第九話:乱入者
「な、なんでしょう?」
「オークの文化には中間がありません」
「といいますと?」
「生きるか死ぬか、勝つか負けるか。そういう戦に特化した価値観をもっているため、すべての物事が100か0かで判断されます。つまり」
「つまり?」
「オークの国では、婚約という概念がありません。妻か、他人か。婚約という中間の関係がありません。王立国が筆頭の人間族に、魔族側であったオーク国は敗北しました。表向きには和平でしたが、勝ち以外は敗北とオークは考えています。価値観は簡単には変わりません。表向きは婚約という形を受け入れていますが、貴方はこのオーク国では、まだ僕とは他人なんです。だから、オーク国にいる今、貴方は大変危険な状況にいます」
「えっ」
「オーク国は戦に特化された価値観で構成された世界です。王立国的な見方でいうと、極めて男尊女卑の傾向が強い。つまり、まだ誰の妻でもない、生まれも姿も優れたあなたは、僕の兄達に狙われる可能性が高いのです」
ハイクさまが深刻そうな顔をして悩んでいる。婚約という価値観がない。その発想はなかった。異文化間ではおきがちな価値観の相違、まさかここまで大きく変わるとは思ってもいなかった。
そんな重たい空気の中、ドンと扉が大きな音を立てて開き、巨大で筋肉質なオークが部屋に入り私達を見下ろした。