第六話:力になりたい
言い終わった後、すべてが終わったと思った。
「っっつ!!、失礼しました。初めてお会いしたのにこんなこと、、、つ、次はちゃんとやります!!」
私が頭を下げる。背中に嫌な汗が流れるのを感じる。相手はたとえ弱小国のオークの一族とはいえ、相手は王子。下手をしたら外交問題にも発展する。勅令の縁談が即日破綻となれば、レッドロータス家には大きなリスクと傷がつく。軽率な自分に嫌気がさした。
「あ、頭をあげてください、ジニー様」
ハイク様がまるで壊れやすいガラス細工を支えるように、優しく私の手を取って言った。
「ジニーさまのことは、オークの国でも、沢山ききます。あたまがよくて、うつくしく、気だかい。そんな女性だときいていました」
否定はしないが、改めて人から言われると頬が熱くなった。まあ、その通りだ。という風に胸を張って言えるように、常に心がけて努力はしてきたけれど。面と向かってこんな素直な褒め言葉をいただいたのは、久しぶりな気がした。家族は厳しく、今までの婚約者達からは罵倒されてばかりだったから。
「だからボク、びっくりして、なんでジブンが、と思いました。だから、ジニーさまの今の言葉、嬉しかったです。ありがと、ございます」
そう言って、ハイク様は笑顔を見せた。卑屈な笑顔ではなく、心からの笑顔。捉えようによっては罵倒にしか聞こえないのに、素直な方だなと思った。
「ゆうき、でました。ボク、決めました」
「?」
「ボク、あなたに見合う、立派な男に、なります。あなたが、恥ずかしくない、立派な男に」
あ、この人、伸び代凄いな。私はその素直でまっすぐな言葉を聞いて思った。人間とオーク、私達二人は別種族だ。容姿は大きく異なる。だけど、この人の心は人間の私から見ても、とても綺麗だと思った。私はなんだか、この人の力になりたい。素直にそう思った。
こうして、私とオークの王子、ハイク様の婚約生活が、正式に幕を開けた。