夏涼の走りとアホの朝比奈
夏涼は走った。この作戦を果たすために、みんなの期待を裏切らないために。
(俺が、絶対にこの策を成功させる!!)
夏涼の額から汗がにじみ出る。勝家が言っていた言葉が浮かんだ。
(相手の前線、朝比奈秦朝を見事にだますのが今回の戦の鍵だ。しっかり頼むぞ)
夏涼は恐怖から震える手を握り締めた。
(そうだ、これがこの戦の勝敗を決める!!)
まだ怖い。悪夢が脳裏をよぎる。だがみんなへの心が、恐怖を凌駕した。
狙うは、朝比奈秦朝。
前線の秦朝はいつまでたっても襲ってこない信長軍に油断しきり、先ほど戦が始まる前に、農民からもらった酒を飲んでいた。
(はぁ~酒はうまいんだけど、なんか物足りないわね。あとここに美青年でもいればいいんだけど)
なんて思っていた矢先、一人の兵士が自分の馬下に飛び込んできた。
「はぁはぁ、でっ伝令です!! ……秦朝様」
「何事……!」
秦朝はその顔を見て頷いた。
(あらっ!! いい美青年じゃない)
秦朝はまたも頷いた。
(なんだこいつ、何度も頷きやがって。てかやっぱ遠いわここ。疲れた)
夏涼は途切れる息を整えながら頭をかしげ思った。この馬に乗っている女性、秦朝は何度も夏涼を見て頷く。何か嫌な予感がしたので、夏涼は早め早めに作戦を遂行させる事にした。
「伝令です。敵、信長軍は、一個小隊が動き出しました。そこには武将、羽柴秀吉がいる模様」
「ふんふん、それで?」
秦朝はこの伝令が敵だということに気付いていなかった。夏涼はつづけた。
「確認したところ、この戦に武将は秀吉しかいないようでした。なので」
「ふんふん、なので?」
秦朝は本当に気付いていない。そして夏涼は一番言いたかったことを伝える。
「敵本陣に武将は、信長しかいません!」
「おお!」
秦朝は感嘆の声を出した。夏涼は追撃をした。
「……手柄を立てるいい機会です」
「ふん、そうね。信長をヤッちゃえば、危険要素も消えるし、手柄も立てれて一石二鳥ってわけね」
夏涼はほっと一息ついた。ばれずに出来たことにひどく安心していた。
その夏涼の行動を見た秦朝は疑問に思った。
「あら、そんなにも安心するのかしら?」
「!」
(しまった、気を抜きすぎた!!)
「いっいえ、その新人なもので、つい緊張を。それに」
「それに?」
夏涼は不本意ながらも言うしかなかった。
「秦朝様に会うの初めてでしたから」
(くそぉ、自分でも何言ってんだ!)
夏涼は、ばれてしまったと思いこんだ。……信長の形相が目に浮かんだ。
「!……ふふ、いいわね、あなた」
「はい?」
夏涼は驚きの発言に情けない声を出してしまった。
「いいわ、ずっとここにおいてあげる、さぁ杓しなさい」
「え? あっはい……」
夏涼は一瞬戸惑ったが、これも策の為と思い酒びんをとり、杓した。
(んふふふ、これよこれ)
と秦朝は思い、
(なんで俺がこんなこと)
と夏涼は思った。
「さて、あなたの言う通り、ここが勝機ね。一気に攻め込みましょう。いくわよ!!」
『おおおおおおお!!』
なんだかんだで夏涼の作戦は成功し、朝比奈秦朝軍は、信長本陣に向かって突撃をした。
「前方に砂塵あり! 旗は赤鳥! 朝比奈軍です!」
一人の兵が信長の元に走り、事を伝えた。
信長はすこし考えたのち、ニヤリと微笑んだ。
「全軍! 欲望に目がくるんだ獣を軽くいなすわよ! 全員抜刀!」
信長の号令でこの場にいる兵士全員が刀を抜いた。
「全力で迎撃するわ! ……よし! かかれ!」
「おおおおおおぉぉぉぉ!」
突っ込んできた朝比奈軍と信長軍が戦闘を始めた。
上手い事に、信長はゆっくりと兵士を後退させ、利家たちが攻めやすいように間合いを確保した。
夏涼は秦朝の隣に攻める直後はいたものの、すぐに布製の家に入る。
「利家、今が攻め時だ。行くぞ!」
「言われなくとも分かっておるわ!」
利家は利家軍に合図を送った。合図を受け取った兵士たちは一斉に飛び出し、朝比奈軍の後方から噛みついた。
朝比奈軍は虚を突かれ、兵士の顔には混乱の色が見えた。
(ちょっとぉ、信長しかいないなんて嘘じゃなぁい)
秦朝も何が何だかわからない状況だった。
(どこ行ったのよぉ、あの美少年~)
馬を操作しながら辺りを見回すと、刀を使わず、格闘で自軍兵を倒している夏涼を見つけた。
(きぃぃぃぃぃぃ! 謀ったわねぇ! あの子許さないんだから!)
だが、前曲、後曲が崩れた今、どうすることもできなかった。
混乱の色は夏涼たちの予想よりはるかに大きく、秀吉軍を待つまでもなく、朝比奈軍は壊滅し秦朝は敗走した。
夏涼はガッツポーズをした。作戦通りにはいかなかったものの、自分の策が有効に動いたことは、とても感動した……が
「まだ勝っていないんだから、喜ぶのは早いわよ?」
「そうじゃ、勝った気でいると足元をすくわれるぞ」
信長、利家にダメ出しを貰い、少し気分が落ち込んだ。
しかしなにわともあれ、前線の朝比奈軍を敗走させたのは大きい。
信長は、すこし夏涼を認めていた。
……もう、なにも言いますまい
(↑土下座している俺)
インタビゥーのコーナー!!
「今日は我らが君主、星華こと信長さんでーす!」
「よろしく」
「いや~信長さん、最近夏涼にデレてきているというか、買ってますねぇ」
「デレ? なんだかよくわからないけど、夏涼の腕は買ってるわ」
「ほほう? それはどんなことで?」
「まず、あの中国拳法とか言うあれ。そしてなかなかキレる頭。さすが天地の使者といったところかしら」
「なるほど、……話は変わりますけど、信長さん、胸大きくしたいと思いません?」
「何をいきなり、そんな事私は考えないわ」
「そうですか~、確かになんか信長さんは貧乳だから信長さん! みたいなところありますもんね」
「なんか引っかかるいい方よね、まぁいいわ」
「おっと、もう時間だ! それではまた次のお話で~」
全然オチが見えなかったんで、無理やり終わらせましたww