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俺の人生

「アンリ~、ロクさんの洗濯物どうする?うちで洗うんじゃ失礼だから、角の洗濯屋に出したほうがいいよな」

「そうね、あとで持っていくわ」


あれから小川にはまったロクさんを引き上げて、ロクさんの宿泊先を聞いたが、俺の家の方が近かったので、自宅に連れて帰った。ダニエルの服や、ダニエル用に買いだめしていた肌着があったので、とりあえずシャワーをして着替えてもらった。ロクさんに貸したダニエルの服はパツパツで、くるぶしも見える奇妙な着こなしになったが、ロクさんは気にしないでと言ってくれた。

ダニエルは、新しい客に興味津々で、ロクさんに歳やら家族やらいつまでこの国にいるのかなど質問責めにしていて、自分も隣国へ行く時はよろしく頼むと世話の約束まで取り付けていた。


「俺行くよ。本屋行こうと思ってたから、あの店の前通るしね。」

「そう?じゃあお願いね」


ダニエルには、ロクさんとの出会いは詳しく言わず、小川に落ちたのを見つけて助けたとだけ言っている。何か昨日から色んな事があって疲れた。少し休むか。そう思い、ベッドに横になる。


※※※※※


「あんまり似てねえな」「進級ヤバいって本当か?」「お前反抗期らしいな。テレビでお前の母ちゃん言ってたぞ」


誰かが口々に俺に言っている。ああそうか。またあいつが何か言ったんだな。あのババア、俺の事喋るなって言ってんのに、また言ってんのか。


俺の母親はタレントだ。昔はアイドル歌手をしていたけど、喋りか立つからか、歳をとったからか、結婚を機にバラエティー路線に行き、家族の事をネタにして仕事している。

アイドル時代も下積みで苦労しただ、結婚して夫の親と同居したから苦労しただ、子どもの出来が悪く苦労しただ、本心かどうかまでわからないが、そんな事ばかり言って世間から支持されている母親に俺はいつもイライラしていた。アイドルだって自分でオーディション受けて行ってんじゃん、同居だって金がなかったのと、父の実家がそこそこの金持ちだったから、自分で選んでしたんじゃん、俺だって普通の生活がしたかった。それを自分ばかり苦労したみたいに言って。あんただって皆に支えられて仕事してんだろ、もっと周りに気付けよ。


お受験も落ち、近所の公立に通っていた俺。何かあったらテレビで喋られるかなのか、先生達は俺を遠巻きにしていたな。そのうち、また中学受験させられ、ぐれるほどエネルギーもない俺は力尽き、学校も行ったり行かなかったり。母親は大騒ぎしていたが、俺の耳には何も届かない。

母親と離れた方がいいとなり、療のある学校に入り直したんだったけな。それから自分の実力で入れる全国的な知名度もない大学に入り、卒業してからは小売りの全国チェーン店に就職したんだった。


※※※※※※


目が覚めると、窓の外から見える空は赤く染まっていた。

「今何時だろ」

枕元の時計を見る。一時間ほど寝ていたらしい。俺は天井を見つめながら考える。

俺って自分の人生を生きてなかったよな。母親との葛藤に時間を取られて楽しむとかして来なかった。今だって、俺の人生のようで俺の人生じゃないしな…。俺が一番したかった事ってなんだったんだろう…


「恋したかった」


俺の口からこぼれる。口にすると心がホッとする。自分の感情に蓋をしていたんだ。


「愛されてもみたかった。」


そうだ。誰かに必要とされたかった。出来がよくもないし、何者でもない俺でもいいよと言われたかった。じゃあ俺は?自分の事もどうでもいいと思ってた?思ってないから大学も通ったし、就職もした。自分の事は見捨てなかった。でもいつも我慢して無理してたんだ。それがしんどかった。


それと…

「スザンナに恋して、ロクさんに好かれて、願いが叶ってる…」


願いが叶うといっても、自分が思ってもみない叶いかたをするんだなとため息をつきながら思った。

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