若旦那
「そういえば、今年の花祭りは行くの?」
仕事中、荷物の仕分けをしていると、オーラさんが聞いてきた。ベテラン従業員で、いつも皆をひっそりサポートしてくれる頼れる女性だ。
「そこのF商店のスザンナと行こうって約束してます。」
「あら、いいね。あの美人の店員さんでしょ。2人で行くのかい?可愛い子が2人で行くなんて、ボディーガードがいるね」
「大丈夫ですよ。絡まれたらこうして股間蹴って逃げるんで」
俺は仮想的に向かい、股間を蹴る真似をする。ふと視線を感じて振り向くと、そこには若旦那がいた。
「花祭りの話?」
怒られると思ったが、意外と機嫌が良さそうに聞いてきた。
「はい。すみません、すぐ片付けて終わらせます!」
荷物を再び仕分けようとすると若旦那が話かけてくる。
「僕も行きたいんだよね。花祭り。行ったことなくって。行くなら混ぜてくれないかい?」
はあ?まさかスザンナが行くと聞いて、行きたいと言ってる?若旦那までスザンナ狙いとは思わなかった。
「あら、若旦那が一緒なんて、いいじゃない。色々買ってもらうチャンスよ。」
オーラが笑いながら軽口を叩いてくる。
俺はイライラを隠しながら若旦那に言う。
「女の子同士で行くのが楽しいんです!若旦那さんも誰か友達とか、他の女の子とか誘ったらいいのに」
「友達らしい友達もいないし、恋人もいないんだ。」
え?と思った瞬間、遠くから誰かに呼ばれて若旦那は「じゃあ、ここの仕分け頼んだよ」と言い残して、奥の部屋へ、向かって行った。
「オーラさん、若旦那って友達いないんですね。」
「そりゃ、旦那さんが跡継ぎとして鍛えてたから、小さい頃から働きっぱなしよ。休みの日も計算塾に行ったりしてたし、学校から帰っても、すぐ店の手伝いしてたからね。」
え?何だその設定。
「でも跡継ぎだし、顔も男前だから、彼女くらいはいるでしょ。モテそうな見た目ですよ。」
「浮いた話は聞かないねえ。休みの日に出掛けるといえば、商会同士の集まりに行くぐらいしか聞かないし。アンリちゃん、狙ってみたらどうだい?結婚するならいい相手と思うよ。」
「言わないだけで、いると思いますよ。恋人なんて」
勝手に勧めてくるんじゃねえと思う気持ちを隠し、苦笑いで答えた。
まさか若旦那、俺の逆バージョンで中身が女性なんだろうか?
だから俺たちと、女の子同士として祭りに行きたかったんだろうか?
あの見た目で浮いた話もないなんて、確かに若旦那は真面目だけど、もしかしたら男の方が好きなんだろうか?
この世界ってBLに優しい世界だったかどうだったかなと考えていると、店先で俺も別の従業員に呼ばれる。
「オーラさん、一瞬この場所離れていいですか?向こうの手伝いしてからまた戻ってきます。」
「ああいいよ」
アンリが走って行く姿を見ながら、オーラはあきれたように呟く。
「全く…。若旦那があんたを好きなんて皆が知ってんのに。知らないのは本人だけなんてね」