第六章 天地の使者とその初陣
「か……かりょ……かりょう」
夏涼の耳に天から声が聞こえる。
(あぁ綺麗な声だなぁ、ずっと聞いていたいなぁ)
夏涼は、そんな幸せな気分に浸っていた。が
「夏涼! 起きなさい!!」
夏涼は勢いよく瞼を開く。あれは天の声ではなかった。
「わああ! 信長さんでしたか!」
夏涼はオーバーリアクションで飛び起きながら驚いてしまった。天の声は信長の声であった。
「どれだけ驚いてんのよ、まったく」
信長は腰に手をあてため息をついた。夏涼は頭をかきながら布団から出る。
「いや~まさか信長直々、おこしに来てくれるなんて思っても見なくて」
「いや、好きでおこしに来たわけじゃないわ。志南が厠に行っていて、夏涼が遅れたらいけないからと言ってきたから、仕方なく起こしに来たのよ」
(ツンデレ、ナイス!!)
夏涼は信長に向って親指を立てた。信長はそれを見て首をかしげた。
「なにやってんの」
「いや別に?」
夏涼は笑ってごまかす。
「それは感謝しなくてはな、ありがとう」
「まあ礼を言われるのは悪い気はしないわね」
信長はすこし恥ずかしそうに頭をかいた。そして二人でクスッと笑った。
「さあ桶狭間へと出陣するわよ!」
信長は右手を上げる。同調したいのは山々だが一つだけ夏涼はやらなくてはいけない事がある。
「あ~その信長さん?」
「なによ」
怒ったような顔した信長が振り向く。この場合夏涼としては振り向いてほしくなかったわけだが。
「あの~服を着替えたいんで、前を向くか、部屋から出ていただいてはくれないか?」
信長はポカーンと口をあけていたが、ようやく意味がわかったようで分かったようで部屋から出ようとした。障子に手をかけたときに後ろを振り向いて言った。
「なんなら手伝ってあげてもいいわよ?」
「バカ」
はっと口をふさぎ顔を横に振った。
(わぁぁ! あの信長に「バカ」って言っちゃったよ!)
夏涼は目を見開き冷や汗を垂らす。だが信長は夏涼の予想と変わって、ひっこり笑った。
「別にいいわよそんなこと。今のは私が怒られても無理はないし、普通の女の子として接して」
そう言って信長は部屋を出ていく。廊下で信長は「軍議の場所に集合だから」といった。夏涼はその声を聞き、うなずいた。そして一回伸びをした。
「さて、着替えますか」
夏涼は布団の下から制服を出し、着替えて、軍議の場へ向かった。
軍議の場にはもうあの時の四人がいた。四人とも前と同じ服を着ている。あれが戦闘服のようだ。
「夏涼、来たわね。では作戦の最終確認をするわ」
信長が仕切り、作戦の最終確認をする。全員、真剣なまなざしで地図を見つめ、確認する。
「そういえば、今頃で悪いんだけど」
夏涼が手を上げながら言う。みんなが一斉に夏涼を見た。
「これって少人数だよね。でも今川軍は結構人数は多いんだろ? 大丈夫なのか?」
「ああ」
勝家が前に出て、夏涼に説明する。
「人数が少ないほど今川軍は油断するからな、そこが狙い目だ。相手は貴族の生まれ、貴族に武は必要ないからな、この少人数でも行ける筈だ」
「……それならこっちの方がいいんじゃないかな?」
夏涼は勝家だけでなくみんなに提案しようと地図の前に出た。勝家は信長に視線を向けた。
「いいわよ、言ってみなさい」
夏涼は頷き提案をし始めた。
「まず、信長本陣の外に簡単な布製の家を作っておいて、本陣には秀吉軍と、利家軍の俺と利家を含まない半分の兵を置く。最初から全軍置くんじゃなくて、ほんとに少人数しか置かずに今川軍を徹底的に油断させる。俺と利家と残りの兵はその家に隠れておくんだ。勝家軍は敵に見つからないような場所に隠れる」
夏涼は地図を指しながら、全員に説明する。幸い誰も抗議をせず聞いてる。夏涼は続けた。
「そして秀吉軍は今川本陣の散策に行く。そして少し危険なんだけど、相手前線に嘘の伝令を流す。『敵本陣には信長しか武将はいない』と」
夏涼は「ここまでいい?」という視線を全員に送る。全員頷いたので、夏涼は続けた。
「相手は貴族だ。そこまでの智将はいない筈だから何も考えず突っ込んでくるはず。そこが狙い目。本陣に突っ込んできたら、利家、俺達の出番だ」
