二人の世界
「へえ、君A先生の全集持ってるんだ。」
「ええ、読み返すたびに新しい発見もあって面白いんですよ。」
スザンナと王子が本の話で盛り上がり出した。これまでも邪魔はしようと何度か話に割り込んだが、すぐに二人で盛り上がってしまい失敗し続けている。早くご飯来ねえかな。混んでるから、水がやっとさっき来たばかりだ。
「A先生の本、私も読んでますよ!どうでもいいことを、すごく美しい文で書いていて、天才ですよね。」
スザンナのためだ。俺は面倒臭いながらも、王子の方に顔を向けて話に入る。A先生なんて興味ないが、スザンナが好きだと言うし、スザンナと物の貸し借りが出来るから、スザンナから借りて頑張って読んでいる。
「あんな美しい文章で手紙とか貰うと女性なんか特に嬉しいだろうね。…恋文とか。」
王子がスザンナを見つめながら言う。オイ、俺が話掛けたんだから、俺の方を向けよ。
「恋文なら、どんな文章だって嬉しいわ。」
スザンナがうっとりした目を王子に向けながら言う。ヤバいなあ、完全に二人の世界じゃん。
「いやいや。恋文なんか代筆もきくし、直接言葉で伝えてもらった方がいいわよ。それより、ロクさんでしたっけ?まだご飯来ないからお腹空きましたね。私、飴持ってるんで食べます?」
俺は、王子の連れの地味な男に話かける。この男はずっと黙ったままで、存在を消しているのだ。お前も何か喋れ。喋って王子の邪魔をしろ。
「遠慮しなくていいんですよ。来る前にスザンナにもあげたし、変な物入ってませんから。ほら、どうぞ。」
「…いや、結構だ。気遣い感謝する。」
なんだこいつ?えらい堅苦しいな?王子とはキャラが違い過ぎるし、単なる同僚で、俺たちが来ないと二人で食事もきつかったパターンだな。俺たちに感謝しろよ。
俺は、渡しかけた飴を仕舞おうとしてやめて、自分の口に放り込む。飴でも食べなきゃ、やってられねえよ。




