第五章 清きそよ風と君主の言葉
「はっ!」
夏涼は何かに引っ張り出されるように起きた。手は汗ばんでおり、呼吸は荒い。
(あれは夢だ。ただの悪い夢なだけなんだ)
夏涼は自分に言い聞かせながら、部屋から出て、庭の芝生のある場所に立った。
夏涼は深く深く呼吸をした。
(考えても仕方ない、体動かそっ!)
夏涼は中国拳法の八極拳の構えをとる。
「八極拳 六大開 頂 攉打頂肘」
動きを唱えながら、素振りをする。
「弓歩沖拳」
昨日戦った男を想像しながら放つ。
「旋風攉拳」
拳を放つ。静かすぎる心地いい沈黙。心が洗われるようで心地が良かった。
「朝から練習とは感心ね」
沈黙を破ったのは、信長だった。薄いピンクのかかったパジャマのような服を着ていた。信長は着そうにない服だったが、なかなか似合っていた。
「そいつはどうも」
夏涼は皮肉っぽく言った。
「そこ、そういう所は感心しないわ、こっちは褒めてるんだから」
信長は夏涼に指を指す。
「ていうか、いいんですかこんな所にいて。一応あなたは君主なんでしょう」
(俺は一兵士だ。君主とは格が違いすぎる)
夏涼はそう考えた。だが信長はため息でそれを返す。
「君主だからこそ、味方との交流が大切なのよ。それにあなたは天地の使者でしょ、私と話しても何の問題もないわ。むしろ対等のはずよ」
「いや、そうだけどさぁ」
夏涼は頭をかいた。
信長は先ほどの表情とは打って変わって、頬を赤らめて言った。
「それとも、私と話すのがいや?」
「! いや、別にそんなんじゃないですけど」
夏涼はたじろぐ。信長のこんな表情は見たことがなかった。
「なら、いいじゃない」
またも表情が変わり、信長は夏涼に満面の笑みを見せる。
「で、なにようですか?」
「まあ別に用は無いんだけど、初陣を前に天地の使者はどうしているのかなと」
信長は空を見上げながら言う。
「まあ緊張はありますけど」
「そこ!」
急に指を指され、夏涼は不覚にも驚いてしまった。
「夏涼と私は対等なのだから、敬語は無しよ。……まあ身分はずいぶん差があるけど」
最後の言葉は嫌みたっぷりで言われた。
「わかりましたよ。これからは敬語を使います」
夏涼はため息をつく。すると信長が真剣なまなざしで夏涼を見てきた。
「夏涼―あなた悩み事があるわね」
「!」
夏涼は下を見たまま目を見張る。
「きっと、明日の初陣のことね」
夏涼は夢を思い出した。思い出しただけで足が震えてきた。
「……信長にはなんでもお見通しなんだな……」
震えた声で夏涼は返す。信長は「ふんっ」と鼻で笑う。
「当り前よ。私は君主よ? 兵士の悩みなんて話をしただけでわかるわ」
「……さすが君主ですね」
夏涼は肩をすくめる。信長はまっすぐな目で夏涼を見る。
「まあ、詳しいところまではわからないけど。う~んと、だいたい明日の戦への……恐怖でしょ」
「……」
(いきなり図星つくかなぁ)
夏涼はため息をつく。悟られないようにしていたつもりだったが、どうにも無理だったらしい。
信長は胸を張ってこう言った。
「私もそういうときはあったわ。不安になって戦えなくなった時もあったわ」
信長は思い出にふけるように話していた。
「でもね、そういうときはこの言葉を思い出したの。なんだか元気が出てくるのよね」
信長は苦笑した。夏涼はずっと信長を見ていた。
「えーそれでは、コホンッ」
信長はわざとらしく咳をして言った。
「悩みを忘れるな。恐怖を忘れるな。すべてを抱えて進め」
そのとき、夏涼の中で――何かが軽くなった。
「戦の中で、この言葉を忘れたときはなかったわ。……夏涼も、つらいだろうけどすべてを抱えて進むからこそ、成長するかもしれないわよ」
そう言って信長は、夏涼に背を向けた。
「さて夏涼の顔も見れたし、帰るわ」
「ああ、じゃあな」
信長は歩き出す。夏涼も自分の部屋へ歩き出そうとしたが、後ろを振り向き信長を呼んだ。
「あぁ、信長ー」
「なに?」
信長は振り向いた。その顔は――日を浴び美しく輝いていた。
「ありがとな」
夏涼は微笑んだ。そして信長の返答を待つ。
「……どういたしまして」
信長もゆっくりとほほ笑んだ。
信長は歩いて夏涼の視界から消えていった。
夏涼は一人、軽くなった心で確認するように言った。
「悩みを忘れるな。恐怖を忘れるな。すべてを抱えて進め、か」
足元では芝生が日光に当てられ、青々しく輝いていた。
昼、夏涼は廊下で利家と会い、何気ない会話をした。その中で夏涼は、疑問ができた。
「なぁ利家。利家が納めている土地はどうしてんだ?」
歴史上、利家は能登(今の石川県北部)を納めている。しかし夏涼の違世ではどうかわからなかったが、持っているだろうという前提で話した。
利家は「なんじゃ、そんなことか」と言い、夏涼に話し始めた。
「なんか『織田配下収集令』とかなんとかいう令が出てのぉ。それで私の納めている土地は違う私の配下に任せたんじゃ。だからここにおれるのじゃ。きっとほかの奴もこんな感じじゃと思うぞ」
利家は胸を張って威張る。夏涼は苦笑いだ。
それから当てもなく、目的もなく時がたつのも忘れ、利家と語り合っていた結果……
窓を見ると、夕日がきれいだった。
夏涼は自分の部屋に戻ると、布団に全体重をかけ倒れた。足がまだ痺れていた。
人体について一つわかったことがあった。
(立ちすぎてると、足って痺れるんだなぁ~)
そのまま夏涼は目をつぶり、今日の感想を述べた。
「あ~なんかもう今日は疲れた」
いろいろ得られた物はあった。だがそれに支払った代償が大きい。多大なる疲労感。足の強烈な痺れ。くだらない話(くだらないとは何だ!と聞こえてきそう)を延々と聞いた耳、脳。今夏涼は睡眠を何よりも欲していた。何よりもだ。
夏涼は自分の欲に身を任せそのまま、瞼を閉じた。
桶狭間の戦い前夜の話。
清風日浴
信長貰言
悩忘恐忘
全抱進行
またまた本文が短かったです。すみません。もっと精進したいと思います。
さて!「第二回インタビュー」を始めます!!
「今日は、我らがドジっ娘、紫陽花こと羽柴秀吉~!」
「ひゃわわ! どんな紹介ですかそれ」
「いや、作者的になかなか好きなキャラ設定だったので……」
「好きってドジがですか?」
「うん、だって……」
「ドジっ娘って見てると、萌えるじゃん!!」
「……」
「すみません、調子に乗りました。反省はしてません」
「葵せきな先生に謝ってください!!」
「お、知ってるね~結構マイナーだと思ったけど」
「……」
「……わからない人は「生徒会の一存」シリーズを見てね!!」
「なんの宣伝ですか!!」
「さて、意外にツッコミができる秀吉、という新しい人格がわかったところでここらでお別れで~す。さよなら~」
「ひゃわわっ何か不本意な終わり方をされました……」
ちなみに紫陽花の口癖、「ひゃわわ」は恋姫無双の朱里をパクリました。
ていうか紫陽花が朱里をほとんどぱくっています(髪以外)
すんませんwww