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9.揉め事と勘違い

 ソルが目を覚ましたのは、まだ太陽の光が少しも無い真夜中だった。

 夢の中の出来事は、まだ鮮明に覚えていた。苦しい感情を何かで紛らわしたくて、ソルは体を起こした。


 と、そばで寝ていたはずのセレスとレピオスがいない事にソルは気が付いた。周りを見渡すと、遠くにぼんやりと明かりが見えた。ソルはなんとなくその明かりの方へ近付いて行った。


「どう……つもりで……!? もし……たら……。彼……知れば……」

「だから……会わせ……。あなた……上手く……」


 聞こえて来た声は確かにレピオスとセレスの声で、けれどもソルには何を言っているのかハッキリとは聞こえなかった。ただ、何か揉めているようにも聞こえた。何を話しているのか気になって、ソルはこっそりと近付く。


「ソ、ソル! 何してんの!?」


 と、背後からの声に、ソルの体は大きく跳ねた。振り向けば、一人ぐっすり眠っていたはずのカーラがそこにいた。カーラはどうしてか、慌てて走ってきたように息が荒かった。


「ちょ、カーラ! 静かに! なんか二人が話してて……」

「あっ、ええっと、それは……。もしかして、勝負の申し込み!? ボクを差し置いて、ズルいよ!!」


 驚くほど大きな声で言うカーラに、ソルは焦る。カーラの発言はカーラらしくて少し笑ってしまいそうになるが、二人の話をこっそり聞こうとしたことをバレたくはなかった。


「い、今は静かにしてくれって! それになんだか揉めてる感じが……」

「お二人はそこで何をしているのですか?」


 と、奥で話していたはずのレピオスが、怪訝そうな顔でこちらに歩いて来ていた。恐らくカーラの声に気付いたのだろう。一瞬誤魔化そうと思ったが、更に墓穴を掘りそうな気がして、それならば直接聞いてしまえとソルは口を開いた。


「い、いやー、なんか目が覚めちゃってさ! って、レピオスこそ、セレスと何話してたんだよ。なんか揉めてたみたいだけど」


 きっとソルであれば、こういう時はまっすぐ本人に聞くだろう。そんなソルの言葉に、レピオスはじっとソルの方を見た。


「……揉めている、とは?」

「あっ、いや……。何言ってんのかまではわかんなかったけどさ! なんか深刻な感じでセレスと話してたから……」


 ソルの言葉に、レピオスは暫く何かを考えるように目を閉じた。そして、大きなため息を付いて口を開く。


「……あなたの事をセレスに確認していました。流石に長い間目を覚まさなかった体で、面倒事に巻き込むわけにはいきませんので」

「へ? 俺の事? でも、見ての通り俺は元気で……」


 意外にもレピオスの口から出たのはそんな言葉で、ソルは首を傾げた。そんなソルに、レピオスは再び大きくため息をついた。


「あなたに聞けばそう言うと思っていました。そして、どうせもう大丈夫だからと一緒に来ようとするでしょう。だからどうしてこのタイミングで連れてきたのかと、セレスに文句を言っていたのです」


 なるほどとソルは納得した。レピオスはなんだかんだ心配性なのだ。体調が悪い人がいたら、体調が悪いまま行動するのは非効率だとか、早く治すのが結果的に効率が良いとか言いながら、体調が悪い人を休ませて一番に看病してくれるのだ。

 けれども、ソルは本当に元気だった。ここが前世の世界なら、長く眠っていたことで体力が落ちただのなんだの問題が起こっていただろう。

 けれどもここはあくまでゲームの世界。だから動けているのだとソルは信じて疑わなかった。ソルの頭の中は、裏ボスのストーリーを早く進めて本当のハッピーエンドの世界を見たいという気持ちで溢れていた。


「いや、ほら! ほんとに俺は元気なんだって! セレスも俺の動きを見てるから、きっと大丈夫だとわかって……」

「あなたがどれだけそう言っていても、自覚のない所に影響が出ている可能性もりますからね。だから朝にでも、一度あなたの体をくまなく検査させてください。話はそれからです」

「あはは、お手柔らかに……」


 レピオスの圧に少したじろぎながらも、確かに検査は大事かとソルは一人納得した。

 そしてソルは、レピオスの後ろで何も言わずに自分の姿を見るセレスと目が合った。セレスはどうしてか、満足そうな顔をしてソルを見ていた。それを見て、先ほどレピオスとやり取りしていた件は深く気にしなくても大丈夫そうだと、ソルはぼんやりと思った。





 次の日の朝、ソルはレピオスに全身の検査をされた。とはいっても、前の世界のような物理的な検査や高度な機械を使ったような検査は無く、目視の検査や触診以外は体に魔力を流しての検査だった。

 そうしてソルの体が全く問題のない事を確認した後、昨日話せていなかった本題に入った。


 レピオスの話では、やはり城から禁術の書が盗まれたという。そしてシナリオ通り、禁術である死者蘇生が使われた痕跡が現れた。城にいる魔術の専門家によっておおよその位置が割り出され、その痕跡は崩れた場所を除く各塔にあることまで明らかになっていた。

 そして、魔王討伐を成し遂げたセレス達にもう一度塔へ行って調査してほしいと頼むことになった。シナリオ通り最初セレスに連絡をしたが音信不通だったため、レピオスに連絡がいったという。


「と、いうことで、私とカーラで調査に行こうと思っていたのですが……」

「俺も行く! 死者蘇生の術が塔で使われたってことは、四天王に関わる可能性が高いだろ! 四天王が生き返ってる可能性もあるしな! そう考えると戦力も多い方がいいし!」


 やけにソルの反応を伺いながら話すレピオスに対し、ソルはなんとか付いていく了承を貰えるように、そう言った。せっかく裏ボスに関する物語が始まるというのに、目が覚めたばかりという理由で置いてきぼりは嫌だった。

 そんなソルの言葉に、どうしてかレピオスは少し何かを考えるように目を閉じたあと、再び口を開いた。


「……そうですね。確かに、四天王が生き返っているという可能性は、十分にありますね」

「そうだろ!? だから、俺もいた方が……」

「私はソルが行きたいというのなら、反対はしないわ。べへが生きていることは確かなわけだし、下手にソルを置いて行って一人で動かれると危険だもの。それなら、一緒にいた方がソルを守れるわ」


 思いもよらないセレスの言葉に、ソルは慌てる。なるほど、ソルが付いて行くことを三人が不安に思っている理由は、ソルがベヘに負けたと思われているからなのだとソルは思った。


「待って、あの時は突然だったから対応できなかっただけで、俺も普通に戦えば……」

「そうね。ソルは強いわ。けれども、ソルをあんな目に合わせたべへを、私は許せない。べへには、ソルをあれだけ危険な目に合わせたことを、後悔させてあげないと」

「ちょ、セレス……?」


 ソルは、セレスが言いそうにもない発言に、少し動揺した。セレスはあくまで正義のために戦うキャラであり、復讐を目的として戦うイメージはなかった。


「いいね! それ! 悪は倒す!」

「そうよ。悪は倒さなければならないの」


 無邪気なカーラの言葉と、それに同調するセレスの言葉に、自分の思い違いかとソルは思う。ただセレスは、正義の心でそう言っただけ。ソルはそう思った。

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