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おまじない

「入口付近にいた青いシャツの男の人は同僚の方ですか?」

「青いシャツ?ああ、あの人は店の若旦那さん。どうかした?」

「いえ、別に。それよりアンリさん、この前は母がすみません。悪気はないんですが、色々喋り過ぎな母で。びっくりしませんでしたか?」

「大丈夫よ。過干渉には見えたけど、話してみたら責任感が強すぎて色々してるんだなって分かるし」


あの程度の喋り過ぎなんて大丈夫。全国放送で色々喋られた俺をなめるなよと言いたかったが我慢した。


「なら良かったです。母親の事を気にしてアンリさんに距離を取られたらどうしようと思ってたんで」


オリバーが、嬉しそうに笑う。笑った顔も可愛い。オリバーって、存在自体が可愛いよな。小動物というには大きいからワンコか?オリバーを見てると会社の後輩を思い出すんだよな。あいつどんな奴だったっけ?上司にも意見言うけど、愛嬌あるから生意気にもならないように立ち回って…結構したたかな奴だったけど腹黒さがないから俺は好きだったな。


「そんな事気にしてわざわざ店まで来てくれたの?気にしてないから大丈夫よ。出してくれた食事も美味しかったし、持たせてくれたお土産も本当にありがとう。これからもダニエルと仲良くしてくれたら嬉しいわ」

「ええ、ずっと付き合っていくだろうと思ってますんで。それより、一緒に歩いて帰っていいですか?アンリさんと話するの好きなんで」

「いいけど、時間とか大丈夫?」

「はい、大丈夫です」


そうして、俺はオリバーと話をしながら歩く。オリバーは外国語が得意で家庭教師をつけてもらって頑張っているらしく、どこそこの国の海がきれいだから、俺にも見せたいや、どこそこの国の食べ物が美味しいから、俺にも食べさせたいなど言ってくれたりした。


「そういえば、オリバーってお兄さんか弟がいるってダニエルに聞いた気がするんだけど」

「…あ…はい」

「お兄さん?弟?」

「あ…に…兄です」

「歳は離れてるの?」

「ええ、まあ…7つ上です」

「お兄さん、独立してるの?この前、ご自宅にいなかったみたいだし。」

「ええ、まあ…」


それまで饒舌だったオリバーの口が急に重くなる。お兄さんの話はタブーだったのかな?仕方ない話題を変えよう。


「そういえば、ダニエルが昨日、G先生の新刊買ってきてたわ。学校で流行ってるって聞いたけど、オリバーも読むの?」

「ああ、あの本ならうちに出入りする行商が持ってきてくれたのでありますよ。ダニエルも早く言ってくれたら、貸したのに」

「いいのよ。ミカちゃんに見せるとか言ってたから、今日もたぶんミカちゃんに見せに行ってるわ。ミカちゃんとの話題になるからいいのよ」


この世界、テレビもスマホもないのと、識字率も高いので、娯楽といえば本だ。ダニエルの場合、たまに本と一緒にイヤらしい絵が載った本も混ぜて買っているのを俺は知っている。


やがてアパートの前に着いたので、オリバーに礼を言って別れようとしたが、オリバーはまた明日も店に行ってもいいか聞いてくる。


「いいけど、どうしたの?」

「アンリさんと話すのが好きなんです。迷惑ですか?」


オリバーが俺を見つめながら聞いてくる。何か可愛いんだよな。オリバーって。弟みたいな感じなのかな、何だろうな。そんな目で見つめられると罪悪感で断れない。


「迷惑じゃないけど、お母さんを心配させないようにだけしてほしいの」

「アンリさんと一緒なら、むしろ安心します。あ、あとこれどうぞ」


オリバーが、カバンをごそごそして小さな箱を出して手渡してきた。

「開けていいの?」

「はい、もちろんです」


箱の中には石のついていない小さな指輪が入っていた。


「この指輪は、行商人が持ってきたやつで、面白いから僕が買いとったんです。縁日とかで売るようなやつなんで、安いから気にしないでください。ほら、こうして小指にはめて」


オリバーはそう言うと、俺の小指に指輪をはめてきた。


「東国の言い伝えで、小指には見えない赤い糸が出ていて、運命の相手と繋がっているというのがあるらしんです。東国では運命の相手と繋がれるおまじないで小指にはめているらしいですよ。これはアンリさんの恋のおまじないなんで、はずさずに大事にしてもらえると嬉しいです。」


オリバーのやや必死なお願いに驚きつつも、あの目で見つめられると、いらないとは言えなかった。


「ほら、僕もしてるんですよ。お揃いです」


そう言って、オリバーは自分の小指を見せる。オリバーっておまじないとか信じるタイプなんだな。

よくわからなかったが、オリバーにお礼を言って別れた。


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