岐阜の売春宿
「竹林って知ってる?」と、谷田が聞いた。
ここは、清水寺近くの喫茶である。
店員がコーヒーを運んでくる。
「嵐山じゃろうか?」
蛍が言うと、谷田はほくそ笑んだような顔をした。
「伏見じゃろ?」と、花は言った。
喫茶では、なぜか、花の隣には黒澤が座って、谷田の隣には、蛍が座っている。
「伏見稲荷では、よく人が死ぬってな」
谷田の言葉に、花は、初めて京都御所に来た日のことを思い出した。
「ちょっと、お手洗い」と、蛍が席を立った。
「河原町は、祇園に取られる」
黒澤が花の膝をさすった。
さっきから狐火を立てている黒澤であるが、花は、あえて谷田を紹介して来た黒澤の真意を思った。
「私が来たせいじゃろか?」
黒澤と谷田はそれには答えなかった。
(何だか試験のようじゃ)
花は、そう思ったが、「そろそろ店じまいだな」という黒澤の言葉に緊張した。
「パトロンは必要じゃけ」
蛍がトイレから出てきて強い調子で言った。
いざとなったら、針子で身を立てれると、蛍は思っていたが、それもこれも、パトロンあってのものだねだ。
「うちは、嫌じゃけ」
花は本気でそう言った。
「今夜が勝負じゃけん」
蛍が京都に来たのは、さもさも東京からだと言っていたのだが、実際は、みなしごで、岐阜の売春宿が嫌で逃げて来たのだった。
「処女というのは、本番を知らないという意味ではなくて、花のように毛嫌いする女のことじゃけ」
蛍は、谷田を見た時に、悟っていたのは、京都の未来がそう明るくないということである。
そうでなければ、おかみが二人を出さなかったであろう。
結局、二手に分かれた蛍と花だが、京都の芸者が「憧れ」ではなく、「罪人の証」としてあり、「姓を持たないのが女」ならば、どうしたらパトロンを得られるのか?それにかかっている。
黒澤の女になるかどうか?
ホテルに入っても、花は逡巡していた。




