その後のスザンナ
「こちらをお渡しするよう預かっております」
俺は、ロクさんの宿泊先に来ると、受付にロクさんの服とお詫びがてらの茶菓子、そして謝罪の手紙を手渡した。受付からは、俺が来たら渡すようロクさんから預かっていたという洗濯されたダニエルの服を渡され、それを受けとる。
宿泊先を出ようとした瞬間、ドアから男が入って来て、よく見るとロクさんだった。
「アンリ?」
「ロクさん、お久しぶりです。この間はごめんなさい。今日はあの時の服を届けに来たの。弟の服も今受けとりました。」
「そうなんだ。君に会いたくて、手紙を書こうか、家に行こうか迷っていたから会えて嬉しいよ。良かったら、これからどこか食べにいかないか?」
「ごめんなさい。弟が夕飯の準備してくれてるし、友人の家にも顔を出して帰ろうと思うから」
「…友人って女の子?」
ロクさんの声のトーンが低くなる。
「ええ、この前ロクさん達と食事した時にいた子よ。あれから会ってないから顔だけ見たいと思って」
そう答えると、ロクさんは突然遠くを見つめ始め、行かない方がいいと言う。
「え?何で?」
「…アンリ、家まで送ろう。歩きながら色々話そう」
そう言うので、とりあえず外へ出て、ロクさんと歩きだした。
※※※
「え?あの日からスザンナはずっと家に帰ってないの?」
「荷物を取りに帰るくらいはしてるだろうが、ランスが2人用の部屋を取って、そこに彼女と泊まっている。ランスがそう言っていた。だから君が行ったところで、彼女はいないと思う。毎朝、宿から彼女と出勤しているのを見るからな。明日が休みだから今日は彼女と一緒に遅い時間まで飲んで帰るとも昼間話していた」
あの王子、何という手の早さだ…。俺は驚いて何も言えなかった。
「アンリ、明日は休日だろ?湖を一緒に見に行かないか?ここからなら馬車でも行けるくらいの距離だろ?俺と2人きりが嫌なら弟も誘っていいから。国に戻るまでの間に、少しでも君との思い出が欲しいんだ…」
湖か、子ども時代によく家族で行ったなあ。あの頃は父さん、母さんがまだ生きてたんだよな。父さんがよく見ていないから、ダニエルが湖に落ちそうになって、父さんが母さんにすごく叱られてた事があったっけ。でも本当、家族で弁当持ってよく行ったな。よく考えるとこっちの世界の娯楽は健全だよな。父さん、母さんが死んでからは思い出すと悲しくなるから、アンリは行かないようにしてたんだっけ。今も悲しいんだろうか?俺の記憶もあるからどうなんだろう。
「いいわよ」
「え?」
「私も久しぶりに行きたいなって思ってたの」
「いいのか?アンリ、ありがとう」
そう言ってロクさんは俺に向かって嬉しそうに笑う。その笑顔を見て、今まで意識していなかったロクさんに急に胸がキュンときてしまった。その笑顔をずっと俺だけに向けて欲しい。俺はそう思ってしまったのだった。




