第五話:血を流しても涙は流すな
「あ、あの」
「はい。どうなされましたか?」
「ごめんなさい、、、」
「、、、えっと? それはどういう、、、?」
「ぼ、ボクみたいなダメな男に、あなたみたいな素晴らしいおかたが、一緒になっていいわけが、ないです」
「、、、、、、」
「ごめんなさい。ボクなんかで、、、」
「、、、、、、」
私にはあまり好き嫌いがない。ご飯も人も住む場所も、大体3日もあれば慣れてくる。でも、私が嫌い、というか大嫌いなことが一つだけあった。
「ハイク様」
「え、あ、はいです」
「なぜ、謝るのですか?」
「え、?」
「なぜ、あなたが謝るのですか」
「なんでって、だってボクみたいな、、、」
私はため息をついて、言葉を選びながら口をひらく。
「これから長い付き合いになると思うので、初めに申し上げておきます」
「はい」
「私、「ごめんなさい」という言葉が、だっいきらいなんです」
「え?で、でも、、、」
「「でも」も嫌いです。なぜだかわかりますか?」
「え、えっと、、、わからないです」
「素直でよろしい。そういう類の言葉を私が嫌いなのはですね。相手に失礼だからです」
「え?」
ハイク様は予想外という表情で私を見た。
「ごめんなさいという言葉を使う時、ハイク様はどう思って言いますか?」
「え、えっと。相手に対してごめんなさい、という気持ち、です」
「ではなぜ」
「え」
「なぜ今、あなたは「ごめんなさい」と言ったのですか」
「それは、ボクがダメなオークで、才能も力もなくて、、、、」
「私は」
怒りを抑えつつ、私は続ける。
「私は、自分のことを誇りに思っています。自分自身の行ってきたことに自信を持っています。産んでくれた両親に感謝して、生を受けたことに感謝して、人生における選択は自分のできる最善手を打ってきました。たとえその努力が実らなくてもです。だから私は、反省はしても後悔はしませんし、今死ねと言われてもいい。そんな気持ちでいつも生きています」
「は、はいです」
「だから私は、失敗しても「ごめんなさい」とはいいません。なぜなら、私は自分にできることを、悔いのないように決断したからです。失敗した時は、謝るのではなく、それに対する責任を負うことと、それが二度と起きないように対応できる力を示す。失敗に対する贖罪に必要なのは、泣き言を言うことではなく、「次はちゃんとやります」という覚悟と意志です」
「、、、、、、」
「生きると言うことは理不尽の連続です。うまくいかないことが起きるのは当然です。あなたは仮にもオークの国の王子でしょう。もっと胸を張って生きるべきです。「自分なんか、、、」みたいな言葉、気軽に話してはいけません。少し話しただけでわかります。あなたは善い方です。自信を持ってください」
話している途中、自分が出過ぎた真似をしていると気がついていたが、止まらなかった。
これは父の言葉だ。私がいつも言われていた、子供の頃、周りのやっかみからくるいじめで孤立し、泣いていた時、父に言われた言葉だった。
レッドロータス家の家訓。「血を流しても涙は流すな」という教えだった。
なぜか、小さな頃の泣いていた自分と、目の前のハイク様が重なった。
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