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前夜

 あの日はホワイトクリスマスだったよね

 だから、雪はキライだな……

 

 真白な雪の結晶は、哀しく暗い色に染まった

 

 

 

 

 

 

 

 陽気なクリスマスソングに合わせてリズムをとりながら、それこそ陽気に街を歩く夢斗。

  

 何せ今日は、待ちに待ったクリスマス・イブなのだ!

 

 蔆はあれから、冬休み中ということもあってほぼ毎日サラのもとを訪れ、夢斗の思惑通り、順調にサラと仲良くなっていた。夢斗はその一部始終を、いつも拝聴していたので作戦の成功に喜んでいた。これは変な意味ではなくて、サンタクロースには世界中の子供達の声を聞くことが出来るという素晴らしい能力が備わっているからだ。

 今夜、夢斗がサンタとして彼女の前に姿を現せば、サラは間違いなくサンタの力で友達が出来たと思うだろう。

 すべてが予定通り、順風満帆に思われた。

 

 

 

 

「それで?その後はどうなったの?」

 サラは待ちきれないとばかりに続きをせがむ。サラにとっては、蔆の学校や友達のありきたりな話が、未知で魅力的な世界だった。サラがあまりに楽しそうに笑ってくれるものだから、蔆はサラといない時にも、次は何を話そうかとあれこれ考えながら過ごすようになっていた。

 乙女チックで可愛らしいその空間が、いつのまにか蔆の生活の核になっていた。

 

「ねぇ、今日は夕食を食べていかない?おっきなケーキもあるのよ!」

 話が一段落した頃には、夕日は沈み外は暗闇に包まれていた。

「いいの!?ホントに?」

「もちろんよ!蔆は友達でしょ?」

「…うん。じゃあ、いただきます」

 サラに恋心を抱く蔆にとって、友達という響きはなんだか嫌なものに感じられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ブランカ!ブランカ出てこい!」

 真っ赤な洋服に身を包み、真っ白な髭をはやした夢斗は、あまのじゃくな妖精を呼んでいた。

 その姿は、童話の中のサンタクロース。まさに完璧で、髭ももちろん本物だ。

 毎年クリスマスにだけ、夢斗や世界中のサンタ達は同じ姿に変わることができる。万国共通のお馴染みのサンタクロースに。

「ブーラーンーカー!!」

 あまりの煩さに、召使い妖精も観念したように姿を現した。妖精は、外気の寒さに夢斗の懐へと飛び込んだ。真っ赤なサンタ服の保温性は抜群なのだ。

「よし。行くぞ」

 夢斗はこれもクリスマスにだけ乗れる、愛トナカイの引くそりに腰を落とし、手綱を思い切り引っ張った。鈴の音が一度美しく鳴り、そりは一気に浮かび上がる。

 トナカイのドリームは久しぶりに大空を駆け回る事が出来、嬉しそうに鼻を鳴らした。

「ドリームよ!今この世界で一番早いのはお前だ!行け!」

 もちろん夢斗も、久しぶりの空中遊泳にアドレナリンを大放出させていた……。

 

 

 

 サラは夢の中にいた。部屋の中に、ある意味不審者が忍び込んでいることも知らずに……。

「お嬢さん、お嬢さん起きなさい」

「んん……だれぇ?パパ……?」

 サラは重い瞼をうっすらと持ち上げた。瞳に赤と白をまとった人が映る。

「サンタさん!?」

 思考は一瞬にして覚醒される。サラは勢いよく身を起こした。

「メリークリスマス!プレゼントは気に入ってくれたかな?」

「メリークリスマス、サンタさん!やっぱりそうだったのね!ありがとう!!」

 サラは興奮して、サンタの姿をした夢斗に抱きついた。

「会えて嬉しいわ!どうして去年も一昨年も、姿を見せてくれなかったの?」

「すまなかったね。だけど来年からは、毎年顔を見せに来るよ」

「約束よ!」

 サラは小さな小指を夢斗の前に差し出した。夢斗は太くてささくれだった、自分のウインナーみたいな小指をそれに繋げた。

「ゆーびきりげーんまんうーそついたーらはりせんぼんのーますゆびきった!」

 サラは歌い終わると、天使の笑みをサンタに向けた。

 夢斗もそれに答えるように、いつもと違って優しい微笑みをサラに向けた。

「私はそろそろ行かなくちゃあならん。元気でな、お嬢さん」

「……はい!」

 サラは寂しさを堪えているように見えた。サンタに次の配達があると思ったのだろう。

 夢斗はサラの髪の毛を優しく撫で、彼女を再び夢の中へと導いた。すぐに、サラは可愛らしい寝息を立て始める。

「ブランカ、あれを」

 妖精は懐から飛び出し、サンタのメッセージ入りクリスマスカードをサラの枕元に添えた。

 夢斗はサラの布団をかけ直してから、そっとその家を後にした。

 

 

 

 

 


 

 あたしの宝物は、どこにでも売ってるクリスマスカード

 だけど、このクリスマスカードは世界にたった一つだけ


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