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先輩 その3

「アンリ、大丈夫かい?ぼうっとして」

「あ?はい?すみません」


気がつくと、オーラさんが真横に来ていた。


「最近、何だか若旦那の機嫌がいいんだよ。さっきもすれ違う時笑っててさ。どうしたんだろうね」

「え?笑いながら歩いてたんですか?あの真面目な若旦那が?笑いながら!?」

「そうなんだよ。最近ずっと機嫌良さげだよ」

「…まあ、怒りながらよりはいいんじゃないんですか?…花祭りも近いから浮かれてるんですよ。きっと」

「一緒に行く人もいないのにかい?」

「一人でも楽しいもんですよ」

「そういうもんかい?それより、これ品だし頼まれてて、一緒にしてくれないかい?」

「はい、わかりました」


先輩元気かな。俺は作業をしながら先輩を思い出す。若旦那と結婚したら、どんな感じなんだろう。先輩みたいに家庭的なのかな?先輩みたいなら、若旦那と結婚もいいのかもしれないなと求婚を断ったくせに思ってしまった。


※※


「先輩、電気消しますよ」

「ああ」


俺は、部屋の電気を消した。ベッドで寝る俺の横で、先輩は寝袋を敷いて寝る。

真っ暗な中で、俺と先輩はいつも色々な話をする。仕事の事や、最近見たYouTube、子ども時代の思い出。いつの間にか、俺は先輩に心許していたし、親からもらえなかった安心感を先輩を使って満たしている感じだった。


「来年度は、こっちに転勤できそうなんだ」

「え?転勤なんて希望出してたんですか?何で?本社出ていいんです?」

「外に出るのも勉強になるからな」


先輩は卒業後、先輩の叔父が経営する会社で働いている。子どものいない叔父の跡継ぎ候補としての入社らしい。俺も就活中、何度も先輩に一緒に働こう、叔父には口添えすると誘われたけど、そこまで面倒を見てもらうのも悪い気がして断った。


「こっちに来たら、らぶの家に住んでいいか?」

「2人は狭過ぎますよ」

「じゃあ、広めの部屋借りて一緒に住もう」

「何で2人で住む前提なんですか、それに、俺と2人なら彼女も作れないでしょ」

「らぶと一緒にいる方が楽しいから、彼女はいいかなって最近は思ってる」

「先輩、まだ若いのに枯れてきてますよ。仕事疲れてるんじゃないんですか?」

「うーん、そうなのかな」


先輩の彼女事情を俺はよく知らない。でもしょっちゅう俺と遊んでいるから、実は長いこといないのではと思っている。それは俺も同じだが。


「なあ、らぶ。もし俺が女だったら、らぶは俺と付き合ってた?」

「先輩が女か~。キリッとした男前の女でしょ」

「いや、顔は変わるかもしれないし」

「女になった先輩が俺を選ぶとも限らないけど、付き合ってるかもですね。先輩はどうなんですか?」

「…俺も同じだよ。らぶが女なら結婚してた…」


それから長い間の沈黙があり、もう話は終わったのかなと思っていたら、先輩が口を開いた。


「今はさ、男同士でもパートナーとして認められてきだしたし、俺たち結婚してもいいんじゃないか?」


え?冗談なのかな、それか本当に先輩は疲れてるんじゃないんだろうか。どう答えたらいいんだろう。俺は何も答えられなかった。


「らぶ?何か答えて」


俺は答えない。


「らぶ?寝たの?」


先輩が起き上がる気配がする。俺は答えず、寝た振り作戦をした。


「らぶ、ひどいな。人のプロポーズを無視するなんて。悪い子にはこうだ」


俺の唇に何か柔らかい物体がくっつく。驚いて目を開けると先輩の顔があり、目が合う。


「はは、やっぱり起きてたな。どうだ、嫌じゃなかったろ。俺となら大丈夫なんだよ。もっと先も試すか?」

「先輩、もう寝ましょ!」


俺は布団を頭まで被り壁の方を向いた。


※※※


作業しながら先輩との事をどんどん思い出す。あの時の求婚は先輩が疲れ過ぎての冗談と思ってたけど、もしかして半分は本気だったんだろうか。確か、あれから俺は事故にあったから、先輩どうなったのか知らないんだよな。俺の知らない女の子と結婚とかしたかもな。そう思うと少し寂しい気持ちになった。





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