夏涼は利家を指差す。一瞬ピクッとなった利家だが、すぐ「うむ」と返した。
「俺達は後ろから、突っ込んで来た相手を叩き潰す。すると俺達を倒さまいと相手は結構の量の兵を突撃してくるはずだ。その間、俺達は無理をせず戦う。時間を稼ぐんだ、秀吉軍が帰って来るまでの間を。そして秀吉軍は帰ってき次第、後ろから相手を叩き倒す」
そして夏涼は勝家を指差した。
「そうすれば、相手の大量兵士突撃により、山道の兵が手薄になるはずだ。そこで勝家さんは相手に見つからないように行ってください。あとは作戦通りで、ただ利家は突っ込んで来た兵を倒し次第、砦を落とすという事なんだけど……どうかな?」
夏涼は説明し終わるとみんなを見る。微妙な空気が流れる。
(あれ? 失敗したか? 俺)
夏涼が戸惑っていると 勝家は少々間をとりこう言った。
「うむ、なかなかいいんじゃないか?」
次に利家が笑いながら
「私はこれでもいいと思うぞ」
秀吉は拍手をしながら
「すごいです、夏涼さん!!」
と夏涼をほめたたえた。信長は
「……確かにいいわね。いろいろ危険はあるけど、安全でもあるわね」
と考えた末に頷いた。
「いろいろ試したいしこの夏涼の作戦で行きたいと思うけど、どうかしら」
『異議ありません』
四人が揃って言う。夏涼は嬉しく微笑んだ。
そんな夏涼に勝家が迫り
「それで菅原、嘘の情報を流す役だが……」
話しかけてきた。
「菅原、お前が行けばどうだ?」
「はぃ?」
(意味が分からんぞ?)
つい声が裏返ってしまった。そこに
「嘉苑もそう思った?」
信長までもが同意する。
「おお、星華様もそう思いましたか」
(ちょっと、利家さん?)
「やっぱりそうですよね~」
(紫陽花ちゃんまで!)
「ということで」
全員が夏涼を見る。そして利家が、夏涼の聞きたくない事を言う。
「満場一致で、貴殿に決定じゃ」
「なんだってぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
夏涼はは驚いた。「ムンクの叫び」にも負けないぐらいだ。
「そんな危険な役を俺に!?」
「ああそうじゃ」
「天地の使者なのに!?」
「いつもは自信ないとか言ってるくせに、今は使うのね」
「俺、唯一の男なのに!?」
「いやいや菅原、将軍は女ばかりなんだから女が行ったら怪しまれるだろう? だからこそだ」
「この役、死んじゃうかもしんないのに!?」
「ていうかこれ提案したの、夏涼さんですよね」
全員から一斉に返される。夏涼にもう逃げ場はなかった。
「……よ~し、そこまで言うのならば、この菅原夏涼にドーンと任せておけ!」
「貴殿、声が震えておるぞ?」
利家は嫌みたっぷりに言った。夏涼は声震えていて涙目だった。だがやるしかなかった。そうと決まれば出陣だった。
「じゃあ行こう! 信長!」
「何で夏涼が仕切ってるのかは分からないけど……向かうわよ!!」
『おおっ!!』
夏涼達は一斉に軍議場を飛び出した。
初陣少始
然事気付
歴史変行
信長行動
更新が遅れました。大変申し訳ない。
気を取り直して
「第三回インタビュー」を始めます!!
「今日は、我らが老将、嘉苑こと柴田勝家~!」
「よろしく頼む」
「お? 意外と冷静ですね。さすが老将、落ち着きがあります」
「ああ、まぁ慣れだからな。しかし――」
「さぁそんな老将、勝家さんに質問です」
「うむ、何でも聞いていいぞ、だがその前に――」
「老将、勝家さんの胸は――」
「いや待ってくれ、まずその老将をやめてくれ、けっこう傷つく。あと胸ってどんだけ失礼なんだお前」
「いや~意外とこの質問が多かったんですよ」
「だれからの?」
「ん~? 読者の男性」
「……そうか」
「さて空気が落ち込んだこの時に聞くのもなんですが、実際どうなんですか」
「……ゃく……ンチ」
「はい?」
「105センチだ!!」
「まさかのJカップー!!」
「なんだ、何かおかしいか?」
「いや、予想通りといえばそうですが……」
「なんだ、はっきりしろ」
「……え~それでは時間も来たのでこれで終わりにします。また次の機会で~」
「あっこら、逃げるな!!」
完