プロローグ
炎天下の空の下、彼女は近所のスーパーで買い物を済ませて
熱いアスファルトの上を気だるげに歩いて帰路についていた。
「暑いわね・・・昼間に出かけたのは間違いだったかしら」
高校を卒業してからは毎日家に閉じこもり、ネットゲームを
しているような人間である彼女にはきつい道のりである。
「日陰で涼みたいわ・・・でもそろそろあの子も起きるだろうし」
仕方ないか、と覚悟を決めて彼女は必死に足を運ぶ。
起きているであろう人物とは家族でも親戚でもなく、
ネットゲームで知り合ったとある女性の友人を指している。
彼女と同じく働いておらずかといって学校にも行っていない、
毎日昼近くまで寝ており午後から深夜にかけて彼女と共に
ネットゲームをプレイしているような友人だ。
「ただいまーって言っても、一人暮らしじゃ意味ないのよね」
急ぎ足で帰宅した彼女は部屋に荷物を置くと、
机の上のパソコンがつけっぱなしになっているのが目に付いた。
「あら・・・つけっぱなしにしちゃってたのね」
「えぇ、そうみたいですよぉ?おかえりなさい咲耶」
「ひゃい!?」
私以外誰もいない部屋で突然話しかけられ、
驚きのあまり変な声を出しながらあまりを見渡す。
「咲耶、ネトゲに繋いだまま寝ちゃったんですよぉ?」
それにしてもなんですか今の面白い声はとケラケラ
笑っている声には聞き覚えがある、瑠璃だ。
瑠璃は私がMMORPGのネットゲーム『ナイトメアオンライン』で
知り合った例の昼まで寝ている女性のことで、咲耶とは
ナイトメアオンラインの中での私の名前である。
「たぶんバイザーディスプレイははずしてたんでしょうけどぉ、
とても可愛い寝息や寝言が聞こえてきて興奮しちゃいましたぁ♪」
ナイトメアオンラインはバイザーディスプレイという
頭に装着する形のミニモニターを使って画面を見る事ができ、
内蔵されている小型マイクでボイスチャットも出来るのだ。
私はゲームに接続したまま眠ってしまったために、
そのマイクからこちらの音が全部聞こえてしまたったのだろう。
「瑠璃・・・昼真っからそういう事を言わないで頂戴。
貴女は嫌いじゃないけどそういうのは苦手よ」
「そういうのって、どういうのですかぁ?」
相変わらず楽しそうにケラケラと笑っている瑠璃は
私の言いたい事を知っているにもかかわらずとぼけてくる。
そう、私を玩具にして楽しんでいるのだ。
瑠璃はヤンデレで同性愛主義者で淫乱で、更に超がつくド変態である。
そしてなぜか私に好意を抱いている為に現状に至っている。
「直接言わないとわからないのかしら?」
流石に私も昼間の暑さも相まって少々イライラした口調で
そう言い返すが、おそらくそれすらも瑠璃は楽しんでいるのだろう。
「私超能力者じゃありませんしぃ、
言ってもらえないとわかりませんよぉ?」
「・・・どうせまた、したんでしょ?」
「何をですかぁ?」
「・・・・・自慰」
「もちろんです♪
あんな可愛い寝息を聞かされたら我慢できませんよぉ」
とても気持ちよくイけましたよーなんて言っている瑠璃を
無視して私は真っ赤になった顔を両手で覆う。
やりづらい。
瑠璃は初心な私の弱点を知り尽くしているせいか
口で言い争っても絶対に勝てず、逆に私が瑠璃のペースに
乗せられて最後には恥ずかしい目に合わされるのだ。
「もういいわ、買い物の荷物片付けたら
バイザーつけるから少し待ってて」
もう諦めた私は瑠璃にそういい残して荷物を片付ける、
また数日家に閉じこもるための貴重な食料だ。
「また買い溜めですかぁ・・・新鮮なものを食べないと
栄養がとれなくなりますよぉ?」
「私は親もいないし、誰も怒らないからいいのよ」
「私が怒りますからぁ、健康には気をつけてくださいねぇ?」
「まぁ・・・善処するわ」
私を弄る時はとことん弄るくせに、こういう面に関しては
本気で心配してくれる瑠璃に少し頬が緩む。
「病気にでもなったら私のオカズはどうすればいいんですかぁ」
前言撤回、心配どころは私ではなく自分の性欲だったようだ。
「知らないわよ。
さて、それじゃそろそろやりましょうか」
「はぁい」
そう言って私はバイザーディスプレイを頭に装着し、
自分の部屋からナイトメアオンラインに意識を移す。
すると視界がだんだんと変わっていき、
最初に私の目に映ったのは・・・・。
「えへ~♪」
「・・・・貴女・・・ねぇ」
妖美な笑みを浮かべて私のキャラクター、
咲耶の胸を鷲掴みにしている瑠璃の姿だった。