇ」
私がゲームにログインすると街中で色々な人が
走り回ってるのを見て今日はモンスター襲撃イベントが
ある事を思い出し、私も人の波に続いて走っている。
「(まぁどうせボスを見つけたら邪魔者にはさっさと
消えてもらうからいいんですけどぉ)」
とりあえずボスを見つけなければ話にならないので
人混みから抜け出し、近くの建物に登ってあたりを見渡す。
するとゲーム開始の初期位置の近く、街の各方面へ
抜けられるようになっている広場に大型のモンスターと
交戦中の数名のプレイヤーが目に入った。
「うふふ・・・見つけましたよぉ」
建物から飛び降りると、私は広場に向かって一直線に走る。
更に途中で恐らく応援に呼ばれたのであろうプレイヤーを
発見してはついでにそれらを討ち取っていくのも忘れない。
瑠璃に討ち取られたプレイヤーは皆が瑠璃のステータスを
見て驚愕の表情を浮かべながら倒れていく。
そう―瑠璃のLV15というあまりに低すぎる数字に。
広場に到着すると、ボスと交戦しているプレイヤーは6人。
ボスはHPが残り僅かという状況になっていた。
「これは美味しい・・・ん?」
さっさと周りのプレイヤーから片付けようとした瞬間、
視界の隅に雑魚と戦う初心者らしきプレイヤーが見える。
「あらぁ私好みの綺麗な女性ですねぇ」
私は思わずそちらに駆け出そうとするが、
モンスターが瀕死になった時に聞こえる雄叫びが
聞こえたのでくるりとボスのほうに向き直る。
「危ない危ない、まずはボスを頂いちゃわないとぉ」
別の目的が出来た私はまず手近のプレイヤーから
バッサリと斬り捨て、それに気づいた者から順番に
的確にその命を散らせてゆく。
刀―私が愛用している刀類に属する武器には特殊な
効果を持っているものが多く、現在所有している
『童子切』にも重鎧を身につけてない相手なら
急所を狙えば即死という極悪な能力がついているのだ。
あっという間に6人のプレイヤーを狩りつくした私は
既に瀕死のモンスターに向かって固定ダメージを
与える事ができる爆弾を数個放り投げた。
「たーまやー」
気の抜けた私の声とは裏腹にボスモンスターは爆発し、
そこに宝箱が現れるのでさっさと中身を確認する。
「龍牙・・・刀といってもこれは長巻ですかぁ?
Bランクで付与能力は筋力増加じゃゴミですねぇ」
ボスを倒し終わった私は続いて先ほど見つけた女性の
もとに向かおうとして、思わず驚きに目を見開いた。
女性が持っている刀―白百合と気づかれぬよう
戦斧を振り下ろそうとしている男の両方に。
視点:第三者
「(悪いな嬢ちゃん、怨むならそのドロップ運を怨んでくれよ)」
咲耶が綺麗な装飾の刀―白百合に目を奪われている隙に
戦士風の男はそれを奪おうと戦斧を振り上げる。
だが戦斧を振り下ろそうとした瞬間、何がおきたのか
わからないまま戦士風の男は絶命した。
そう、瑠璃が一瞬で詰め寄り戦士風の男を切り捨てたのだ。
瑠璃はレベルアップごとに振り分けることができる
ステータスをほぼスピードに振り、身につけている
レア装備の数々で更にスピードに特化している。
故にレベルが低かろうと、後は本人の操作の腕と
武器の性能次第で簡単に誰でもPKできてしまう。
男が動かなくなった事を確認した瑠璃は未だに白百合に
目を奪われている咲耶を一見し、そっと声を漏らした。
「綺麗ですね・・・」
「え?あぁ・・・これ?」
瑠璃は咲耶自身の事を言ったつもりなのだが、
それを白百合の事だと勘違いした咲耶は瑠璃に
白百合を差し出す。
その対応に瑠璃はうろたえながら白百合を受けとる。
どうやら咲耶は白百合を瑠璃に見せてくれるようだ。
「綺麗な刀よね、もしかして良い物なのかしら?」
貴女は何かしらない?と尋ねてくる咲耶に瑠璃は
一瞬ポカンとしながら呆きれ声で答える。
「まぁ良い物じゃなければそこの男も貴女を
狙おうとはしないんじゃないですかぁ?」
そういいながらまだ倒れている戦士風の男を指差すと、
咲耶は今頃になってようやく男が倒れているのに気づく。
「あら、その人どうしたのかしら?」
「貴女がこの刀を手に入れたから、貴女を狩って
