同盟
あの頃のあたしは、王子様が現れるのをただ待っているだけの、弱虫でした
あの頃のあたしは、嫌われるのを恐れ誰にも心から打ち解けることが出来ませんでした
あたしは籠の鳥でしかないのに、本当はお城から出られないお姫様なんだと思っていました
喩え一時の夢だとしても、
信じて、いたかったんです……
夕日が黄金色に輝き、閑静な住宅街をその色に染めていた。どれもが夢斗の家より数倍は大きく豪勢で、何故だか威圧感を感じる。夢斗は、周りと負けじ劣らぬ風格で佇む依頼主の邸宅前を訪れていた。
電柱の陰に潜む姿は、ストーカーそのもの。職務質問されれば間違いなく警察行きだろう。
塀が高く、中の様子は見えづらかったが、2階のテラスの窓になんとか少女らしきシルエットを確認できた。
「後藤田 サラ、10歳。A型。9月1日産まれの乙女座でなかなかの美少女、っと……」
夢斗は手元の資料を音読する。最後の方に夢斗の主観が混じってはいるが、これは少女のプロフィールである。
夢斗は珍しく悩んでいた。
少女の欲しがっているプレゼントが、あまりに突拍子もないものだったから。
以下は、ブランカが持ち帰った手紙の一節である。
“サンタさんへ あたしは体がよわいので、みんなみたいに学校にいけなくてさみしいです。友だちがほしいです。おねがいします。 サラより”
いくら夢斗がサンタクロースだからといって〈友達〉を下さいとはいささか無理難題だ。頭を抱えるのも頷けるだろう。
「ん?……さては青春☆かな?」
突然、意味不明な言葉を発しながら、夢斗は一本先の電柱まで足を運んだ。
そこには少年がいた。夢斗と同じくサラの家を眺めている一人の少年。夢斗は静かに声をかけた。
「なあ、少年よ。ちょっと時間あるか?」
「うわあぁぁっ!……お、お前誰だよ!急に近付いて来んな!!」
夢斗の顔を見るなり少年は叫び声をあげ、驚きのあまり腰を抜かしてしまった。
「だいじょぶか?」
夢斗は直ぐ様手を挿しのべたが、無情にも少年に振り払われた。払われた手は行き場を失い、夢斗の頭をポリポリと掻く。
「あぁ〜……ちょっと頼みがあるんだが……」
「キモッ」
少年は2歩ほど後退りながら言い放つ。
「そーゆうこと言っちゃうのかー。せっかくあそこの窓辺に映る麗しき美少女、後藤田 サラちゃんのお友達に任命してあげようと思ったのに。残念だー、他の子に頼まなくちゃなぁー。あぁ残念だなー」
「えっ……!?」
「ん?何か言いたいことでも?」
夢斗はいやみったらしく微笑んだ。
「あ〜、そんなに言うんだったらやってやってもいいぞ」
少年は、動揺しまくっている心中を隠すために、わざとぶっきらぼうに振る舞う。
「そうか!いやぁ〜有り難い」
(扱いやすい奴で良かった)
「よし、少年よ。名前は?」
「品崎 蔆!」
この日、ストーカーまがいコンビが結成されたのは言うまでもない。
ツンと張る空気に、包まれ抱かれ、こんな幸せ、失ってしまいそうで怖いよ……。