75.魔王と魔族
いつものように全員にバフをかけて、小型の魔物を倒しながら魔王のいるであろう場所に向かう。優人が魔王と対面するのは、この世界に来て初めてだった。
魔王は、黒いマントと兜をかぶり、素顔は見えない。そして一言も話さないから、『リアンズ』の中では全ての物語が終わった後に締めとして戦うボスのような立ち位置だった。
設定は、少しだけあった。存在だけでこの世のエネルギーを吸い取り、力にし、世界を狂わせる脅威。
けれども、緑の血の話を知った今、気になる事があった。
「魔王って、どういう存在なんだろうな」
「存在、ですか? 魔王と呼ばれるぐらいだから、王なのでは?」
レピオスの言葉に、優人はあまり納得できず言葉をつづける。
「いや、だってさ。魔王のしてることって、実際魔族にとってもあんまいい生活になんないじゃん? まあ、人間がいなくなるならいいのかもしれないけど」
「確かに、そうですね」
「まっ、昔物語としてこの世界を楽しんでた、俺の単なる興味だけど。元々、魔族の設定って全然明かされてなかったんだ。特に魔王ってあんましゃべんないから、緑の血の話を知っちゃったから、なんか気になっちゃって」
レピオスとの会話に、隣で聞いていたセレスが優人を見る。
「優人は、その理由によっては、魔王を生かしたいの?」
「いや、流石にエネルギーは吸い取られるし、魔物を沢山出すことを考えると、共存はできないと思ってる。ほんと、俺の興味」
「魔王は、魔族が作った、生物兵器。今は、私しか、知らない」
と、突然後ろから聞こえた声に、四人は構えた。
「レヴィア……! じゃあ、やっぱりべへが生贄に……」
優人の言葉に、レヴィアは俯く。
「そう。べへは、生贄になって、もういない。ベヘは、知らなかった、から。だから、私達、守ってくれる、期待、してた。でも、もう……」
「だったら、心置きなく魔王を倒せるね!」
そう言って、カーラが一歩レヴィアに向かって前に出る。
「ボクがレヴィアを引き付けるから! だから皆は、魔王の方をお願い!」
「そうですね。お願いします」
レピオスの言葉に、カーラ以外の三人はレヴィアに背中を向ける。確かに、レヴィアの足止めはカーラが適任だろうと優人は思う。火力もあり、そして属性があまり関係ない分、水との相性はあまり関係ない。そして一番火力のあるセレスは、魔王戦に残しておきたかった。
魔王の所には、すぐに辿り着いた。1対3で一人少ない状況。けれども、全員攻略方法が頭に入っているから、苦戦する事は無かった。
「気は抜かないでくださいね。あくまで作戦通り、レヴィアからの攻撃、純粋な魔法攻撃だけでなく足が突然取られる可能性もありますから、気を付けてください」
レピオスの言葉に、優人とセレスも頷いた。けれども、いつまでたってもレヴィアからの攻撃は来なかった。流石に余裕は無いのだろうか。そう思って、優人はチラリとレヴィアの方を見る。
あれ、と、優人は思う。レヴィアは、受けに徹底しているだけで、ほとんど攻撃をしていない。攻撃したとしても、あまり強くない攻撃だけだ。
強い攻撃魔法を放つには、確かに少し時間がかかる。けれども、同じ魔法をメインで戦ってきたからこそ、レヴィアの行動に違和感があった。
「ブラスト!!」
優人はレヴィアに向かって爆発攻撃を放つ。その瞬間、レヴィアは近くにあった木にぶつかり、そのまま地面に落ちた。
「優人、ナイス! 後はとどめを……」
「待って! ちょっとレヴィアと話させて!」
優人はそう叫んで、レヴィアの前に行った。
「で、でも……」
「ごめん。ちょっとだけ。ヤバくなったら呼ぶから。そもそも、俺がやられても関係ないし」
カーラは少し考えた後、何かに気付いたのか、レヴィアを見て頷いた。
「わかった! でも、無理しちゃ駄目だからね!」
「うん。ありがとな」
そう言って、優人はレヴィアの前に立つ。
「なに? 話すこと、無い」
「なあ、なんで自己再生、しないの?」
優人の言葉に、レヴィアは一瞬大きく目を見開き、そして目を逸らす。
「別に、あなたには……」
「もしかして、死にに来た?」
優人の言葉に、レヴィアは俯いた。
「ベヘ、いなくなった。もう、私だけ、生きてる意味、ない。あなた達も、私、死んだ方がいい。そう、でしょう?」
レヴィアの言葉に、優人は困ったように笑った。実際そうであって、そうでない。神様が認めてくれるかはわからないけれど、敵が全員死ななければ、物語は続くかもしれない。
「ずっと疑問だったんだけどさ。なんで生き返った後、べへと二人で逃げなかったの?」
「えっ……?」
「だって、この国にいたら絶対に二人を倒しに来るじゃん。一度魔王が倒された時点で、勝ち目なんてほとんど無かっただろうし。それとも、どうしても赤い血の人間を倒したかった?」
レヴィアの目が揺れた。
ずっと、レヴィアからは自分達に対し強い憎しみを感じなかった。ベヘからはずっと、感じていたのに。
レヴィアは、静かに口を開いた。
「私、ベヘがいたら、それで、良かった。あの子、明るくて、前向きで、楽しくて。だから、ベヘのため、頑張った。ただの、魔王という名前の兵器には、興味ない。赤い血との共存も、諦めてる。ただ、べへと、いたかった」
「じゃあ、それこそ、逃げなよ」
優人の言葉に、レヴィアは顔を上げた。
「でも、ベヘは」
「ベヘを死者蘇生すればいいじゃん。俺達も、レヴィアがこの国よりずっと遠くに行ったら、何しても追えない」
「それ、あなた、メリット、ある?」
レヴィアは訝しげに優人を見る。確かに、敵だった自分を逃がそうとする優人の姿は、何か裏があるようにも見えただろう。
「んー、レヴィアが生きてたら、禁術の痕跡を全部魔族のせいにできるからかなー」
「あなた、嘘、下手。でも、断る理由、無い」
そう言って、レヴィアは自己再生を始める。そんなレヴィアを見ながら、優人は口を開く。
「一つだけ。俺を死者蘇生して、魔王は消えた。パズを死者蘇生する時、多分レヴィアが消えるから気を付けて」
「わかった。でも、きっと私達、魔物でしか死者蘇生、できないから」
レヴィアは嬉しそうに、自分の体を見た。
「だから、私も魔物で、死者蘇生したら、全員お揃い、なれる。いい、それ」
そう言いながら、レヴィアは自己再生の終えた体で立ち上がる。
「でも、どうして今まで、思いつかなかった。あなたの言葉、世界、広がった。べへにも、生き返らせたら、言わなきゃ」
それは、きっと強制力があったからだろうと優人は思う。ある意味、四天王はこの世界の強制力に思考を奪われた被害者だったのかもしれない。
「ありがとう」
そう言って、レヴィアはどこかに消えた。




