花祭り
あれから、私はロクさんと婚約した。数ヶ月後のダニエルの卒業を待って隣国に行き、ロクさんと結婚する予定だ。
旦那様からは、結婚祝いとして、退職日まで有給扱いにするから、明日から店には来なくていいと言われた。若旦那さんや皆には改めて旦那さまから伝えるから、今日は何も言わないで普通に働いて欲しいと頭を下げられた。
その日の仕事終わりに、オリバーが慌てた顔をして店まで来て、結婚すると聞いたから詳しく教えて欲しいと言ってきた。オリバーを見た若旦那が、挨拶しようと近づいて来ていたので、オリバーの発言を聞かれたかもしれない。
私はオリバーを近くの公園に誘い、ベンチに並んで座って話をする。
オリバーはずっとうつむいていた。オリバーの指輪のおかげだと伝えたら、さらにうつむいた。オリバーに、卒業したらどうするのか聞くと、家の手伝いをする方向だったけど、色々考えたい気持ちですと言っていた。
※※
今日は花祭りの日。私は待ち合わせしてスザンナと2人で来ていた。広場の隅に布を敷き、屋台で買った食べ物を食べる。舞台では、演奏家達が演奏を披露している。
スザンナは私の結婚の話を聞いて、驚いていたけど、とても喜んでくれた。
「アパートは引き払うの?」
「ダニエルが恋人と住むっていうから、私だけ出ていく感じね」
私は食べながら答える。ふと、スザンナが何かを見て呟く。
「あら?H商会のご主人だわ。息子さん連れてるの珍しいわね」
H商会?オリバーの家だ。スザンナの言う方を見ると、オリバーのお父さんが、地域の顔役のような人達や、出店の店主達に挨拶して回っている。スザンナは一緒について歩く少し小太りな男を息子と言うが、オリバーの兄なんだろうか?歳はオリバーから聞いていたくらいの年齢に見える。一生懸命愛想笑いしようとしていて、人は良さそうだが、オリバーみたいな要領の良さは感じない。
「息子ってお兄さんの方?私初めて見たわ」
「そうなのね。私の方は、店と取引あるから、見たことあるの。でも数回よ。あまり店に出て来ないし。離婚してから引きこもりがちだって聞いてたから」
「お兄さん結婚してたの?」
「ええ。でも短かったわよ。一年もしてなかったかも。せっかく苦労して結婚できたのにって皆言ってたわ。あそこの息子さん、なかなかお嫁さんが見つからなくてね、店員の私まで見合い話が来たくらいよ」
「え?スザンナ、見合いしたの!?」
「私はその時、恋人がいたから断れたけど、いない子が顔を立てて欲しいって頼み込まれて仕方なくしてたわよ。息子さん、大人しくて何も喋らない人だったし、奥様からは値踏みされてる感じで見られて嫌だったって、その子は言ってたわ」
あのお母さんならしそうだと思ってしまった。
「結婚後も、奥様の方がお嫁さんにかなり口出しをして、お嫁さんもすぐに家を出ていったけど、別れてからも、変な嫁だったから出ていって良かったとかあちこちで長いこと言って回ってたわよ。やっと来てくれたお嫁さんにひどいでしょ。ロクさんのお母さんは大丈夫?」
「この前の休みに会わせてくれたけど、嫌な感じはなかったわ」
「そうなの、良かったわ」
ロクさんのお母さんは、落ちついた感じの人で、娘が欲しかったから嬉しいと言ってくれた。
「ねえアンリ、占いの店も出てるみたいだから、食べたら行ってみない?」
「面白そうね。いいわ」




