77.終わる世界
セレスの魂と一緒に元の世界に帰る。その言葉を聞いたとき、優人の胸は大きく鳴った。まだ声からの返事も聞いていないのに、どうしてか全てが繋がってしまった気がした。
「ま、待って! それだと今いる世界は消えて、それで……」
「私はかまわないわ。あの世界に未練なんて無いもの」
「でも、セレスは良くても、レピオスとカーラは……」
「聞いてみなきゃわからないわ。それで駄目なら、また死んでここに来ればいい」
「それは……」
こんな我儘、自分で決めていいのだろうか。そんな事を思う後ろで、元の世界でもセレスと一緒にいたいという別の自分の叫びが、聞こえた気がした。
「いい、のかな」
「いいわよ。だってこの世界の主人公は、優人なのでしょう?」
「俺が主人公。俺は……、俺の想いは……」
優人は、小さく息を吸う。どんな言い訳を考えても、心は決まっていた。
「また生まれ変わっても、セレスと一緒にいたい」
優人がそう言えば、あの声の笑う音が何もない空間に鳴り響いた。嘲笑うわけでもない、ただ純粋に面白いものを見たという笑い声だった。
「まさかこんなに面白いエンドを迎える者がいるとは。私の担当した中で初めてだ」
「それなら……!」
「かまわん、かまわん! セレスといったか。彼女の魂と一緒に、おまえの魂を元の世界に返そう。望むなら、ここに来てはいないあやつらも一緒に返すしてもいい。なあに、別に特別扱いではない! たまにこういった世界で、物語の登場人物に魂を持つ者もいてな! そういった魂を、現実世界で足りなくなった時に使うこともあるからな! そうでないと、魂が地獄へ行けば戻す魂の数は減るばかりだ!」
その声の言葉を聞きながら、ああ、これが答えだったのだと、放心状態になりながら優人はセレスを見た。セレスも、少し得意げな顔で優人を見る。
「これならできると思ったわ! だって私の魂がここに来れているもの! それなら、元の世界に行けないはずはないわ!」
「あはは、確かにそうだな!」
と、意識がどこかに溶け始める。きっと、レピオスとカーラが死者蘇生を始めたのだろう。
「約束よ! 絶対、絶対、来世でも、優人と一緒にしてね!」
セレスの言葉を聞きながら、優人の意識は完全にどこかへ解けた。
◆
目を覚ませば、青空が見えた。雲一つない青空だ。エンディングを迎えるに相応しい空なのだろうと、優人は思う。
隣で、セレスも目を覚ましたのか、ゆっくりと体を起こした。
「良かった。無事、成功ですね」
「それで!? それで!? この世界はどうなったの!?」
カーラの言葉に、優人とセレスは顔を見合わせ、そして頷く。大丈夫、これはきっと、夢ではない。
「……ごめん、世界が終わる事は変わらない」
「えっ……」
「でも、二人には選んで欲しいんだ。俺の魂と一緒に俺のいた世界に行くか、この世界と一緒に消えるか」
優人の言葉に、レピオスとカーラは顔を見合わせる。そして、二人ともフッと笑った。
「なるほど、私達は作り物ではなくなるというわけですか」
「行く! 絶対に行く! 優人の世界、行ってみたい! どうせ消えるなら、絶対にその方がいいよね!」
「ね、優人。言ったでしょう? 聞いてみなきゃわからない、って」
まさかの、悩みもしない二人の答えに、優人は少し動揺する。
「ま、待って! 本当にいいの!? 二人には、この世界に家族とか、友達とか、師匠とか……」
「あー、それは……。なんとかならないの!? よくわかんないけど、何とかなる気がするんだけど!」
「えっ、ええ……!? それは流石に……」
無理だ。そう言おうとした優人の手を、セレスは優しく握る。
「大丈夫よ、優人。だってこの世界は、優人が主人公だもの。優人にとってのハッピーエンドって、なあに?」
セレスの言葉に、優人は何となく頭をかいた。こんなの、ご都合主義すぎるハッピーエンドだ。けれども、願わずにはいられなかった。
「皆の望む人も一緒に、元の世界に行くこと、かな」
「それならきっと、大丈夫ね」
セレスの言葉に、優人は思わず安心して笑ってしまった。
ああ、終わる。
優人はなんとなく、そう思った。きっともう、終わるのだ。
「あ」
と、優人はふと一つの不安が頭をよぎり、セレスの方を向く。
「元の世界だと、盗聴とか監禁とか絶対駄目だからな!」
「えっ、そうなの……?」
「絶対、絶対駄目だから! 犯罪になって、警察ってやつに捕まっちゃうからな! そしたら、俺と会えなくなっちゃうから!」
「そんな……。それは嫌だわ……」
泣きそうになるセレスを見て、やっぱり言っておいて良かったと優人は思う。きっと、来世でもやるつもりだったのだろう。
「で、でも……! 合意の上だったら……!?」
「えっ……!?」
「合意でも、駄目なの……?」
「そ、それは……、多分大丈夫……。いや、法律詳しくないからわかんないけど……」
「法律……。そう、法律を勉強すればいいのね……」
寧ろ余計な事を教えてしまっただろうか。そう思いながらも、きっと来世もセレスの願いを受け入れてしまうのだろうと優人は思う。
その隣で、カーラが興奮したように言った。
「それより、優人の世界では、強い人沢山いる!? 来世でもいっぱいバトルしたいな!」
「はあ……。来世でも、苦労は確定ですか……。とりあえず、私は誰が怪我をしてもいいように、来世でも医療を勉強することにしましょう」
そんな会話を聞きながら、気が付けばこの世界は光で満ち始めた。ああ、きっと今、本当に物語は終わるのだろうと優人はぼんやりと思う。四人で来世の夢を思い描き、語り合う。ラストにピッタリではないか。
ああ、でも、自分は主人公だから。だから、最後は自分が締めなければいけない。ちゃんとまた、会えるように。
「じゃあ、来世で、またな」
優人はそう言って、笑った。




