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入学式

第1話:入学式

 ピピピピッ——


「……んん……もう朝か」


 けたたましいアラーム音とともに、重たい瞼を開く。


 カーテンの隙間から差し込む朝日が、やけに眩しい。


 桜が咲き始める季節。


 俺こと『白石(しらいし) 蒼空(そら)』は、今日から高校一年生になる。


「…………緊張しすぎて全然眠れなかった」


 昨日の夜は、高校生活について色々と考えていた。


 友達はできるだろうか。


 クラスに馴染めるだろうか。


 変な奴だと思われないだろうか。


 そんなことを考えていたら、気づけばほとんど眠れていなかった。


「と、とりあえず準備だな」


 そして俺は、あることを思いついた。


「……髪の毛のセットなんかにも挑戦してみようかな……?」


 高校デビュー。


 その言葉が頭をよぎった。


「……なんちゃって」


 そう言いながら、俺はワックスを手に取った。


 * * *


 ペタペタ

 

「…………」


 ペタペタ


「………………」


 ペタペタ


「………………失敗した」


 それから二十分後。


 鏡に映っている俺の髪は、見事なまでにおかしなことになっていた。


「あぁぁぁぁ!! 調子に乗ってセットなんてするんじゃなかった!!」


 ワックスをつけすぎたせいで、髪が不自然に固まっている。


「てか、どうやったらこんな髪型になるんだ? 玉ねぎみたいになってるんだけど……」


 俺の高校デビューは、学校へ行く前に終了した。


 結局、髪を洗い直していつもの髪型に戻す。


「はぁぁ……結局セットはうまくいかず、いつも通りのモブヘアーになってしまった」


 まあ、仕方ない。


「高校デビューしてみたかったんだけどなぁ……」


 独り言を呟きながら、俺は家を出た。


 通学路を歩く。


「ま、まぁ過ぎたことは仕方ないよな!」


 気持ちを切り替える。


「とにかく、高校では友達を百人作ろう!」


 そんなことを呟いた時だった。


「おーーーーーーーい!! 蒼空ーーー!」


「……この声は」


 校門をくぐったところで、ガシッと肩を組まれる。


「お前だと思ったよ……陸」


「どーしたんだよ! そんなげっそりした顔して! もっと笑え!」


「お前のせいじゃバカ」


 このアホでバカでうるさい奴は『黒沢(くろさわ) 陸(りく)』。


 小学校からの親友だ。


 昔からこいつは、朝からうるさい。


「ちょっと!! 何蒼空のこといじめてんのよ! そしてうるさいっ!!」


 バシッ!