横取りしようとしてたんですよぉ」
だから私が先に狩っちゃいましたと瑠璃がケラケラ笑うと、
咲耶はそういう楽しみ方もあるのかと納得していた。
そんな咲耶の様子をみて瑠璃はふと疑問をぶつける。
「あのぉ貴女新規さんですよねぇ?」
「そうよ」
先ほどの雑魚との戦いぶりから瑠璃はもしかしたら
経験者かとも思ったが、どうやら違ったらしい。
ステータス画面を確認しても確かにLV1と表示されている。
「だったら怖くないんですかぁ?貴女は今狙われて、
その狙った人もたった今死んじゃったんですよぉ?」
瑠璃がそう言うと咲耶は瑠璃に顔を近づけ、大丈夫と笑みを返す。
「だってここは悪夢の世界なんでしょ。
それにプレイヤーを攻撃できるのも運営がそう
設定した以上一つの楽しみ方じゃないのかしら?」
咲耶はそう言いながら瑠璃の頭を撫でるが、瑠璃は先ほどの
笑みに見とれてしまってそれどころではなかった。
胸の鼓動が高まる。
「そうですねぇ」
答えながらも瑠璃の頬が紅潮する。
「ところで貴女はどんな武器が得意なんですか?」
できるだけ会話を長引かせようと瑠璃が話題を振る。
「薙刀・・・かしらね?学校の授業で習ったのよ」
「珍しいですねぇ、もしかしてお嬢様学校とかですかぁ?」
「世間から見るとそうかもしれないわね、女子高だし」
女子高育ちのお嬢様、先ほどから見せる仕草から
その言葉に嘘偽りはないだろうと瑠璃は思う。
興奮が高まり、下腹部が熱くなる。
「だったらこれ使いますかぁ?
残念ながら薙刀ではなく長巻なんですけどぉ」
瑠璃は咲耶に抱く感情を誤魔化すように先ほど手に入れた
龍牙を手渡すと、咲耶は目を輝かせてそれを振ってみる。
見ればみるほど綺麗な顔立ち、ゲームキャラとはいえ
声から判断するに現実でもそう遠くない顔立ちだろう。
瑠璃は無駄に多才で声を聞くだけで大体どんな人物か
わかるし、声が作られているものかどうかも判断できる。
「これ、貰っちゃっていいのかしら?」
よほど気に入ったらしく満点の笑みを浮かべながら
瑠璃を見ながら咲耶はそう尋ねる。
なんて清楚で純粋な笑顔なんだろうか。
瑠璃は自分の欲望が滲み出るのを感じる、
この女性を汚してやりたい、自分の色に染めてやりたい。
「どうぞぉ私は刀にしか興味がないものですからぁ」
瑠璃がそう言うと、咲耶は嬉しそうに龍牙を収めて
ポンと手を叩く。
「じゃあ私もそれ、貴女にあげるわ」
私は刀じゃリーチが足りないみたいだし、と咲耶は
瑠璃が手にしている白百合を指出して言う。
「・・・いいんですかぁ?これ相当高価なものですよぉ」
普段の自分なら当然価値なんか教えずに貰うはずが、
口から出た言葉に瑠璃は自分自身が驚く。
「いいのよ、何より助けて貰ったみたいだしお礼も兼ねてね」
「そうですかぁ・・・ではありがたく頂きますねぇ」
瑠璃が白百合を収めると、それじゃと咲耶が歩き出す。
もう少し咲耶と話がしたかった瑠璃は整理がつかない
頭でなんとか咲耶を呼び止めようと声をかける。
「あ、あのぉ!」
「なにかしら?」
すると咲耶は振り返り、再び瑠璃と視線が交差する。
瑠璃は未だ何を言っていいか思いつかなかったのか、
とりあえず伝えたいことを伝えようと必死に声を出した。
「実はぁもう一つ欲しいものがあるんですよぉ」
「私が持ってるもの?」
何か持ってたかしらと自分の所持品を探る咲耶、
もちろん始めたばかりなので中には何も入っていない。
「もう何もないみたい」
そう言って立ち去ろうとする咲耶に、慌てた瑠璃は
産まれて初めて出したのではないかという声で叫ぶ。
「貴女が・・・貴女がほしいんですっ!!」
「懐かしいわねぇ」
当時は突然のプロポーズまがいの行動に驚きもしたが、
結局あのまま仲良くなって今こうしている。
「まぁ・・・今では私も貴女が結構好きよ、瑠璃」
未だにボス討伐に向かおうか悩んでる瑠璃を見ながら、
咲耶は聞こえないようにそっと呟くのだった。
前よりはちょっと長くなった・・・気がする!
まぁ前回よりは遅い更新でしたが、リアルに余裕がある限り
それなりの更新ペースを保っていこうと思います。