第四章 初めての軍議と老将の智
二人が城内に入ったすぐに秀吉が走って来た。
「夏涼さ~ん、利家さ~ん軍議が始まりますよ~」
「りょうか~い――って俺も!? 紫陽花ちゃん!」
「ちゃんってそんな……」
秀吉は顔を赤らめた。利家はその二人の様子を見てニヤニヤしていた。
秀吉は頭を振り、夏涼を見る。
「それよりもっ、えっと夏涼さんも来いって星華様がおっしゃってました」
秀吉も信長と戦名を預け合っている。君主と配下なので当然のことなのだが。
「そうか、もうそんな時間か、って秀吉殿、私の事は志南と呼べとあれほど――」
「そういう利家さんも私の事は紫陽花と呼んでください」
二人はにらみ合った。もう戦名を預けあうような仲なのだが、なぜか呼びづらく預けあっていなかった。
「まあまあ二人とも。早くしないといけないんじゃないの?」
「おおそうであったな。では行くぞ!夏涼!」
「あ、ああ」
夏涼はそのまま秀吉と利家の後をついて行った。
軍議は、信長の部屋の隣が会場となっていた。ゲームなどで見る奴そのままだ。暗い部屋の中で、夏涼を含め五人がいた。
「みんな揃ったわね。では軍議を始めます」
「ちょっと待った。何で俺も呼ばれたんですか?」
信長はあきれたように溜息をつく。
「あなたは天地の使者でしょう。じゃああなたがいないとおかしいじゃない」
「そうか、そうだな。ごめん」
信長が「天地の使者」という言葉を発したので、夏涼にみんなの視線が集まる。
(うわぁなんだこの空気……これはあれか!? 自己紹介を望んでいるのか!?)
夏涼はこの微妙な空気を打破するため、勇気を振り絞り口を開く。
「えーあーおっ俺の名前は菅原夏涼です。一応、天地の使者らしいです」
「一応とは何じゃ、胸を張れ胸を」
利家は夏涼にちゃちゃを入れる。それと同調するように周りは騒がしくなった。
「あなたが鳴さんの言っていた、天地の使者だったのですか!」
秀吉は目を輝かせている。
「うん、あくまでも一応だけどね」
夏涼は照れながら頭をかく。
「じゃあこちらかも紹介をするわ……ゴホンッ」
信長がわざとらしく咳をする。なんかその仕草が妙に可愛く、夏涼は笑ってしまった。
「なによ」
信長は夏涼を睨む。しかしあまりにも睨み方がマンガみたいだったのでまた笑いそうになるが、無理やり抑え込む。
「いやなんでも。続けて」
「……もう知ってるだろうけど、私が君主の織田信長よ。戦生の名は星華よ」
信長は「さっ続けて」と言って席に座る。次は秀吉がつなげる。
「わ、私は星華様の将、羽柴秀吉です。戦生の名は紫陽花です。ふつつか者ですがよろしくお願いします」
「いや、それ普通言わないから」
夏涼の突っ込みに「ひゃわ!」と言って秀吉は下を向いた。夏涼は微笑みながらその様子を見る。
「じゃあ次は私じゃな。私は前田利家。戦生の名は志南ってもう言ったしいいか。まあ貴殿の主となるのだから逆らうなよ」
利家は夏涼に顔を近づけドスを聞かせていった。夏涼は先ほどと打って変わって苦笑いをしながら利家から離れる。
「次は私か。私は柴田勝家。戦生の名は嘉苑だ。私は智将だから前線へは出ないだろうがよろしく頼む、菅原」
「! はい」
(この人が柴田勝家……なんか厳しそうだなぁ)
夏涼はそうは考えつつもある場所を見てしまっていた。それは、勝家の胸だった。勝家自体、美人であった。髪も長く、頭の下で髪を止め体の前にながしている。顔も整っており美人なのだが一番目を引くのが「胸」であった。とても大きい。バスケットボールより大きい。普通の男なら見てしまうほどだ。
(いやーいいね~やっぱ――)
「それでは本格的に始めるわ」
夏涼の顔がだらしなくなっているのを見て信長は話をそらした。
「明後日の戦、桶狭間での戦だけど……」
「!」
夏涼はピクっと反応した。
(まさか! 俺は桶狭間の戦いからなのか!?)