「痛ってぇ!」


 陸の頭を叩いたのは『早坂(はやさか) 朱莉(あかり)』。


 もう一人の親友であり、陸の彼女でもある。


「おはよう、朱莉」


「おはよう、蒼空!」


「ちょっ!! 俺にもおはようは!?」


「……」


「無視!?」


「朝から騒ぐなよ、陸」


「蒼空まで!?」


 そんな陸を無視して、俺たちは体育館へ向かった。


 ———————————————————————————


 入学式が終わり、俺たちは体育館の後方に張り出されたクラス表を見に行った。


「蒼空ー。お前何組だった? 俺は3組だった」


「ちなみに私も3組になった!」


「マジか。俺も3組」


「え、マジ!?」


「うちら3人そろうとか! 小中でもなかったのに!」


「確かにな」


「これって運命じゃない!?」


「なんだよ蒼空ー! そんな嫌そうな顔してよー」


「いや、嬉しいは嬉しいんだけど……」


 俺は少しだけ苦笑する。


「これから騒がしくなりそうで複雑になってただけ」


「全く蒼空は照れ屋さんなんだからー!」


「関係ねぇよ!!」


「まあまあ。これからもよろしくな!」


「ああ」


 こうして俺たちは、三人とも同じクラスになった。


 正直、少し安心した。


 知っている奴が一人もいない環境よりは、ずっといい。


 俺たちは早めに教室へ移動し、指定された席へ座る。


「蒼空、一番後ろの席なのかよ! いいなぁぁぁ。俺なんて右列の前から二番目だぞ!」


「一番前じゃないだけマシだろ。それに陸の近くには朱莉もいるからよかったじゃねえか」


「確かに朱莉と席が近いのはよかったけどさぁ」


 陸が自分の席から朱莉のほうを見る。


「やっぱ後ろがいいじゃんんんんん。朱莉ぃ、席交換しませんかぁぁぁ」


「しないでーす。それに陸が後ろの席に行くとすぐ寝るでしょ!」


「そんなぁぁぁ。しょぼーん」


「口で効果音言うなよ」


「うるせぇ!」


 そんな他愛ない話をしながら、続々と入ってくるクラスメイト達を眺めていた。


 しばらくすると、教室に残っている生徒も数人ほどになる。


 その時だった。


 教室の入り口に、一人の女子生徒が現れた。


「…………」


 その瞬間。


 教室の空気が、ほんの少し変わった。


「……誰、あの人」


「すっげー……」


「モデルみたい」


 周囲から、そんな声が聞こえてくる。


 俺も思わず、その女子生徒へ視線を向けた。


 長い黒髪。


 整った顔立ち。


 すらりとした体型。


 そして、何より目を引くのが、その立ち姿だった。


 背筋が伸びていて、堂々としている。


 可愛いというより——


「……なんか、かっこいいな」


 思わず口から言葉が漏れた。


「俺、ああいう人には絶対近づけないわ」


「お前でもそういうこと言うんだな」


「いやマジで。なんかオーラが違う」


 女子生徒は周囲の視線など気にしていない様子で、教室の中へ入ってくる。


 そして——


 俺のいる列へ向かってきた。


「……まさか」


 嫌な予感がした。


 女子生徒は俺の席を通り過ぎる。


 ……と思ったら。


 その一つ隣。


 俺の隣の席で足を止めた。


「…………」


「…………」


 そして何事もなかったかのように椅子を引き、席へ座る。


「…………マジか」


 思わず呟く。


「蒼空」


 陸がこちらを見る。


「お前……」


「言うな」


「でもよ……」


「言うなって」


 なんとなく嫌な予感がする。


 案の定。


 周囲から視線が集まってくる。


 男子だけじゃない。


 女子からもちらちらとこちらを見られている。


「…………」


 俺は隣を見る。


 彼女は何事もなかったかのように、机の上を整理していた。


 その横顔は、やっぱりかっこいい。


 その後、担任の先生が入ってきてホームルームが始まった。


 自己紹介やら連絡事項やらを聞いているうちに、あっという間に時間が過ぎていく。


 そして、放課後。


「蒼空…………」


 陸が心配そうにこちらを見る。


「……何」


「生きてるか?」


「死にそう」


「初日だぞ!?」


「周囲の視線が痛すぎるんだよ……」


 俺が隣の席になった女子生徒。


 その正体は、月島咲月というらしい。


 入学式が終わってから知ったのだが、どうやらかなり有名な人だった。


 成績優秀。


 運動神経も抜群。


 そして、誰もが認める美人。


 ただ「可愛い」というより、「かっこいい」という言葉のほうが似合う。


 すでにクラスの中でも、


『月島さんってすごくない?』


『めちゃくちゃ綺麗だった』


『隣の男子、誰?』


 そんな話が飛び交っていた。


「蒼空、大丈夫だよ!」


 朱莉が励ましてくれる。


「みんな最初だけだって!」


「そうかなぁ……」


「そうそう! そのうち慣れるって!」


「……ならいいんだけど」


 俺はもう一度、隣の席を見る。


 そこには、誰もいない。


 いつの間にか咲月は帰ったらしい。


「……月島咲月、か」


 今日初めて知った名前。


 学校一の美人。


 運動も勉強もできて、誰が見てもかっこいい。


 そんな人と、まさか隣の席になるなんて。


「これからの高校生活……どうなるんだろうな」


「蒼空ー! 早く来ないと置いてくぞー!」


「今行く!」


 俺は慌てて二人の後を追う。 


 

 

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