ロクさんが固まり、俺も固まる
俺はロクさんの手を引いて歩く。ロクさんの手は大きくてあたたかい。俺もこんな手をしてたんだよな~と、在りし日の自分の手を思い出そうとするも思い出せない。そういやあ俺ってどんな顔してたっけ?何だか記憶も薄れていくなあと思っていると、町外れにある小川についた。
「ロクさん、この小川きれいでしょ。」
「ああ」
「ロクさん、私の事、思い切り抱きしめてみて」
「ええ?!」
ロクさんの顔が固まっている。自称高級役人なのに、わけのわからん女がわけのわからん事言ってるくらいで固まって大丈夫なのか?
「ほら、こんな風に」
仕方がないので、こちらから抱きついた。ロクさんの体かたいな。意外と鍛えてる?
「アンリ…イッタイナニヲ…」
訛ってんじゃん。しっかりしろ、高級役人!
「ロクさんに抱きしめられたらどんな感じなのかなって知りたかったから。私、男性と付き合った事ないから、きちんと付き合えるか確かめたかったの」
「イヤ、デモ、キュウスギテ」
急に求婚してきたのはそっちじゃん。まあでも急だよな。
「そうよね。驚かせてごめんなさい」
そう言って、ロクさんから離れようとしたが、今度はロクさんが離してくれなかった。
俺を力一杯抱きしめるロクさんの体はあたたかい。ロクさんに抱きしめられて全く不快ではなかった。人の温もりは嬉しいし好きだ。トキメクかと言われたら分からないけど、この先ずっと一人でこの世界を生きていく自信はない。それならロクさんはいいのではないか?でも、ロクさんで手を打つみたいな感じになるし、失礼だよな。それに、今以上の関係に進む事になった場合どうする?結婚まで考えると、そうなるよな。やっぱり…
「やっぱり…私…」
ロクさんを見上げて、言いかけた瞬間にロクさんの顔が近づいてきて、ロクさんの唇と俺の唇がくっついた。急だったので、何が起きたか分からなくなり、俺は長い時間固まっていた。じっとされるがまま唇を重ねていたから受け入れたと思ったロクさんが今度は舌を入れてきて、そこでようやくキスされていると気づいた。誰も来ない場所に男を連れて来て、抱きあったりしたら、こうなるのは当たり前だ。俺は何をしてるんだ。急に冷静になり、自分の仕出かした事に気付く。失恋のショックで俺はおかしくなってたんだ。頭を冷やさなきゃ、落ち着け、落ち着け俺!とりあえず離れなきゃ。そう思い、後退りしていると…
「危ない!」
小川に落ちかけた俺を庇って、ロクさんがバランスを崩して小川に落ちた。




