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プロローグ
三年も前だというのに、焦げ付いたかのように思い返す。
紅い雨が降る日だった。
流行りの映画を見に行った帰り道。
天気雨で傘を差し、水たまりに飛び込んだ。
夕日に伸びる影を追いかけながら家に帰ったのを覚えている。
家に着く。
何も、なかった。
家があった場所には、ただ家だった残骸が広がっていた。
姉がいた。
凛とした後ろ姿と、紅い西陣織の衣装が夕日に映えていた。
傘も差さず、美しい自慢の濡れ羽色の長い髪からぽたぽたと水が滴っていた。
表情は見えず、後ろ姿はどこか笑っているようにも、泣いているように見えた。
姉がこちらに顔を向ける。ただただ、悲しそうな顔をしていたような気がする。
「ごめんね」
そう言い残し、姉は行ってしまった。
家族はその日、誰もいなくなった。