見た感じではわからないが、心のうちではとても動揺していた。日本語がおかしくなるぐらい。夏涼の生きる戦国時代のパラレルワールド、つまり……
(戦国時代との違世はここからなんだ)
「大丈夫?夏涼」
「大丈夫。続けて」
「そう」とだけ言って信長は続けた。
「いい策はあるかしら、嘉苑」
「はっ」
そう言って勝家はそばにあった巻物を広げた。巻物は地図だった。年代物のようで、所々に傷などが入っていたが、地形などは詳しく書かれてあった。
「多分このあたりに今川本陣があると思われます」
勝家は地図の右下のあたりを指す。
「しかし、詳しい場所が分かりません。そこで誰かに、詳しい今川本陣の場所を探してもらいます」
「あ、じゃあ私やります」
秀吉が手を上げる。
「えっ大丈夫?紫陽花ちゃん」
「大丈夫ですよ~。任せてください」
「……じゃあ、場所散策は秀吉軍で」
「はい、わかりました」
「あら、もう戦名を預け合っているの? 早いわね」
信長は夏涼に意味ありげな口調で聞いた。夏涼は苦笑いだけを見せ、反論ができない。夏涼の頭には「打ち首」だけがエンドレスリピート状態だった。
「いいんですよ星華様。私から預けたんです」
秀吉が夏涼と信長の間に入る。
「そうなの? ならいいわ」
信長は夏涼達から視線を外し勝家へと向けた。勝家は何事もなかったかのように話を続ける。
「……そして本陣が分かったら、ここに砦があるのでここを落としてもらいます。そうすることで今川軍の注意をひきます」
「じゃあその役、私がやるぞ」
利家が小さく手を上げ言う。
(おおう、利家の奴、なんの相談もなく決めやがった。……まぁ勝家さんの事だから俺にも何か聞くだろうなぁ)
「よし、では任せた」
「決まっちゃった!! 俺がいる意味ほとんどねえ!!」
「落ち着きなさい夏涼。あなたは雰囲気になれるの」
信長は夏涼に注意した。夏涼はしょぼくれて黙った。
「そして落とした直後に今川軍に奇襲をこの山道からかけます。……この役は私がします」
勝家さんも小さく手を上げる。
「しかし倒しはしません。最後を飾るのは星華様ですし、伏兵などがいた場合、奇襲する事で罠などを無駄に使わせます」
そう言って勝家は奇襲ルートをなぞった。当然のことながら勝家と信長も戦名を預けあっていた。
「そして奇襲する事により、今川軍の注意がまた本陣に向きます。そのすきを突き、利家軍は敵軍砦の相手を叩いてください」
「うむ」
「了解です」
利家と夏涼は返事をする。
「最後に星華様が今川本陣を攻め、叩き潰す、という風に行きたいと思います」
勝家は巻物をさっきの場所へと戻した。
最後に信長は審議を問った。
「私は今の作戦でいいと思うわ。何かある人はいない?」
『大丈夫です』
声がそろう。
「では、この作戦で行くから、配下に伝えておいてね。それでは解散」
信長の号令でおのおの解散した。
夏涼も自分の部屋と説明された場所へ向かった。
最後に残った信長はふと呟きを洩らす。
(ふふ、夏涼の天地の使者としての初陣ね。楽しみだわ)
信長は一人微笑んでいた。
うろたえる民衆。逃げまどう足軽。燃え行く家、旗、城。果敢に攻めるも倒される武将。
これは夢、そんな事は分かっている。しかし夢にしては、妙にリアルであった。
これが戦。人々が殺し合い勝敗を決するもの。そして
これが俺の道。これから俺は、何人の人を犠牲にし、不幸にさせ乱世を進んでいくのだろうか。
そんな疑問が夏涼の頭に浮かんだ。
初行軍議
初会勝家
夏涼初陣
悪夢現実
小説の量、少なかったです。すんません。時間がなかったんです。
新コーナー! 「キャラクターインタビュー!!」というのをこれからやりたいと思います。
では、最初を飾るのは、「前田利家」!!
「いやぁ、何か恥ずかしいな」
「軽い感じの質問しかしないんで、楽にしてください」
「ん、そうか? じゃあ楽に――」
「利家さんって実際のところ何歳なんですか?」
「いきなり聞くかそれ!? 全然軽くないぞ!」
「まぁまぁいいじゃないですか。でどうなんですか?」
「なんか流された感じじゃのぉ。実際、私は夏涼殿と同い年くらいじゃぞ」
「……なんじゃその目は、疑っておるのか?」
「いや、疑ってないですけど?」
「なんじゃその態度は!! 貴様さっきから――」
「では、このへんで。また次回~」
「な、な、なんじゃったんじゃーー!!」
完